スイス、政府のコロナ法を巡り国民投票へ
新型コロナウイルス感染拡大を抑制するため、政府によるロックダウン(都市封鎖)の実施や国民の生活の制限を可能にした新法を巡り、レファレンダム(国民投票)が行われる見通しとなった。
スイスの市民団体「憲法の友」は13日、レファレンダム(国民投票)に必要な5万筆を遥かに上回る署名8万6千筆を政府当局に提出した。直接民主制を徹底するスイスでは、連邦議会で承認された法律の是非を国民投票で問い直すことができる。
2020年9月に法制化された「COVID-19法」の妥当性を問うこの国民投票は、早ければ6月に行われる。投票結果には法的拘束力が生じ、否決されれば同法は白紙に戻る。
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新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって、市民の権利を巡る社会的・政治的亀裂は、欧州全域で表面化した。個人の権利をより重要視する文化背景を持ち、政府の権限が法律で厳しく制限されているスイスでは、特にひずみが大きくなっていた。
「憲法の友」理事会メンバーのクリストフ・プフルーガー氏は、英ファイナンシャル・タイムズ紙に「政府はパンデミックを利用して、民主主義を弱体化させ、コントロールする力をより強くしようとしていると思う」と話した。
また「このようなアプローチでは長期的な問題が発生し、重大問題へと発展する。私たちの運動は、危機管理は主権者である国民の意思なくしては出来ないという考えに基づいている。国民なくして統治することはできない」と述べた。スイスはコロナ規制に関して国民が直接投票を行う最初の国 ―そしておそらく唯一の国― になるだろうという。
コロナ感染症の第2波が猛威を振るう中、スイス政府は昨年12月下旬まで規制強化に消極的だった。
感染者数が急増してもなお、多くのスイス人はそれまでに実施された以上の規制強化に反対していた。また国内最有力とされる複数のロビー団体が、商店などが再び営業停止となれば経済的に大きな影響を受けると警告していた。
スイスの世論調査会社ソトモがスイス公共放送協会(SRG SSR)の委託を受けて11月に実施した世論調査では、回答者の55%が、政府の感染予防対策に伴う個人への自由制限措置が心配だと答えた。レストランやバーの営業時間の制限(調査時は午後11時まで)については、3分の1のスイス人が「規制が厳しすぎる」と考えていることが分かった。
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前出のプフルーガー氏は、この数週間で得たボランティアからのサポートと、署名集めのスピードに「驚いた」と話す。
スイス政府の国民の自由を尊重するアプローチは、外交的な対立にまで発展した。先月初旬、スイスはスキー場の営業継続を決め、アルプス山脈が連なる隣国の怒りを買った。
スイス政府は先月18日、レストラン、バー、レジャー施設の全国的な営業停止を決める。今月13日には、それまでの措置を2月末まで延長すると同時に、生活必需品以外の小売店も閉鎖すると発表した。
そして同じ日、これらの制限に法的正当性を与えるために作られた「COVID-19法」が国民投票にかけられることが決まった。
「COVID-19法」は昨年9月にスイス議会を通過した。同法は、新型コロナウイルスの感染拡大を抑制するためスイス政府の継続的な権限を定めている。
この法律が制定される前も、政府はスイス感染症法に基づく緊急事態宣言によって、国民の生活を制限する権限を持っていた。ただこれらの権限は時間的制限があり、また議会の監視下に置かれていた。
国民投票が行われる頃には、パンデミックが治まっている可能性が高い上、COVID-19法に盛り込まれた条文の多くは適用期限を定めたサンセット条項によって自動的に失効するとの指摘もある。
しかし「憲法の友」は、将来起こる緊急事態に対して前例ができてしまうのを防ぐために戦っていると言う。「純粋に客観的に見れば、『COVID-19法』自体はそれほど重要ではない。しかし、それは大きなパズルの一部だ」とプフルーガー氏は述べた。
今年に入ってスイスのコロナ新規感染者は少しずつだが確実に減少傾向にあり、昨年11月2日に報告されたピークの1万558人から大きく減った。
Copyright The Financial Times Limited 2021
(英語からの翻訳・大野瑠衣子)
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