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スイス主催のウクライナ復興会議、どこまで達成できるか?

ウクライナ
ウクライナの首都キーウの街を歩く女性 Keystone

スイス南部ルガーノで今月上旬、ウクライナ再建への道筋を探る主要国際会議が開かれる。しかしウクライナの一部地域でまだ戦闘が続き、汚職への懸念も残る。復興は「言うは易く行うは難し」となるかもしれない。

国連開発計画(UNDP)ウクライナ常駐代表のマナル・フアニ氏は、「依然として最優先課題は戦争を終わらせることだ。戦争が終結しない限り、苦しみは確実に続く。課題は日々増え、苦しみは増大している」と話す。

ルガーノで4日、5日に行われるウクライナ復興会議は、ロシアがウクライナに全面侵攻を開始する2月24日以前から開催が決まっていた。改革と民主化を目指すウクライナ政府を支援するため、2014年に発足した一連の多国間国際会議の1つだ。

ロシアのウクライナ侵攻を受け、会議の目的はウクライナの復興と開発計画を議論することへと変わった。首都キーウやハリキウなどの主要都市には空爆、ロケット弾、ミサイル砲撃などの攻撃の爪痕が残り、紛争中に避難したウクライナ市民は500万人を超える。この紛争ですでに数千人の命が奪われ、市民生活が破壊され、重要インフラが壊滅的なダメージを受けた。

スイスのイグナツィオ・カシス連邦大統領兼外相は6月20日の記者会見で、この会議は寄付イベントではなく、グッドガバナンス、地方分権、三権分立、汚職撲滅などの国家改革へのステップになるものと述べた。会議の公式サイトによれば、議論の焦点はウクライナ政府の復興開発計画や、国際的な復興支援に関する改革、優先順位付け、条件などに置かれる。

カシス氏は、この会議は「スイスが欧州の安定に貢献する責任と機会」であるとの認識を示した。

スイスが招待したのは、世界銀行と国連の要人を含む41カ国と19の国際機関。欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は出席を表明し、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領も直接またはオンライン形式で参加する予定。ほかにも民間部門の代表者が出席予定だ。

戦争終結前の復興は可能か?

識者は、停戦または和平交渉が短期で成立する確率は低いとみる。だからといってウクライナ再建の議論は時期尚早、というわけではない。ロシアとの戦闘は現在、ウクライナ東部に集中するが、その他の地域では比較的平穏なところが多く、再建は急務だ。

撤去作業
攻撃を受けたウクライナの北東地域で、がれきの撤去作業を行う人たち Keystone

フアニ氏によれば、UNDPはウクライナ政府に技術的な専門知識を提供し、復興開発計画や被害評価の策定を支援してきた。ルガーノでの会議に参加予定の同氏は、この計画は「経済、社会、環境、インフラの復興」に及ぶと説明する。効率性と説明責任に重点を置き、「人々の声」を取り入れるために幅広い協議プロセスを盛り込んだものになるという。

また、「より良い復興」を目指す今回の会議では、差し迫ったニーズへの対応を議論する必要もあると同氏は指摘する。ロシア軍が撤退した地域には既に人々が帰還しつつあり、地域の安全性の確保は重要だ。国土の大部分には今も地雷が埋まっており、民間の犠牲者も出ている。本格的な復興作業を開始するには、倒壊した建物の撤去も欠かせない。「生活や食料生産、一部の経済活動への直接的な支援を確保するとともに、補修作業を迅速に進め、インフラと公共サービスの改善を迅速に行うことが不可欠だ」

汚職撲滅

ウクライナ復興への国際支援に関しても、支援の条件や管理を巡って課題がある。

在ウクライナ・スイス大使館副大使で、今回の会議を担当するスイス特別大使のシモン・ピドゥー氏は6月20日の記者会見で、「ウクライナの復興作業の中心にいるのはウクライナだ。復興作業の推進力はウクライナであり、すべての決定はウクライナと共に行われる」と述べた。カシス氏は一方、「資金の流れの完全な透明性と監視」を復興支援の原則の1つとしてこの会議で確立すべきだと強調した。

