スイスの視点を10言語で

ゼレンスキー氏は「権威主義的な性格」 スイス情報機関、大統領選に警戒

スイス連邦議会でビデオ演説をするゼレンスキー氏
ウクライナが自国を防衛するために支援を与えるべきだという点では、どの政党も同意しているが、一部の国会議員はウクライナの民主化が先決だと強調している © Keystone / Peter Klaunzer

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー氏が2024年の大統領選に向け政敵を陥れようとしており、同国の民主主義が「重大な局面」を迎えている――スイスの連邦情報機関(NDB)がウクライナの内政についてこんな報告書をまとめていたことが明らかになった。 

ドイツ語圏の日刊紙NZZ日曜版外部リンクは、ロシアで起きた民間軍事会社ワグネルによる武装蜂起を受けてNDBが作成した報告書を入手。同紙(8日付)によると、同報告書は「信頼できる情報」に基づいて作成され、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が2024年の選挙を控え、最大のライバルであるキーウのヴィタリー・クリチコ市長を政治的に排除しようとしていると指摘した。 

さらにNDBは報告書で「クリチコ氏を政治的に排除しようとするゼレンスキー氏は、権威主義的な性格を有している」と分析。そのため「西側諸国がゼレンスキー大統領とその側近に圧力をかける可能性は高い」と結論付けた。 

同紙によると、報告書がスイス連邦政府に提出されたのは、国有軍需会社ルアグの保有する戦車「レオバルド1」のウクライナへの輸出の可否を連邦内閣が審議する前日の6月27日だった。政府は申請を却下している。 

ザンクト・ガレン大学のウルリッヒ・シュミット教授(東欧専門)はゼレンスキー氏の再選について「ロシアの攻撃に直面してもキーウを離れないという勇気ある決断をして以来、同氏は国民の間で高い信頼を得ている。また、海外に支援を求める国の最高代表としての機能を非常によく果たしている」と語り、落選する心配はないとNZZに語った。しかし同時に、ウクライナには民主主義のためのいくつかの要素が欠けていると指摘。民主主義が機能するための前提条件である「独立政党と自由な報道機関のどちらも今のウクライナにはない」と述べた。ただ、「戦争は行政府を強権化する。このような展開は驚くべきことではない」とした。 

スイス連邦外務省と国防省は、同報告書に関するNZZの問い合わせに対し、回答を拒否した。 

批判に押され気味の支持 

ロシアがウクライナに侵攻して以来、ゼレンスキー氏はスイスを含む西側諸国から幅広い支持を得ている。同氏は先月15日、スイス連邦議会でビデオ演説を実施。スイス国民党(SVP/UDC)議員の大半は議場に現れず演説をボイコットしたが、多くの議員がこれをあたたかく受け入れた。ウクライナが自国を防衛するために支援を与えるべきだという点では、どの政党も同意している。ただ、一部の国会議員は、ウクライナの民主化が先決だと強調している。 

社会民主党(SP/PS)のセドリック・ヴェルムートゥ共同党首は「私たちの連帯意識は(ゼレンスキー氏という)個人や政党に対してではなく、攻撃を受けているウクライナ国民に対するものだ」と話し、「ゼレンスキー氏の国内政策が左派的な観点から批判されるのは当然のことだ」と懸念をのぞかせた。 

中道右派・急進民主党(FDP/PLR)のダミアン・コティエ議員は同紙に対し「戦争が終わり次第、自由で公正な選挙を直ちに実施しなければならないことを、ウクライナ政府にはっきり言うことが重要だ」と述べた。 

英語からの翻訳:大野瑠衣子


人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

ツークの街並み

おすすめの記事

スイス検査・認証SGSが本社移転 ジュネーブからツークへ

このコンテンツが公開されたのは、 世界有数の試験・検査・認証機関であるスイスのSGSは、本社をジュネーブ州からツーク州に移転する。大手多国籍企業の移転は、ジュネーブ州の税収にも影響を及ぼしそうだ。

もっと読む スイス検査・認証SGSが本社移転 ジュネーブからツークへ
鏡を見るバレエダンサー

おすすめの記事

ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場

このコンテンツが公開されたのは、 スイス西部ローザンヌで2日、第53回ローザンヌ国際バレエコンクールが始まった。23カ国から集まった85人の若手ダンサーが8日の最終選考進出を目指し、さまざまな課題曲に挑戦する。

もっと読む ローザンヌ国際バレエコンクール2025始まる 日本から13人出場
自転車で遊ぶ子ども

おすすめの記事

スイス政府、国際養子縁組を禁止へ

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦政府は29日、国外から子どもを迎える国際養子縁組を将来的に禁止する意向を表明した。虐待防止措置の一環としている。

もっと読む スイス政府、国際養子縁組を禁止へ
生殖治療の画像

おすすめの記事

スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針

このコンテンツが公開されたのは、 スイス政府は29日、生殖補助医療法を改正し、カップルに対する卵子提供を合法化する方針を発表した。政府はまた既婚・未婚問わず全てのカップルへの精子・卵子提供を解禁する意向を示した。

もっと読む スイス、全てのカップルへの精子・卵子提供を合法化へ 政府方針
研究施設で働くマスク姿の人

おすすめの記事

スイスに感染症情報解析センター発足

このコンテンツが公開されたのは、 感染症に関する情報を収集・解析する「病原体バイオインフォマティクスセンター(CPB)」が23日、スイスの首都ベルンに新設された。集約したゲノムデータを管理・解析し、スイスの感染対策を改善する役割を担う。

もっと読む スイスに感染症情報解析センター発足
茶色い除湿器

おすすめの記事

ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は10日、電気を使わない除湿器を開発したと発表した。壁や天井の建築材として、空気中の湿気を吸収し一時的に蓄えることができる。

もっと読む ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
Xマークの画面

おすすめの記事

スイスでX離れ進む

このコンテンツが公開されたのは、 スイスで「X」から撤退を表明する企業や著名人が相次いでいる。

もっと読む スイスでX離れ進む
ベルジエ報告

おすすめの記事

「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱

このコンテンツが公開されたのは、 スイス最大手のUBS銀行の資料室には、第二次世界大戦中の行動に関する秘密がまだ残されている可能性がある――。過去にスイスの銀行と独ナチス政権とのつながりを調査した歴史家、マルク・ペレノード氏は、再調査の必要性を強調する。

もっと読む 「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部