欧州の真ん中に位置する小国のスイスは、周囲を欧州連合(EU)に取り囲まれながらも、EUへの加盟に数十年前から抵抗している。加盟よりも二国間協定に望みをかける一方、EUからはこれまでの二国間協定を包括する新たな枠組み協定を締結するよう迫られている。しかしスイスにはこれに反発する声が根強い。この状況をブレグジット(EU離脱)を決めた英国と比較しながら、専門家が説明する。
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swissinfo.ch:スイスがEUに加盟する見込みは?
クリスタ・トブラー:現時点では全く非現実的だ。支持が過半数に達しておらず、連邦政府もEUへの加盟を目標に据えていない。
swissinfo.ch:スイスは現在、EU加盟国とどの点で異なりますか?
トブラー:スイスはEUプロジェクトの中核、つまり域内市場に大きく関与している。ただ、これまでは(加盟国とは)別のルールに則ってきた。スイスはそのほかの様々な分野でもEUと協力している。しかしスイスは加盟国ではなく、またそれが理由でEU域内の意思決定には参加していない。EUプロジェクトの多くはスイスに適用されない。EUが他国と締結する協定や、EUの単一通貨ユーロがその例だ。EUプロジェクトに関して、スイスは加盟国とは違い、どちらかと言えば(国の一部の権限を他国に委ねる)「自由連合」の立場に近い。
swissinfo.ch:枠組み協定の署名後で、スイスが通常のEU加盟国とまだ異なる点は何でしょうか?
トブラー:これまでと同様の点で異なる。(枠組み協定で規定される)新ルールによって、スイスの立場がEU加盟国の立場に近づくということはない。それよりも、他の欧州自由貿易連合(EFTA)の加盟国(アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー)や欧州経済領域(EEA)の立場に近くなる。スイスは枠組み協定によってこれらの国と似たような立場になるだろう。
swissinfo.ch:スイスはいいとこどりをしていると言われています。EU加盟国のメリットは欲しいけれど、実際に加盟して主権を失うことはしたくないのです。こうした戦略をどう考えますか。
トブラー:一国が自国のために、出来るだけコストを抑えながら最善の策を取ろうとすることは理解できる。ただ二国間協定では、スイスはEU加盟国が持つメリットをすべて手に入れることなど到底できないだろう。スイスはEUの特定の活動分野への関与を強めている。課題は、そうした関与にも一定の犠牲があることを認識することだ。多国間プロジェクトに参加しながら、完全に独立を保つことはできない。
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swissinfo.ch:スイスがEUに加盟した場合、直接民主制への影響は?
トブラー:表面上はない。投票を行い、イニシアチブ(国民発議)を開始し、レファレンダムを行うことは引き続きできる。ただしEU法は加盟国の国内法よりも優先される。EU法に反する国内法は適用できず、修正されなくてはならない。この点では当然、直接民主制の手段は事実上の制限を受ける。今も国際法の定めに抵触する国内法は原則として制限される。しかしEU法は加盟国に対しさらに厳しく準拠を求める上、国内法と抵触する範囲は広い。
swissinfo.ch:ブレグジット後の英国の立場は、スイスよりも厳しくなるでしょうか。
トブラー:そうなると思う。スイスは隣国と協定を結んでいるが、英国はこの点では一から始めなければならない。
swissinfo.ch:英国がブレグジットを決定後、スイスは対EUとは打って変わって速やかに英国と二国間協定を結びました。これでスイスは今後、英国の特別な友好国になると思いますか?
トブラー:協定はスイスと英国にとってもちろん都合が良い。英・EU関係の場合、さらに多くの事柄を取り決める必要がある。まず離脱について取り決めなければならなかったが、それ自体がすでに複雑だ……。
インタビューは書面で行われました。
(独語からの翻訳・鹿島田芙美)
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