電子投票は有益なのか、それとも危険なのか?今のところスイス国民の意見は二分している。電子投票の主要なメリットとデメリットを5点ずつまとめた。
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年に4回国民投票があるスイス。これだけ国民が投票に出向く機会が多い国は、ほかにないだろう。それがクリック一つで投票できれば便利に違いない。
在外スイス人:電子投票に関するパネルディスカッション
電子投票は過去数年来、在外スイス人協会(ASO)にとって最重要課題の一つだ。今月、首都ベルンで開かれた在外スイス人協会の評議会では、「電子投票・チャンスとリスク」と題したパネルディスカッションが行われ、電子投票の据え置きを求めるイニシアチブ(国民発議)17.471外部リンクを推進するフランツ・グリューター下院議員(国民党)や、スイス郵便のクラウディア・プレッチャー開発イノベーション部門長が参加した。
その通り、と考えるスイス政府は、2019年から全26州の3分の2で電子投票の導入を目指す。しかしこれには批判も根強く、個人情報保護士やIT専門家は電子投票の危険性を訴える。導入に反対するイニシアチブ(国民発議)も予定されているという。
以下に電子投票の賛成派、反対派がそれぞれ訴える主要なメリットとデメリットをまとめた。
メリット1:投票が手軽になる
電子投票なら自宅や別荘から簡単に投票することができる。夜中であっても問題ない。わざわざ投票所や郵便受けへ足を運ぶ必要がなくなる。
メリット2:在外スイス人のハンディキャップがなくなる
在外スイス人は、郵便事情が悪く投票用紙が届くのが頻繁に遅れる。そうすると投票の機会すら失ってしまう。そんな彼らにとって電子投票は大きなメリットだ。
メリット3:投票率が上がる
投票が簡単になれば、投票率の向上が見込まれる。とりわけ投票率の低い若者世代は、電子投票になればより投票に参加しやすくなることが期待される。政治に参加する国民が増え、あらゆる層の声が反映されるのは民主主義的にとって歓迎すべきことだ。
メリット4:無効票が減る
電子投票には、記入ミスといった無効票がない。スイスの有権者は、選挙や国民投票で投票用紙を提出する際、記入ミスをすることが比較的多い。前回チューリヒで行われた町議会議員の選挙では投票総数の26%が無効票だった。無効票が41%に上った自治体もある。
メリット5:郵便投票も含め、絶対に安全な投票方法はない
電子投票は安全性に欠けるという批判に対し、賛成派は絶対に安全な投票方法はないと反論する。実際にスイスでは過去に数回、投票の偽造が行われたことがある。投票用紙が入った封筒を盗み、犯人が本来の受取人の署名を偽造し、投票するという手口だ。
デメリット1:投票の秘密が厳守されない
個人情報保護士によれば、電子投票では投票の秘密が守られないという。これは投票する側にとって、投票時のデータ処理が一部不透明であるためだ。現行のシステムには、ユーザー環境のプライバシーを保護する機能がない。そのため、ユーザーのパソコンがマルウェアに感染している場合、投票の秘密が漏れる危険性がある。
デメリット2:投票結果が不正操作される危険性がある
反対派が訴える最大の難点は、ハッカー攻撃や投票の買収、またはその他の不正操作といったセキュリティ上の問題だ。有権者のパソコンがウイルスに感染すると、投票内容が勝手に変えられてしまう危険性がある。犯罪者や外国の情報機関や企業によって投票結果が大規模に改ざんされれば、民主主義は終わりだと反対派は警鐘を鳴らす。
デメリット3:数え直しができない
紙に書かれた投票用紙と違い、電子投票は手動で数え直すことができない。電子投票には、これまで投票が正しい手順で行われるか互いに確認し合っていた開票作業の担当者や投票の監視役もいない。電子投票のデータは一括して集計センターに送られ、有権者は電子投票システムが出した結果を盲目的に信用するしかない。
デメリット4:電子投票は高コスト
反対派は、電子投票導入の際に発生する膨大なコスト外部リンクを指摘している。スイス全土で電子投票を導入するには、少なくとも7憶フラン(約786億円)かかるという。更に、電子投票の1票は郵送で出された1票と比べ、明らかに費用が高い外部リンクという。
デメリット5:現時点での電子投票の導入は民主主義に反する
政府は2019年から州の3分の2で電子投票を可能にする意向だが、実はまだ法的なベースが整っていない(20~21年に調整予定)。本来なら、その時点で初めて連邦議会や(万が一レファレンダムが結成される場合)有権者に電子投票の是非を問うべきだ。そのため反対派は、電子投票の導入は早計で非民主的だと異議を唱えている。
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(独語からの翻訳・シュミット一恵)
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