スイス、COP26妥協案合意は期待外れ
英グラスゴーで開かれた国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)は13日夜、気候変動対策に関する協定を採択した。だが石炭火力発電に関する補助金の段階的廃止を巡る文言が直前で修正され、スイスを含む多くの参加者が失望をあらわにした。
英国のアロック・シャルマ議長が合意文書の採択を知らせる小づちを打ったのは、会期終了予定の12日の翌日だった。文書はパリ協定の完全実施を目的とし、温暖化を阻止する「最後のチャンス」と言われたCOP26を締めくくるものだった。
だが最後、スイスが絡む大胆な外交が議場で展開された。
最終セッションが始まる数分前、スイスのシモネッタ・ソマルーガ環境相が演壇に上がり、スイス代表団が「暴力的な妨害工作」と呼ぶ行為について口を開いた。シャルマ氏が他の代表団の間を行き来する中、緊張した議論が続いた。
本会議が始まると、ソマルーガ氏は「深い失望」を表明。「石炭、化石燃料への補助金について合意した文言が、不透明なプロセスの結果、さらに弱められてしまった」と語った。
同氏は、石炭について既に同意していた「段階的廃止」が「段階的削減」という用語に変わってしまった、と述べた。
COP26は、石炭への補助金の段階的廃止を最大の争点の1つとし、交渉は夜まで行われた。
インドを始め中国や米国からの圧力もあり、化石燃料については「段階的削減」に後退した。だが今回の合意は「非効率な化石燃料への補助金、削減対策なしの石炭は段階的に削減する」と、汚染物質への言及を盛り込むという意味での前例となった。
ソマルーガ氏は、代表団はその前の会議で、草案の変更は了承されないだろうと伝えられていた、と語った。スイスは炭素市場に関する決定の抜け道をふさぐよう、この時提案していた。
ソマルーガ氏のこの発言には、長い拍手が続いた。多くの代表団は、化石燃料により強硬な姿勢を取った修正前の文書を擁護するという同氏の発言を支持した。シャルマ氏はその後、「このようなプロセスが展開されたことをお詫びする」と公に謝罪した。
個人の誓約から国際公約へ
2週間に及ぶCOP26では(気候変動に対する)一連の新たな取り組み、そして森林破壊やメタンガス排出、石炭削減などに関する各国の個別グループ間での誓約で幕を開けた。
しかし197カ国の代表者たちは、2015年に締結されたパリ協定に基づき、地球温暖化を産業革命以前と比べ最大1.5度に抑えるための明確なルールに合意する必要があった。
最終文書は妥協案に終わった。弱点はあるにせよ、各国は気候危機に立ち向かうにはより強力な行動が必要であることを示すため、合意を形にして自国に持ち帰らなければならなかった。
ソマルーガ氏は本会議で「あなた方が提示しているいくつかの文言は、最良の共通項とは程遠い」と失望を示した。しかし、石炭補助金に関する文章が土壇場で変更された後も、スイスが加盟する交渉国の環境保全グループ(EIG)は、合意なしにグラスゴーを去る可能性を失うリスクを避けたかったと述べた。
炭素市場の合意
2019年のマドリード会議(COP25)が失敗に終わった後、スイスはパリ協定第6条のガイドラインに基づき、一部の途上国とカーボンオフセットに関する二国間条約の締結を進めてきた。この条約には、プロジェクトが人権を尊重すること、カーボンクレジットの二重計上(ダブルカウント)を禁止すること、ホスト国が第三者の支援なしには実施できないタイプのプログラムであることなどが含まれる。
カーボンオフセットは企業、政府、個人が、炭素を削減・蓄積するプロジェクトに投資することで、排出量の一部を相殺できる制度だ。COP26では、同スキームの実施に明確なガイドラインを設けることが重要課題の1つになっていた。
スイスはCOP26で、これまでに実施したオフセットの取り組みを紹介。炭素市場に関する採択文書には、確固たる条件を反映させるよう強く働きかけた。
