スイス、移民の人数制限に関する政府案発表
スイス政府は先週、4カ月を超えて滞在するすべての外国人に対し人数制限を行う指針を発表した。これは、今年2月の国民投票で右派国民党が提案した「大量移民反対イニシアチブ(国民発議)」が可決されたことを受けての決定だ。
このイニチアチブの可決は、政府に大きな難題を投げかける結果になった。なぜなら、スイスは欧州連合(EU)との間で働く場所と居住地の自由化を定めた「第1次2者間協定」を結んでいるため、EU出身の外国人でスイスの企業と有効な雇用契約を結んだ人、自営業者、生活費を賄えるだけの資産があり健康保険に加入している人はスイスに居住できるのだが、これとイニチアチブが相容れないからだ。
またEU側は、「第1次2者間協定」の協議再開はありえないと断言しているからだ。
こうした事情を承知のシモネッタ・ソマルーガ司法警察相は先週の記者会見で、「EUからの移民数の制限はほかの国の移民数の制限より緩いものになるはずだ」と明言している。
また、EUや欧州自由貿易連合(EFTA)の国々からの移民は、たとえ特別な専門性を持っていなくてもスイスへの滞在が認められるだろうと述べた。
矛盾
憲法121条A(抄訳)
1、スイスは独自に、移民問題を解決する。
2、外国人の居住許可書の発給数全体に上限を設け、同時に年間の発給数を制限する。難民の人数においても同様の措置が取られる。長期滞在者の家族の受け入れや社会保障も制限され得る。
3、スイスに利益をもたらす外国人数の制限は、スイスのグローバルな経済的利益の観点から、またスイス国民をまずは優先するという観点から決定される。こうした人数の制限は、越境労働者にも適用される。
滞在を許可するための指標は、雇用者の要求、移民労働者の社会への適応力、生活に十分な給与額、自律性。
4、いかなる国際条約も、これに反することは認められない。
5、法律がこの適用を決める。
「イニチアチブによって改正された憲法は何よりも優先される。しかしどのように工夫しても、新しい条項は根本的に『労働者の自由な移動』とは矛盾する」とソマルーガ氏は述べた。
とはいえ、「第1次2者間協定」が無効になるのではないかといった、さまざまな「憶測」は望ましくないとも断言した。
こうした中、政府はEUと交渉しながらスイス国内で解決策を模索することになる。「国内では、スイス人の潜在的労働力を最大限に引き出すために、例えば女性労働者を今後もっと評価していく」と発表している。
移民の人数制限
政府案は、長期滞在者だけではなく、4カ月から12カ月の短期滞在者にも適用される。短期滞在者をコントロールすることで、短期滞在許可書から長期滞在許可書への切り替えを防ぐ狙いがある。
また越境労働者も人数制限されるが、これに関しては、各州が地域の労働市場の状況を見て調整することになる。
一方、季節労働者に関しては、たとえその期間が短期であろうとも、家族を連れてくることを承認するとソマルガ氏は述べた。「過去の過ちを繰り返したくはない。家族を祖国に残し単身赴任すれば、季節労働者がスイス社会に適応しにくくなるからだ」
政府は、新しい法律の原案を今年末までに作成し、2017年の施行を目指している。
不満な国民党
一方、「大量移民反対イニシアチブ」を提案した国民党は、政府が故意にEUを刺激するようなやり方で接触したと批判し、「政府はこうすることで、(同イニシアチブの実現が不可能だと証明し)国民投票をやり直すように持っていこうとしているかのようだ」と述べた。
「国が年間に発給する労働および居住許可の数に上限を設け、外国人労働者の受け入れ人数を制限すること」をイニシアチブで求めていた国民党の主張と、今回の政府案は多くの点で重なっているが、いくつかの面で国民党は反対を表明している。
それは、例えばソマルガ氏が述べた「季節労働者の家族の受け入れ」やこうした移民への社会保障に関してだ。
国民党は近年問題となっている交通渋滞、不動産価格の上昇、住居不足、犯罪率の増加などは移民が原因だとして、今年2月に可決されたイニシアチブを立ち上げている。
(構成 里信邦子)
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