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スイス政府、脱原発の約束を守り新エネルギー戦略発表

ザンクトガレン州ベンナウ(Bennau)の集合住宅。ここでは太陽光発電での発電量が消費量を超えている。2011年5月撮影 Keystone

福島原発事故を受けスイス政府は昨年5月、「段階的脱原発」を宣言。その後連邦議会からの支持を得て、脱原発を具体的に進めるエネルギー基本方針「エネルギー戦略2050」の第1案を9月末に発表した。法改正案を柱とするこの戦略では、特に太陽光発電を推進。2050年にはこのエネルギーだけで現在の原発の発電量(39%)がほぼ賄えると計算する。

 この戦略は、再生可能エネルギー拡大と同時に節電、さらに温暖化ガスを抑えるための燃料消費削減の両方を、つまり「エネルギー消費全体を抑えること」を目標にしたものでもある。2035年までに年間1人あたり2000年比で35%減の省エネを目指している。

 しかし、何といってもメインは脱原発を具体的に進めるための政策だ。連邦環境・エネルギー省(UVEK/DETEC)のドリス・ロイタルト大臣は「脱原発は可能だ」として、代わりに2050年までに、水力発電(2050年、約55.9%)と水力以外の再生可能エネルギー(同、約30.6%)の拡大を柱に、不足分を天然ガス・化石燃料発電(同、約13.5%)で賄う方針を打ち出した。

 その背景には、新しい原発建設にはより安全な設備投資などを含め、コストが過去建設したものの2倍もかかること(フィンランドの原発建設などで判明)。事故が起きた場合のコストは巨額で試算さえできないこと。ところが脱原発にかかるコストは、例えば新しい発電設備に約660億フラン(5兆5000億円)かかると試算が可能だ、といった経済的な理由がある。

 こうした理由に加え、安全性や核廃棄物処理の問題などが巨大なため、原発はやがて無くなる発電方法であること。ならば再生可能エネルギーの技術革新を進め、ひいてはその技術を輸出できるように他国に先駆けたほうが賢明だという考えがロイタルト大臣にはある。

再生可能エネルギー と水力発電

 推進される水力以外の再生可能エネルギーの中でも際立った増産が図られるのが、太陽光発電だ。エネルギー戦略では、2010年にわずか毎時80ギガワットの発電量が将来2050年には、毎時1万1120ギガワットを生産するよう見込まれており、全再生可能エネルギー量(2050年、毎時2万4220ギガワット)の約半分を占めるようになる。

 政府は小、中、大規模の電力生産者を想定。小は家庭、中は中小企業、大は電力会社になる。生産者には、今後20年から25年間補助金が支払われ生産した電力を全て送電網に注入して売り、一方で従来通りの電力を買う形を取る。

 こうした政府の方針に対し、スイス電力会社連盟(VSE/AES)のドローテ・ティフェナウアー広報担当は、「電力会社が大型のソーラーパネルの設置を行うというより、むしろ一般家庭の屋根などに取り付ける小型生産が現実的だと考える。電力会社はスマートグリッド(次世代送電網)など送電網の整備の方に力を入れる」と話す。

 一方、現在総電力の約56%を占める水力発電は、2050年には2010年より毎時8730ギガワット増産される方針だ。「水力発電では現存のダムの発電効率を改善していくのがメインになる。またいくつかの中型のダムを建設する可能性もある」と、連邦エネルギー省エネルギー局(BFE/OFEN)のニコル・マティス研究員は説明する。

節電・省エネ

 再生可能エネルギー拡大と並ぶもう一つの柱は節電・省エネ。スイスでは冬の暖房を重油で賄うことが多く、その消費量を削減するために住宅の窓を二重窓にするなど、政府は近年住居環境の省エネを進めており、エネルギー戦略でもさらに推進していく。

 一方、節電にも力を入れ、「家庭の節電では、電気製品でエネルギー効率の良いものだけを輸入し、効率の良い製品にラベルを付ける運動を展開する。企業には、定期的に訪問して節電できるインフラを指摘し改善してもらう。また、消費電力量を把握している電気の供給側は、家庭(需要側)にスマートメーターを利用してもらって節電するよう助言していく」とマティス研究員。ポスターや広告などで節電を呼びかける運動も同時に行うと付け加える。

 こうした努力によって、電気代は2020年から安定していくが、2割から3割上がる見込みだ。「電気代は上がるが、以上のような節電により、支払う金額そのものは今より高くならない試算だ。また電気代が上がるとなると人々は気を付けて電気を使うようになるだろう」

