22日に実施されたスイス総選挙で前回選挙からの揺り戻しが起こったのは環境派の後退だけではない。女性比率も低下した。
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2019年の前回総選挙では、国民議会(下院)定数200議席を占める女性の割合は42%と、それまでより10ポイント上昇した。
連邦統計局の発表によると、今回の選挙で当選した女性は77人、比率は38.5%に低下した。全州議会(上院)の定数46議席はまだ全て確定しておらず、最終結果は11月19日までに明らかになる。
1971年2月7日、スイスの男性たちは国民投票で女性に参政権を与えることを決定した。同年 10月31日の連邦選挙は女性が有権者として投票したり、候補者として立候補したりできる最初の選挙となった。11人が下院議員に当選し、女性比率は5.5%でスタートした。上院では42議席中1議席を女性が獲得した。
それ以来、スイス政治における男女平等への動きは牛歩のごとく遅かった。それでも過去数十年は着実に女性議員が増えてきたが、今回の総選挙でこの傾向に終止符が打たれた。
女性議員が減った主な原因は、出馬した女性の少なさにある。
女性議員比率が低下した背景の1つは、大勝した右派・国民党(SVP/UDC)に女性候補者が少なかったことだ。同党候補者の女性比率は25%と、主要政党で最も少なかった。22日の選挙で同党が獲得した62議席中男性が50議席(80%)を占める。新人議員21人に限れば女性はわずか3人だ。
緑の党(GPS/Les Verts)が5議席、自由緑の党(GPL/PVL)が6議席を失ったことも、女性比率低下につながった。再選できなかった議員に女性が多かったためだ。
世論調査機関gfs.bernの政治学者クロエ・ジャン氏は、時事情勢の影響も指摘する。ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー外部リンクに「2019年選挙が『女性選挙』になったのが政治問題と関係があるのは明らかだ」と語った。同年6月に全国で起こった女性ストライキにより、平等やフェミニズムがメディアで多く論じられた。だが今年は経済や戦争、移民など、伝統的に男性的な含意のあるテーマが選挙戦を支配した。
スイス女性団体連盟「F同盟外部リンク」は、女性比率は大局的に捉える必要があると主張する。それは決して直線的に伸びることはなく、急上昇した2019年の反動が起こることは予想されていたという。
「女性は議会に留まり続けなければならない。総選挙の結果は、スイスの民主主義がジェンダー的により強固になっていることを示した。各党の得票率の増減から予想されるほどには女性比率は下がらなかった」。女性議員の上昇を促す運動「Helvetia ruft!」の共同発起人であるフラヴィア・クライナー氏とカトリン・ベルチ氏は、フランス語圏の日刊紙ル・タン外部リンクでこう説明した。
クライナー氏は、中央党(Die Mitte/Le Centre)や社会民主党(SP/PS)の女性候補が多く当選したことで、緑の党の敗北を一部穴埋めできたと分析した。
言語圏による違いも大きかった。当選した女性議員の42%がドイツ語圏の州から出馬した。フランス語圏出身の議員は35%、イタリア語圏は13%だった。
クライナー氏によると、フランス語圏の女性議員比率を「押し下げた」のはヴァレー(ヴァリス)州、ジュラ州、ヌーシャテル州だったと説明する。ジュラ州とヴァレー州では今年、女性議員は選出されなかった。ヌーシャテル州は1人だけ(上院のセリーヌ・ヴァラ氏)だった。
スイスは今回の総選挙を経て、議会における男女平等の点で国際的にどのような立ち位置に立つのだろうか?
毎月各国の女性議員比率を集計している議員交流団体「列国議会同盟(IPU)」(本部・ジュネーブ)によると、スイスは今回、下院議員の女性比率ランキングで上位30位から外れた。
総選挙前はカーボベルデと並ぶ24位だった。23位は北マケドニア、25位はエチオピア。2019年選挙の直後は15位に浮上したが、数人の女性議員の辞職に伴い後退した。
女性比率38.5%は31位と、モルドバとオーストラリアの間に挟まれる結果となった。
女性比率のトップはルワンダの61%だ。これにキューバ(55.7%)、ニカラグア(51.7%)が続く。アンドラ、メキシコ、ニュージーランド、アラブ首長国連邦(UAE)はいずれもちょうど50%。
英語からの翻訳:ムートゥ朋子
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