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スイスのデジタルID拒否、ワクチンパスポートで変わる可能性も

Ian Richards

スイスのデジタルID(eID)導入は7日の国民投票で否決された。しかし、ワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)を含む文書の電子化を有益だと考える国が増えれば、スイスの有権者の懸念は払拭されるかもしれない。国連のエコノミスト、イアン・リチャーズ氏はそう主張する。

スイスの有権者は7日の国民投票(レファレンダム)で、インターネット上の個人認証に関連する規則を定めた新法案を圧倒的多数で否決した。同法案には、銀行口座の開設、投票、鉄道乗車券やスキーパスの購入などをオンラインで行うための公式ログインIDとパスワードを、スイスの国民と住民に発行する内容が盛り込まれていた。ログインIDはID所持者の本人確認を事前に行い、認証を受ける。一度認証されると、どのウェブサイトにもログインできるようになる。

このいわゆる「eID」の利点は、スイス住民がプライバシーに関わる書類を郵便で送ったり(2年前には郵便投票の信頼性が疑われた)、複数のパスワードを覚えたり、グーグルやフェイスブックのパスワード管理ツールに頼ったりする必要がなくなることだ。また、デジタルIDを法律で規制し、プライバシーやセキュリティーへの長年にわたる懸案にも対処できる。

それに、デジタルID構想は目新しいものでない。北欧諸国やエストニアでは既に広く普及しているサービスだ。

連邦政府はこのデジタルIDシステムにおけるログインIDの発行を、国ではなく、認可を受けた民間企業が行うことにした。認可企業は警察の中央データベースにアクセスし、本人確認ができる。

カリン・ケラー・ズッター司法相は、連邦政府にはデジタルIDシステムを実施する技術も手段もないとして、民間企業の関与を正当化した。

しかし、この発言がプライバシー保護活動家の反発を招いた。活動家らで構成される委員会が昨年レファレンダムを提起し、6万5千筆の署名を集めて国民投票に持ち込んだ。

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eIDはIDカードやパスポートの代替に取って代わるものではないとケラー・ズッター司法相は訴えたが、反対派はデジタルIDの発行は民間企業ではなく国が行うべきだと主張した。また、認可企業が市民の個人情報を利用して利益を得ることに対する懸念の声もあった。有権者は自分の個人情報が、スイスの大手スーパーのミグロ、非政府組織(NGO)の標的である原料取引大手のグレンコア、さらには、フェイスブックにまで行き渡ってしまうかもしれない。多くの政党がレファレンダムを支持した。

ケラー・ズッター司法相は当初、民間委託の代替案はないと話していたが、国民投票の結果を受けて、反対派が表明した懸念を検討することに同意した。

連邦政府がeIDを管理することになれば、国民投票のキャンペーンでは考慮されていなかった多くの可能性が出てくる。当初は除外されていた電子IDカードや電子パスポートなどだ。

例えばエストニアでは、国の電子IDシステムは国民のIDカードとつながっている。IDカードは、ログインではなく、カードリーダーで読み込んで、銀行取引、会社の設立、処方箋の取得、運転免許証といった文書の本人確認などに利用することができる。同サービスは人口の98%以上に既に普及している。外部リンク

しかし、これはほんの始まりに過ぎない。

国連貿易開発会議(UNCTAD)は、イラク政府やベナン政府とともに、電子化した公文書を携帯電話に保存し、文書が真正であることをブロックチェーン技術で認証できるよう準備を進めている。デジタル公文書は追加の確認なしに、警察やその他の政府機関に提示することができる。カナダのブリティッシュコロンビア州ではすでに州内の企業向けにこのような運用を開始外部リンクしている。

もし、スイス政府がeIDのさらに先に進んで、パスポート、IDカード、運転免許証、労働許可証、在留許可証などの文書を電子化して携帯電話に保存し、顔認証でアクセスできるようにすれば、スイスの暮らしは格段に便利になるだろう。

入国の際は、入国審査場に並ぶのではなく、QRコードをスキャンする。住民の駐車許可証を取得するには、IDカードと車の登録証を自治体のウェブサイトにアップロードし、クレジットカードで支払う。人の手による確認なしに、数秒で駐車許可証が自動的に発行される。役所に列ができることもない。労働許可証の更新や会社の設立も同じようにできる。eIDのログインさえ必要ない。

政府の手続きを迅速化し、一日中書類をチェックするという退屈な仕事から官僚を開放することは経済的利益につながる。

米シンクタンクのマッキンゼー・グローバル・インスティテュートが最近発表した報告書外部リンクによると、「高度の信頼が求められる機密性の高いやり取りを徐々にデジタル化することで、GDPを3~13%増加させることができる」という。

発展途上国で会社を登記するための電子政府の実施を支援してきた国連の経験外部リンクがこの報告を裏付けている。いずれの場合も、会社の設立が増え、税金や社会保険料の支払い増加につながった。主な受益者は女性や若い起業家だ。

連邦政府は電子IDカードや電子パスポートをよりシンプルなeIDログインと比べてハイテクで反ユートピア的だと考えてきたのかもしれない。しかし、それも変わりつつあるのではないか。何しろ、スイス人はあと数カ月もすれば夏休みの計画を立て始める。

ビーチリゾート派のスイス人が好むギリシャ、スペイン、ポルトガルなどの国々では、電子化されたワクチンパスポートを入国の条件にする案が出ている。現状では、政府が発行する黄色い厚紙の2021年版ワクチン接種証明書を、世界の民間航空会社が加盟する国際航空運送協会(IATA)が管理外部リンクし、携帯電話に保存することになりそうだ。

確かに、ワクチンパスポートにはまだ議論の余地がある。世界保健機関(WHO)外部リンクは「感染を減少させるというワクチン接種の効果には、重大な未知数がある」と指摘するが、それらをどのように規制するかについてはほとんど議論されていない。

しかし、今年の夏もお金のかかる山岳リゾートで過ごすか、浜辺の食堂で新鮮な焼き魚を食べるかを選ぶことになれば、多くの人が海水パンツに票を投じ、デジタルワクチンパスポートをダウンロードして、海外旅行に出掛けるだろう。

他の国でもリゾート客は同じことをするだろう。そして帰国すれば、国際航空運送協会(IATA)がワクチン接種証明書に行ったことや、イラク、ベナン、カナダのブリティッシュコロンビア州が行ったことを、各国政府もパスポートなどの文書について実施しようとするだろう。

そして半年後には、eIDへの主な批判が「行き過ぎ」ではなく、「不十分」になるかもしれない。

この記事で述べられている内容は、著者の意見であり、必ずしもswissinfo.chの見解を反映しているわけではありません。

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(英語からの翻訳・江藤真理)

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