スイスの視点を10言語で

農薬を使わない農業を 食料安全イニシアチブが国民投票へ

イニシアチブの発起人は、毎年2千トンに及ぶ農薬がスイス国内で使われ、その85~90%が農場で消費されていると主張する
イニシアチブの発起人は、毎年2千トンに及ぶ農薬がスイス国内で使われ、その85~90%が農場で消費されていると主張する Keystone

農薬や抗生物質を使う農家への補助金カットなどを求めるイニシアチブ(国民発議)「クリーンな水を全ての人へ」について、発起人らが国民投票に必要な11万4420人の署名を集め、連邦内閣事務局へ提出した。今後国民投票が実施される見通し。

 イニシアチブ外部リンクは、国内の農家が安全な食品とクリーンな飲料水の供給に寄与するよう、連邦政府が主導しなければならないとしている。

 現在、国内の農業生産者への補助金は総額28億フラン(約3220億円)に上る。ほとんどの農家は「必要な生態系サービス」と呼ばれる、生物多様性の保全、動物の適切な飼育、輪作の促進などの最低基準を満たすよう義務付けられている。一方、今回のイニチアチブでは農薬を一切使わない農業生産を目指し、家畜はその農場で生産された飼料を与えなければならないとしている。

 イニシアチブでは病気の予防目的で、あるいは日常的に家畜に抗生物質を使う農家については補助金を支給しないよう求めている。農業関連の研究、訓練、投資の実施についてもこれらの基準に照らして判断するとしている。

 イニシアチブは環境保護団体のグリーンピース・スイス、バードライフ・スイス、スイス釣り連盟などが主導。イニシアチブの発起人らは、毎年国内で計2千トンの農薬が使われ、その85~90%が農場だと主張。病気を防ぐ目的で計38トンの抗生物質が家畜の牛に投与されているという。発起人らは、農場で農薬や抗生物質を頻繁に使用すると川や地下水の汚染につながるほか、生物の多様性が破壊されると警告する。

農薬か、生産性か

 昨年9月、連邦政府は今後10年間、持続可能な農業政策により長期的な水質土壌汚染リスクの5割削減を図る行動計画を策定したと発表。しかし、連邦経済省農業局は、農薬なしで行動計画を実現することは不可能だと主張する。

 スイス農家・酪農家協会(SBV/USP)も農薬の使用量を減らすことには賛成だが、全面禁止には反対の立場だ。同団体は昨年6月、農薬を全面禁止すれば収穫量の2~4割減は避けられないと述べた。USPのマルクス・リッター組合長は、スイスの食品業界は原材料の安定供給を求めていると強調し「オーガニック食品は農薬なしでは作れない」という発言まで飛び出した。

 スイスでは、合成農薬の輸入・使用の全面禁止を求めた別のイニシアチブも出されており、現在、国民投票の実施に必要な署名集めが行われている。

 昨年の世論調査では、国民の65%が、地元の農家に農薬の使用量を減らして欲しいと答えた。

(英語からの翻訳・宇田薫)

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

机に座るスーツ姿の男性

おすすめの記事

スイス、ロシアに追加制裁 輸出規制を強化

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦政府は16日、ウクライナに侵攻するロシアへの追加制裁を発表した。ロシアの産業・軍事・技術に必要な製品の輸出規制が強化されるほか、政党、NGO団体、報道機関がロシア政府からの寄付を受け取ることが禁止される。

もっと読む スイス、ロシアに追加制裁 輸出規制を強化
パン屋の陳列棚

おすすめの記事

チューリヒの一等地にパン屋開業 高級街に転機か

このコンテンツが公開されたのは、 高級ブランドが立ち並ぶチューリヒのバーンホフ通りにパン屋が開業し、大きな話題を呼んでいる。通りを象徴する百貨店の撤退や再開と合わせ、街の大きな転機になるとの指摘もある。

もっと読む チューリヒの一等地にパン屋開業 高級街に転機か
カメラ目線で微笑む女性の顔

おすすめの記事

チューリヒ映画祭、最優秀賞にルンガーノ・ニョニ監督 伊藤詩織監督作品は2部門受賞

このコンテンツが公開されたのは、 第20回チューリヒ映画祭(ZFF)が10月3日~13日開かれ、ルンガーノ・ニョニ監督のコメディ映画「On Becoming a Guinea Fowl」が最優秀作品賞を受賞した。2位には伊藤詩織さんが監督したドキュメンタリー映画「Black Box Diaries」が選ばれた。

もっと読む チューリヒ映画祭、最優秀賞にルンガーノ・ニョニ監督 伊藤詩織監督作品は2部門受賞
ETHの校舎

おすすめの記事

世界大学ランキング 連邦工科大学チューリヒ校は欧州1位

このコンテンツが公開されたのは、 英教育誌「タイムズ・ハイヤー・エデュケーション(THE)」が9日発表した世界大学ランキング(25年度)で、スイス連邦工科大学チューリッヒ校が前回に続き11位にランクインし、欧州内では1位の評価を獲得した。

もっと読む 世界大学ランキング 連邦工科大学チューリヒ校は欧州1位
チーズのにおいをかぐ審査員ら

おすすめの記事

スイスでチーズ品評会 最優秀賞決まる

このコンテンツが公開されたのは、 スイス南部ティチーノ州ルガーノで開かれたチーズ品評会「スイスチーズ・アワード」で4日、1100品を超えるチーズの中から、最も優れた3品が選ばれた。

もっと読む スイスでチーズ品評会 最優秀賞決まる
事件現場

おすすめの記事

チューリヒ、男がナイフで園児襲撃 命に別状なし

このコンテンツが公開されたのは、 チューリヒ市北部で1日、路上を歩いていた園児の集団に男が刃物で切りつけ、子ども3人が負傷した。チューリヒ市警察は中国人留学生の男(23)を逮捕した。

もっと読む チューリヒ、男がナイフで園児襲撃 命に別状なし
氷河

おすすめの記事

氷河の融解でスイスとイタリアの国境に変化

このコンテンツが公開されたのは、 スイスはイタリアとフランスとの国境を変更した。イタリアとの国境は氷河の融解、フランスとの国境はジュネーブ地方の新しい路面電車と河川にそれぞれ関連している。

もっと読む 氷河の融解でスイスとイタリアの国境に変化
スイス中銀

おすすめの記事

スイス中央銀行、0.25%の利下げ

このコンテンツが公開されたのは、 スイス国立銀行(中銀、SNB)は26日、政策金利を0.25%引き下げ、1%にすると発表した。

もっと読む スイス中央銀行、0.25%の利下げ

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部