不法移民の支援、罰則規定はそのまま
スイスで不法難民を支援すると、たとえ純粋に人道的な理由があったとしても法律違反で処罰される恐れがある。連邦議会は「高尚な理由」に基づく場合を刑罰の例外とする改正案を否決した。
「ソリダリティー(連帯)罪」はスイスからなくならない。今月初め、スイス国民議会(下院)は外国人統合法第116条外部リンクの改正を求める議員発議を否決した。不法移民を「高尚な理由」に基づいて手助けした人を処罰の対象外とする改正案だった。
採決では賛成が89票、反対が102票、棄権が1票だった。
社会民主党のサミラ・マルティ議員は「スイスではプロの人身売買業者と、人道上の理由で活動する人々が区別されない」と指摘する。「活動家や教会の信者を人身売買業者と一括りにしている」
外国人統合法第116条第1項a
「スイス国内または国外において、外国人のスイスへの違法な入国、出国、居住のほう助またはその準備を手助けした場合、最高1年の懲役または罰金刑が科される」
マルティ氏は、ヌーシャテル州のノルベール・ヴァレー牧師の例を引き合いに出した。牧師は難民申請が却下され、他に拠り所のなかった亡命者を教会で寝泊まりさせた罪に問われた。
隣人を愛せよ
「スイスは、隣人を愛するように説くキリスト教の価値観に支えられた国だ」。緑の党のカタリナ・プレリツ・フーバー氏はコメントした。「私たちは、困難にある誰かに寄り添う人を犯罪者にするべきではない」
ところが、右派の政党に限らずキリスト教民主党も改正案に反対票を投じた。
同党のゲルハルト・フィスター氏は「今日では裁判官に裁量の余地があり、刑罰を減免できる」と説明した。
国民党のジャン・リュック・アドール氏は「法を骨抜きにするような抵抗力に権限を与えたくない」と主張した。
妥協しないスイス
国際人権団体「アムネスティ・インターナショナル」の欧州8カ国(スイス、クロアチア、フランス、イギリス、ギリシャ、スペイン、イタリア、マルタ)合同調査外部リンクによると、スイスは不法移民を手助けする人に最も厳しい国だ。
2018年に外国人統合法第116条違反で有罪判決を受けた人は972人にのぼる。
有罪判決の圧倒的多数は、連帯の理念から手助けした個人だ。人身売買・密輸業者など「悪質」とみなされたのは32件にとどまった。
アニ・ランツさんは、亡命途中で病気になり、イタリアからスイスへの路上で睡眠をとらざるを得なかった難民申請者を助けたことで処罰された。また別のケースでは難民申請者のヴァレリーさんが不法移民の友人に滞在場所を与えたことで、罰金刑に処され前科が付いた。
アムネスティ・インターナショナルのリム・カドラウィ氏は、スイスの立ち位置は他の国に比べて厳しいと指摘する。たとえばフランスでは、越境に関しては免除規定がないが、国内では人道的理由による手助けは刑罰が免除される。
最も弱い人たち
カドラウィ氏は「衝撃的だったのは、居住権が危うく非常に弱い立場にあるのに、有罪判決を受けてしまった非スイス人の多さだ」と話す。「彼らにとって、それは二重の罰だ」。最終的な略式判決は通常の対審プロセスを経ずに、検察官の判断にのみ基づいて下されるスイスのシステムの特殊性も指摘する。
「これは司法制度を拘束するものではないし、これまでに下された非常に多くの有罪判決の説明もつく」とカドラウィ氏は話す。「スイス当局は、この法律を密輸業者と戦う手段としてではなく、移民管理のツールとみなしている」
アムネスティは、スイスの外国人統合法改正を支持した。カドラウィ氏は、この問題がシェンゲン・ダブリン協定の枠内で解決されるべき欧州全体の問題であると指摘している。
「国家は、人道主義の免除が義務的かつ非裁量的であることを保証するために、責任を拒否せず、2002年の指令の修正に合意しなければならない」(カドラウィ氏)
アムネスティは、スイスや他の欧州諸国に対し、国連の移民の違法取引に関する議定書を尊重するよう呼びかけている。同議定書の「違法取引」には連帯行為は含まれない。
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(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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