スイス政府は11日、1年前に国民投票で可決された移民規制案の実施計画を発表した。移民数の国別の割り当て、労働市場での自国民の優遇、国内に眠る人材の活用を中心に進めつつ、欧州連合(EU)との関係を可能な限り維持していく方針を示した。
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右派の国民党が提出し、昨年2月9日に可決された移民規制案は、「スイスに滞在する外国人の上限を定め、国別に滞在許可を割り当てること」を憲法に盛り込むというもの。
シモネッタ・ソマルーガ連邦大統領兼司法警察相は11日の会見で、EU出身者の滞在許可は、これまで通り、スイス・EU間で結ばれている労働者の自由な移動を保証する協定に基づいて規定されると述べた。
政府の計画によると、外国人への滞在許可発行の条件は、今までと同じく、EU出身者か、それ以外の国の出身者かによって区別される。EU出身者の場合は、有効な雇用契約書があれば職種、資格に関わらずスイスに滞在できる。一方、EU以外の外国人の場合は、有効な雇用契約書を持つ高資格者のみに滞在許可が与えられる。
滞在許可の規制対象は、スイスに4カ月以上滞在する外国人。越境労働者も規制対象となる。
スイス政府は、移民規制案に盛り込まれている「自国民の労働市場に置ける優遇」も実施していくと発表した。
移民規制案の実施で労働者不足が懸念されることから、会見に同席したヨハン・シュナイダー・アマン経済相は「難民が労働できるよう環境を整えるなど、国内に眠る人材を活用していく」と述べた。
EUとの交渉に希望
1年前に可決された移民規制案を実施する際の最大の難関は、スイスの最大貿易相手であるEUとの交渉だ。スイス政府は昨年夏、労働者の自由な移動を保証する協定を改定しようと、EUに再交渉を求めたが、EUはこれを拒否した。
しかし、ソマルガ氏が今月上旬にEU代表者と会談した結果、EUはスイスとともに解決策を模索していく構えがあると発表。スイス・EUの関係に、新たな希望が見いだされることになった。
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