スイス国民の大多数、法外な高額報酬に「ノー」
スイスで3日に行われた国民投票で、「高額報酬制度反対イニシアチブ」は賛成68%で可決。「国土開発計画法改正案」は賛成63%で可決。「家族政策に関する連邦決議」は過半数の州の反対で否決。またグラウビュンデン州は、州民投票の結果、2022年冬季オリンピック招致を断念する。
高額報酬に大多数が反対
今回の投票で最も注目を浴びたのが、「高額報酬制度反対イニシアチブ」だ。この国民発議は、株主の権利を強化することで、上場企業の経営責任者らに支払われる法外な報酬の抑制を狙ったもの。トマス・ミンダー全州議会(上院)議員(無所属)が発起人であることから、「ミンダー・イニシアチブ」とも呼ばれる。
これは、取締役会や執行役、顧問に対する報酬額は、株主総会が毎年決定することを求めている。他には、取締役の会長及び役員なども株主総会が毎年選出すること。選出作業には、企業年金組合も加盟者を代表して加わること。また、役員への退職金なども支払い禁止にすること。さらに、これらに違反した場合は、最長3年の懲役、または最高6年分の報酬額を罰金として科すことも求めている。
このミンダー・イニシアチブは、スイス全体で68%という圧倒的な賛成過半数で可決された。特に、ジュラ州では賛成約77%、シャフハウゼン州でも約76%と圧倒的な支持率だった。この結果を聞いたミンダー氏はスイス国営放送(SRG/SSR)に対し、「長い戦いが終わってほっとしている」と答えている。
ミンダー氏のイニシアチブが大きく支持された背景には、国民投票実施日の2週間前に、製薬会社ノバルティス(Novartis)がダニエル・ヴァセラ前会長に7200万フラン(約71億円)を支払うことが発覚した出来事がある。この報酬金は、ヴァセラ氏が退任後の向こう6年間、同業他社への移籍阻止を目的にしたものだったが、メディアからは非難が集中した。これが追い風となり、世論は同イニシアチブの可決へと大きく動いた。
政府および連邦議会は、報酬規定の設置や法外な報酬の返還義務付けなど、即効性や実現性を重視した対案を提示していたが、同イニシアチブ可決により棄却されることになった。中道派のキリスト教民主党(CVP/PDC)のウルス・シュヴァラー氏はスイス通信(SDA/ATS)に対し、「対案作成に4年もかかったことが、ミンダー・イニシアチブ可決の理由の一つ」と分析している。
乱雑な都市開発に「ノー」
国民に是非が問われた二つ目の法案は「国土開発計画法改正案」だ。これは、土地開発を都市に集中させることで、開発地区と農地および自然保護区の区分を明確にすることを目標にした憲法改正案だ。
この改正案が国民投票にかけられることになったのは、環境団体らが「スイスにおける建築用地の面積を、今後20年間拡大しない」というイニシアチブを国に提出していたことがきっかけだ。しかし、政府および連邦議会がこのイニシアチブの意を汲んだ対案を成立させることを条件に、環境団体らは同イニシアチブを撤回。そのため、今回はその対案が国民に問われることになった。
対案では、建築用地の面積を、今後15年間に見込まれる需要面積に抑えることが盛り込まれている。また、所有する農地が建築用地に変更され、その土地を売却ないしはその土地に建設する場合は、建築用地に変更されたことで上昇した分の地価の最低2割の納税を要求している。
結果は、賛成62.9%、反対37.1%で可決された。支持派で市民民主党(BDP/PBD)のヴェルナー・ルギンビュール全州議会議員はスイス通信に対し、「このような明らかな結果に、ポジティブに驚いている」と語り、今後どのように15年分の需要を算出するのか、各州と早急に協議しなくてはならないと述べた。
「高額報酬制度反対イニシアチブ」
賛成67.9%、反対32.1%
賛成州23州、反対州0州
投票率:46.0%
「国土開発計画法改正案」
賛成62.9%、反対37.1%
(憲法改正案ではないため、州の賛成過半数は法案成立には関係ない)
投票率:45.4%
「家族政策に関する連邦決議」
賛成54.3%、反対45.7%
賛成州10州、反対州13州
投票率:45.6%
(全26州のうち六つの準州は0.5票と計算する)
州の数で可否が分かれた家族支援法案
一方、家族支援における国の権限を強化する憲法改正法案「家族政策に関する連邦決議」は、55%の賛成票を獲得し、有権者数でみれば賛成過半数だったが、反対する州が13州で、賛成する州の10州を上回り、棄却された(全26州のうち六つの準州は0.5票と計算する)。
政府および連邦議会が提出したこの法案は、家庭と仕事の両立を支援するための国の役割りを憲法に明記することを目的にしていた。本来ならば各州に任されている家族政策に国が介入し、国が率先して各州に保育所などの設置を促すことを目指していたが、結果として法案成立には至らなかった。
投票結果では、フランス語圏の各州およびイタリア語圏のティチーノ州が賛成、一部の州を除くドイツ語圏の各州は反対で、言語圏によって賛否が分かれた。保守派急進民主党(FDP/PLR)のシュテファン・ブルプバッハー氏はスイス通信に対し、「反対の州が過半数であったことは、各州が国から不必要に干渉されるのを嫌った結果だ」と述べた。
州レベルでも重要な投票
今回の国民投票と同日に、州レベルでもさまざまな案件が投票に掛けられた。特に注目を浴びたのが、グラウビュンデン州。2022年冬季オリンピック招致を目的とした州の財政法改正案の可否が問われたが、賛成47.3%、反対52.6%で否決。グラウビュンデン州民はオリンピック招致に反対することが明確になり、招致は不可能になった。
ベルン州では、今後のエネルギー需要を段階的に再生可能エネルギー100%で賄うことを求めた州民イニシアチブとその対案の二つが問われた。この州民投票は、福島原発事故以降スイスで初めて、エネルギー政策についての一般市民の意見を聞くものとなった。
イニシアチブは、2025年までにエネルギー需要の75%、2035年からは100%を再生可能エネルギーだけで賄うことを要求。これに対しベルン州は、今後30年間でエネルギー需要をすべて再生可能エネルギーで賄うという対案を出した。
イニシアチブも対案も新しいエネルギー政策への転換にかなり踏み込んだものだったが、結果はイニシアチブは賛成34.7%、反対65.3%、対案は賛成48.6%、反対51.4%でどちらも否決された。
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