フランス語圏スイス公共放送(RTS)のジュネーブ放送局
© Keystone/laurent Gillieron
SWI swissinfo.chの親会社であるスイス放送協会(SRG SSR)は20日、政府が提案した公共テレビ・ラジオ受信料の減額に反対の立場を表明した。減額すれば協会全体で900人の人員解雇が必要になると算出する。
このコンテンツが公開されたのは、
スイス政府は今月8日、強制徴収の受信料の減額を求めるイニシアチブ(国民発議)「200フランで十分!」の代替案として、一般世帯の受信料を今の年間335フランから2029年までに300フラン(約5万円)に引き下げる政令改正案を提示した。
これに対しスイス公共放送協会は20日、取引先や関連企業でもほぼ同数の雇用が失われる可能性があると警告した。地方局を含め、国内の全ての拠点が人員削減の対象となる。
協会によると、受信料削減の削減により最大年1億フランの減収となる。また政府は2019年から協会への「インフレ補填金」支給を中止しており、2025年以降最大7000万フランの減収が見込まれる。広告収入の減少傾向が続いており、さらに7000万フランの減収が加わる。合わせて最大年2億4000万フランの資金不足に陥る計算だ。
協会では総支出の約50%を人件費が占める。このため協会は、あらゆるコスト削減は人員解雇を伴うと説明する。2022年の年次報告書によると、協会全体で6957人、フルタイム換算では5580人相当の雇用がある。
番組への影響の懸念
スイス公共放送協会によると、人員削減は番組編成にも大きな影響を及ぼす。
公共放送協会理事会のジャン・ミシェル・シーナ会長はドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)で、「政府の対案に従えば、2027年から包括的な履行義務を果たすことはもはや不可能だろう」と語った。
予算削減により、多くの委託制作やイベント放送ができなくなる。文化分野では教会の礼拝や音楽録音の放送、スポーツの世界・欧州選手権の開催も難しくなる。スイス映画やテレビシリーズへの出資、ラジオやテレビによる調査も減らす必要がある。
一方、履行義務を定める政府・協会間のライセンス契約は2028年まで改定されない。協会はライセンスに基づいて4つの公用語でラジオ17局とテレビ7局、10言語によるオンラインサービス「SWI swissinfo.ch」を提供している。
イニシアチブ否決を期待
協会は200フランイニシアチブに反対するという政府の決定を歓迎するが、既存の履行義務に対して政府から適切な資金提供が続くことを求める。一方、イニシアチブはあまりに過激で協会の存在を危うくするため、有権者に否決されると期待する。
アルベルト・レシュティ通信相が8日に発表した政府案は、2029年までに受信料を1世帯当たり年間300フランまで段階的に引き下げ、企業は売上高が12億フラン以下の場合は受信料を免除する。これは政府が政令で変更できるため、法的な意味の対案には当たらない。
英語からの翻訳:ムートゥ朋子
おすすめの記事
スイスの抗生物質開発企業、塩野義と研究・ライセンス契約を締結
このコンテンツが公開されたのは、
抗生物質の開発に特化するスイスの新興バイオ企業ビオヴェルシス(BioVersys)は2日、日本の塩野義製薬と共同研究・独占ライセンス契約を結んだと発表した。
もっと読む スイスの抗生物質開発企業、塩野義と研究・ライセンス契約を締結
おすすめの記事
スイス公共放送協会、大規模な組織再編計画を発表 人員削減も
このコンテンツが公開されたのは、
スイス放送協会(SRG SSR)は政府の予算削減を踏まえた組織再編計画を発表した。4言語圏の放送局のスポーツ、ドラマ、制作、配給、人事、財務、ITサービスなど各部門を縦割りで再編成する。
もっと読む スイス公共放送協会、大規模な組織再編計画を発表 人員削減も
おすすめの記事
スターリンクの衛星アンテナ設置に反対運動 スイス南部
このコンテンツが公開されたのは、
米宇宙企業SpaceX(スペースX)が運営する通信衛星「Starlink(スターリンク)」のアンテナ40基をスイス南部の村に設置する計画に対し、反対する声が上がっている。
もっと読む スターリンクの衛星アンテナ設置に反対運動 スイス南部
おすすめの記事
スイスでは現金のチップが主流
このコンテンツが公開されたのは、
スイスのレストランでクレジットカードやスマホ決済が普及しているが、チップは今も現金で払うのが主流だ。消費者の多くは、チップが確実にスタッフの手元に入るようことを重視している。
もっと読む スイスでは現金のチップが主流
おすすめの記事
プラタナス、猛暑でも冷却効果 スイスの研究
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの研究所が新たな研究結果を発表し、プラタナスは猛暑でも冷却効果を発揮することが分かった。樹木の冷却効果は30~35℃で限界に達するという既存の仮説を覆す結果が出た。
もっと読む プラタナス、猛暑でも冷却効果 スイスの研究
おすすめの記事
スイス国立銀行、政策金利ゼロに引き下げ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス国立銀行(中銀、SNB)は19日、政策金利を0.25%引き下げて0%にすると発表した。
もっと読む スイス国立銀行、政策金利ゼロに引き下げ
おすすめの記事
欧州外相、ジュネーブでイラン外相と核協議へ
このコンテンツが公開されたのは、
メディア報道によると、ドイツ、フランス、英国の外相は20日、スイス・ジュネーブでイラン外相と核協議を行う見通しだ。