トランスペアレンシー・インターナショナルの2021年汚職認識指数では、ウクライナは180カ国中122位。キーウに拠点を置くイルコ・クシェリヴ民主イニシアチブ財団が20年8月に行った調査では、ウクライナ人回答者の41.8%が汚職は「客観的根拠のない恥ずべき現象」と答えた一方、36%が汚職は「社会的伝統の1要素」と回答。また、公共サービスにおける賄賂は従来から問題視されており、国際資金の不正使用にも懸念が出ている。

建物
攻撃で破壊されたインフラ Keystone

UNDPのフアニ氏によれば、こうした点に関してはここ数年で改善がみられたが、国際復興資金の使用については抑制と均衡が今も重要だ。

同氏は「被害総額は6千億ドル(約81兆円)を超えるという話が最近あったが、その額は今も増え続けている」と話す。ウクライナの復興計画ではまだ資金の規模が特定されていないが、同国への国際的な資金援助の規模は明らかに巨額になるとされる。

「この会議では改革、説明責任、透明性についても取り上げられ、そのプロセスに特化したセッションが開催される予定だ。このテーマは多くのパートナーが提起したもので、(ウクライナ)政府は真剣に受け止めている」

優先順位

世界保健機関(WHO)も今回の会議に代表を派遣する。広報担当者のマーガレット・ハリス氏は、国民の健康ニーズに応える必要性を訴える。

ウクライナではロシア軍の攻撃を受けた医療施設が少なくとも295カ所あり、医療システムの再建と改善は最優先課題だと同氏は指摘する。困難な状況の中でも病院の運営が維持できているのは、献身的で有能なチームのおかげだという。

同氏はこう語る。「私たちは建物や物資といったハード面を支援しているが、最も必要とされる支援にも注目している。支援ニーズの高い分野の1つで、変化があったのが、精神的なサポートに関する分野だ。私たちが今まさに取り組んでいる分野であり、ウクライナ国民全員の支援を目指すイニシアチブを立ち上げたオレナ・ゼレンスカ大統領夫人から協力を得ている」

アルコール依存症や慢性的な精神疾患など、メンタルヘルスの問題はロシアの侵攻以前から多くあったが、「今や他の人々も恐怖や悲しみ、苦しみを経験し、精神的に大きな影響を受けている」。そのためメンタルヘルス分野に莫大な資源を投入する必要があると同氏は強調する。

建物
6月2日朝、攻撃を受けたウクライナの小学校 Keystone

そのうえ、高血圧や糖尿病、脳卒中などの非伝染性の病気を患う人も多いという。「解放地域」では全ての医薬品が略奪されたため、医薬品の補充と初期診療の拡大が必要だと同氏は続ける。「薬を手に入れられなかったために大勢の人が地下室で亡くなった。その数はおそらく砲弾や爆弾による死者数を上回るだろう」

全体的なアプローチ

フアニ氏は、これだけ多くのニーズがある中で優先順位づけについて議論するのは難しいと語る。米国在住の都市計画コンサルタントで、紛争後の復興と文化戦略を専門とするラナ・アミルタマセビ氏は、ニーズの中にはあまり顕在化していないものもあると指摘する。特に紛争地域で復興計画を成功させるには、包括的かつ全体的なアプローチが必要だと語る。

アミルタマセビ氏はこう続ける。「復興にはソフト対策とハード対策があり、この2つの歩調を合わせることで復興が可能になる。紛争の場合はこの点が特に重要となる。紛争ではコミュニティーにおける社会的結束や倫理観が壊れてしまうからだ」

ハード対策には、水や公衆衛生、交通、道路、エネルギーなど従来のインフラが全て含まれると同氏は説明する。「それらを再建する一方で、芸術・文化や教育などのソフト対策にも力を入れるべきだろう」

英語からの翻訳:鹿島田芙美

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