スイス代表団は最終的に、カーボンクレジットとオフセットに関するルールが採択されたことに満足した。ソマルーガ氏はそれでも、EIGメンバー(メキシコ、韓国、ジョージア、モナコ、リヒテンシュタインを含む)は、特に炭素市場に関する議論で透明性と包括性が欠如していることを「嘆いている」と述べた。
スイスの主任交渉担当官フランツ・ペレス氏はswissinfo.chに対し、国と民間企業の間でのダブルカウントの問題があると語った。同氏によると、排出量のダブルカウントを可能にするであろう提案が、協議中に出されたという。
スイスの提案は、民間企業が「相当する調整」を」行わずにカーボンオフセットをする場合、軽減証明書ではなく「支援」証明書を付与するという内容だった。これは取り下げられた。
「このように抜け道ができてしまい、そのため完璧ではない」とペレス氏は言う。「しかし、時間をかけて修正して行ければと考えている」
気候変動の緩和
COP26の合意は、気候変動関連の膨大なデータを収集するジュネーブの「気候変動に関する政府間パネル」の報告書など、科学的根拠に強く言及したものとなった。
また同合意は、人間の活動により産業革命以前よりも気温が既に1.1度上昇したことに「警鐘と最大の懸念」を示した。世界資源研究所の報告書は、グラスゴーに先立ち各国が行った炭素削減の誓約では、地球の気温が産業革命以前より2.4度上昇すると試算。パリ協定の1.5度には遠く及ばない。
ツバルのセベ・パエニウ気候相は「私たちは文字通り沈んでいる」と言明。自国のような国の多くが既に気候変動の影響を受けているとして、強固な行動が必要だと訴えた。
今回の合意では、2030年までにCO₂排出量を10年比で45%削減し、50年までに排出量のネットゼロ(温室効果ガスの排出が正味ゼロの状態)を目指す。
不足する資金
2009年に設定された、先進国が途上国に対し気候変動対策として年間1千億ドル(約11兆3800億円)を提供するという目標は現在も達成できていない。今回の合意文書では、先進国が25年までにこの目標を達成し、貧困国が気候変動の影響に適応するための資金を倍増させることを「促す」とした。
しかし、脆弱な国のコミュニティの現場で活動する組織は、COP26の最終合意に懸念を表明した。
スイスのNGO団体ヘルヴェタスのメルキオール・レングスフェルド事務局長は「今回の合意でなされた妥協のレベルを懸念している。現状の緊急性を鑑みれば不十分であり、途上国の多くの貧しい人々が味わっている苦しみが日常的な現実であることを認識していない」と述べた。
脆弱な国々は長年にわたり、COPの専門用語でいうところの「損失と損害」と呼ばれる、大口の排出者による気候変動の影響への補償を求めてきた。これが暗に意味するのは、途上国での気候変動の影響に絡んだ損失と損害に対処するメカニズムの設立だ。米国をはじめとする国々は、このような基金の設立に反対してきた。
先進国が長い間抵抗してきたこの基金が最終声明で言及されたのは今回が初めてだ。
だが、気候変動の影響を直接受けている国々がその資金を目にするのは、まだ時間がかかる。基金管理を可能にするメカニズムの導入案は退けられ、「技術支援」用の基金を提供するという、より限定的なプロセスに変更された。
ケニアのシンクタンク「パワーシフト・アフリカ」ディレクターのモハメド・アドウ氏は、この文言は「火事で家が燃えてしまったことにはお金を払うが、家屋の返済にはお金を出さない」ようなものだと指摘する。
環境保護団体WWFの気候・エネルギー担当グローバルポリシー・マネージャーのフェルナンダ・カルバリョ氏は、来年予定されているCOP27(議長国はエジプト)のもとで、この面での進展が得られるよう期待していると述べた。
同氏は「COP27では、アフリカの国が議長国を務める。グローバル性の強い課題だが、アフリカの問題でもある。緊急性のある問題のため、相応の成果を望む」と話している。
(英語からの翻訳・宇田薫)
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