脱原発、原発の新設なし

 「今回のエネルギー戦略で一番重要なことの一つは、現在ある原発が廃炉になっても新しい原発は建てないということだ」とマティス研究員は強調する。実際、スイスでは、1986年のチェルノブイリ原発事故後、原発の新設を10年間凍結するモラトリアムが国民投票で可決された。しかしこの10年が終了した2000年以降、原発新設禁止の法律はなかった。

 スイスでは原発の寿命を50年と推定し、現存する5カ所の原発中最後に建設されたライプシュタット(Leibstadt)原発の寿命が尽きる2034年を、多くの人は「脱原発の年」と考えてきた。しかし、現実には「寿命50年」と定めた法律は存在せず、もし(原発の安全や核廃棄物の保存・安全を監視する)連邦核安全監督局(ENSI/IFSN)が安全だと判断した場合は、その後も運行できる。

 この点を緑の党(Grüne/Les Verts)は問題にし、同党のウルス・シェス氏はこう話す。「緑の党はロイタルド大臣のエネルギー戦略第1案に全面的に賛成する。原発の新設を禁止する改正案にも賛成だ。だが、ただ一つ問題なのは(ドイツのように)脱原発の年を明確にしていないことだ」

 そのため、緑の党は「原発の寿命を45年に規定し、2029年を脱原発の年と定めること。またそれ以前でも安全に問題がある原発は直ちに廃炉にすること」を謳(うた)ったイニシアチブ(国民発議)を、11月中に提出する予定だ。

 これに対し、前出の電力会社連盟のティフェナウアー広報担当は「連盟は昨年夏、メンバー全員で長時間の議論を続け、脱原発を受け入れた。政府が決定した方針だからだ。従って今回のエネルギー戦略にも賛成する。しかし、脱原発の年を明記するのには賛成しない」と言う。電力会社は原発に多く投資してきたため、例えば2034年にライプシュタット原発がまだ使えると判断された場合には、あと1年でも2年でも使いたいからだと説明する。

 いずれにせよ、まさにこうした関係者や一般の国民に対しこのエネルギー戦略は公開され、さまざまな意見を来年1月30日まで受け入れる。その後意見を取り入れた最終版を連邦議会にかけ承認されるというプロセスを踏む。しかし連邦会議で承認されても、緑の党のイニチアチブのように国民投票に持ち込まれる可能性も残る。

 そのため「エネルギー戦略2050」が実行に移されるのは2015年だ」と、エネルギー局のマティス研究員は話している。

2011年の発電量の割合

水力: 55.8%
原子力: 39.3%
その他: 2.9%
新再生可能エネルギー(廃棄物、バイオマスおよびバイオガス、太陽光、風力): 2%

2050年に予定されている発電量の割合

水力 :55.9%

新再生可能エネルギー(廃棄物、バイオマスおよびバイオガス、太陽光、風力) :30.6%

ガス・化石燃料での発電 :13.5%

出典:連邦エネルギー省エネルギー局(BFE/OFEN)

スイスには5基の原発がある。その内ミューレベルク(Mühleberg)原発は福島第一原発と同じ型。

スイスでは、反原発運動があったが、唯一認められたのは1990年の国民投票で可決された「新原発建設10年間凍結」。これはチェルノブイリ原発事故の影響だった。

その後、モラトリアムの継続を求めたイニシアチブ(国民発議)「モラトリアム・プラス(Moratorium Plus)」は2003年の国民投票で否決され、同時に行われた「段階的脱原発」を求めるイニシアチブも否決された。

今回の「エネルギー戦略2050」の第1案には、初めて原発の新設を禁止する改正案が提示された。

原発の安全や核廃棄物の保存・安全を監視する、連邦核安全監視庁(ENSI/FSN)は、スイス政府内にあるが、各省から独立した機関。150人の職員が働く。

原発の稼働、停止に関しては、同機関が安全性を判断し、最終的決定は政府が行う。

エネルギー戦略の第1案発表を受け、同機関のハンス・ヴァンナー所長は10月12日、「原発を持つ電力会社は原発の寿命が40年になる前に、40年後の稼働に関する技術面での安全性の証明、安全維持のための予算等を含むコンセプトの提出を義務付ける。その後たとえ安全性が証明されても最高で10年に限った稼働を許可する」という提案を発表している。

 

一方、原発稼働期間を稼動開始から最長45年までとするイニシアチブを緑の党(Grüne/Les Verts)は11月中に政府に提出する。

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