もっと読む 欧州外相、ジュネーブでイラン外相と核協議へ
おすすめの記事
スイス議会、超富裕層への相続税案を否決 対案なく国民投票へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス上院は17日、超富裕層の相続に相続税を課し環境保護の財源にする案を否決した。
もっと読む スイス議会、超富裕層への相続税案を否決 対案なく国民投票へ
おすすめの記事
見えぬ障がい伝えるバッジ、試験配布開始 スイス連邦鉄道
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦鉄道(SBB)は17 日、目に見えない障がいを持つ乗客を対象としたヘルプマークの配布を試験的に開始した。外見からは分からなくても支援・配慮を必要としている人への理解を深めることを目的としている。
もっと読む 見えぬ障がい伝えるバッジ、試験配布開始 スイス連邦鉄道
おすすめの記事
ユーロスター、スイスと英国結ぶ直通列車運行へ
このコンテンツが公開されたのは、
英国と大陸欧州をつなぐ高速鉄道ユーロスターは、スイス・ジュネーブとロンドンを結ぶ初の直通列車の運行を計画している。
もっと読む ユーロスター、スイスと英国結ぶ直通列車運行へ
続きを読む
おすすめの記事
スイス政府、公共放送の受信料を300フランに減額へ
このコンテンツが公開されたのは、
スイス連邦政府は8日、ラジオ・テレビ法関連の政令改正案を発表し、一般世帯の受信料を2029年までに年間335フランから300フランに引き下げるとの意向を示した。
もっと読む スイス政府、公共放送の受信料を300フランに減額へ
おすすめの記事
メディアへの助成金は増やすべき?スイスで国民投票へ
このコンテンツが公開されたのは、
厳しさが増すメディア業界を支援すべく、スイス連邦政府は国内メディアへの助成金の増額や、直接助成金を新たに導入する方針を掲げている。その是非を巡る国民投票が2月13日に行われる。
もっと読む メディアへの助成金は増やすべき?スイスで国民投票へ
おすすめの記事
受信料は必要? 各国のメディア制度から分かったこと
このコンテンツが公開されたのは、
スイスのメディアが苦しい境地に立たされている。スイスインフォは独自の国際ネットワークを通じ、他国にはどのようなメディア制度があり、またそれがどのように維持されているのかを調査した。
もっと読む 受信料は必要? 各国のメディア制度から分かったこと
おすすめの記事
各国の公共メディア その現状は?
このコンテンツが公開されたのは、
デジタル時代における公共放送の役割について議論している国はスイスだけに限らない。スイスインフォの記者が生活し働いたことのある国々における、公共メディアの現状を見てみた。
スイス
公共メディア: スイス放送協会(SRG SSR)は国内の4つの公用言語地域で17のラジオ局と七つのテレビ局を運営。スイスインフォ(旧スイス国際放送)は同協会の国際部門で、10カ国語に対応。
歴史: SRG SSRは1931年、地域ラジオ局を一つに統括する目的で設立された。スイスのフランス語圏で開始後、すぐにドイツ語圏、イタリア語圏のラジオ局が加わった。ロマンス語のラジオ局は、ロマンス語が四つ目の公用語として公式認定された後、38年に加わった。
もっと読む 各国の公共メディア その現状は?
おすすめの記事
公共メディアと若者-ソーシャル世代から支持されるには?
このコンテンツが公開されたのは、
昨年の国民投票で、スイスの有権者が公共放送受信料廃止のイニシアチブ(国民発議)にノーを突き付けてから1年。自身に好意的な結果が出てもなお、スイスの公共放送局は若い視聴者の確保に苦慮している。
もっと読む 公共メディアと若者-ソーシャル世代から支持されるには?
おすすめの記事
デジタル化で苦戦する従来メディア、欧州では国による直接支援も
このコンテンツが公開されたのは、
大半の欧州諸国とは異なり、スイスはこれまでメディアに直接的な財政支援をしてこなかった。だが2月13日の国民投票では、オンラインメディアへの直接助成金の新規導入など、民間メディアを対象とする一連の支援措置の是非が問われる。
もっと読む デジタル化で苦戦する従来メディア、欧州では国による直接支援も
おすすめの記事
スイスでジャーナリストが激減した理由
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの報道業界の従事者数は2011~19年の間に4分の1減少した。業界は解雇とキャリアチェンジのはざまで苦境にあえぐが、今のところは他国に比べればましな方だ。
もっと読む スイスでジャーナリストが激減した理由
おすすめの記事
「強制徴収」に反対?公共放送に反対? スイスの受信料巡り座談会
このコンテンツが公開されたのは、
テレビ・ラジオの公共放送受信料の廃止を求める国民発議(イニシアチブ)「ノー・ビラグ」に、中小企業の業界団体・スイス商工業連盟は賛成している。だが、中小企業は決して一枚岩ではない。2人の論者に話を聞いた。
もっと読む 「強制徴収」に反対?公共放送に反対? スイスの受信料巡り座談会
おすすめの記事
新聞が消滅したら、その先は?
このコンテンツが公開されたのは、
スイス・メディア業界の絶望的な未来を描いた記録映画が上映されている。インターネットが普及して、至るところで無料のニュースが手に入るようになり、見極めがつかなくなった情報メディアの未来図を見つめる作品だ。メディアはそれでも、「民主主義における第四の権力」という役割を果たし続けられるのか。
もっと読む 新聞が消滅したら、その先は?
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。