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デジタル時代の直接民主制

Reuters

スイス政府は電子投票の導入に力を注いでいる。しかし、世界を股にかけて行う電子投票への移行は、安全面を考慮して段階的にゆっくりと行われる。利用の一番手は「第5のスイス」、つまり在外スイス人だ。

 政府に迷いはない。10年間にわたる試験や数々のプロジェクトを終えた今、直接民主制の未来はマウスをクリックして行う電子投票にあると確信している。有権者が国民の権利を行使するにあたって望んでいるのは間違いなくこの方向だというのが政府の見解だ。

 6月に発表された電子投票に関する3次報告書の中で、政府は次のように説明している。「コミュニケーション分野や種々のビジネスにおける過去数十年間の社会的発展を見れば、電子投票の導入はごく自然で当然の帰結だ」

 試験プロジェクトに参加した13州の経験を元に、政府は電子投票を世界規模に広げる意向だ。だがモットーは今後も「スピードアップより安全を」。つまり実現化は段階的に、州との協力の中で安全確保や連邦主義を尊重しながら進められる。

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まず「第5のスイス」

 電子投票の利用を拡大するにあたり、真っ先にその対象となるのが外国に住むスイス人。2015年の総選挙で在外スイス人の大半が電子投票を利用できるようにすることが目標だ。政府は電子投票の導入を考えている州に対し、試験は今後も在外スイス人から始めるよう奨励している。

 現在、在外スイス人の中で電子投票が認められているのは、ロックされたデータの伝送について定める「通常兵器及び関連汎用品・技術の輸出管理に関するワッセナー・アレンジメント(新ココム)」の参加国に住む人のみ。だが、2014年にはこの条項も廃止されることになった。

 

 在外スイス人は在外スイス人組織(OSA)の請願を通じて要望を出していたが、これに政府が応えた形だ。在外スイス人組織の法律部門を率いるサラ・マスタントゥオーニさんは次のように語る。「(政府の対応に)満足はしているが、まだもちろん外国に住むスイス人全員が電子投票できるように働きかけている。そのためには移行のスピードアップが必要。まだ何もしていない州も電子投票導入の方向に動かしたい」

電子投票の初試験は2003年。ジュネーブ州の州民投票で利用された。2005年にはヌーシャテル州とチューリヒ州が試験を行った。

各州の電子投票システムは独立している。チューリヒ州とジュネーブ州が作った各ソフトは他の州も利用。

関心を示す州の数は増加しており、現在、試験に参加しているのは13州。

ジュネーブ州のシステムはバーゼル・シュタット、ベルン、ルツェルンの各州が利用。フリブール、グラウビュンデン、ソロトゥルン、シャフハウゼン、ザンクト・ガレン、アールガウ、トゥールガウの各州はチューリヒのシステムを使っている。

バーゼル、グラウビュンデン、アールガウ、ザンクト・ガレンの4州は、2011年の国民議会(下院)選挙で初めて電子投票を使った。

同年、チューリヒ州では見直しを図るため電子投票を凍結。2014年に新たに利用する見込み。

ジュネーブ州とヌーシャテル州では地元有権者にも電子投票を提供しているが、他の州では在外スイス人のみに的を絞っている。

2012年は国内のスイス人約9万人と在外スイス人6万5千人に電子投票が提供された。

増える参加州

 動き出した州はすでにいくつかある。2014年には、ウーリ、オプヴァルデン、ヴァリス/ヴァレーの各州が外国に住む有権者に電子投票の機会を提供する計画だ。これらの州は、ジュネーブ州のコンピューターシステムを利用する。クリストフ・ジュヌー州政府副事務局長は「この3州が次の段階の対象だ」と話す。

 ジュネーブ州の情報プラットフォームを利用したいという州は他にもあり、現在話し合いがもたれている。だが、州の名前は公開されていない。「まだ取り決めを結ぶには至っていないからだ」とジュヌー州副事務局長。

 チューリヒ州統計サービス局長のステファン・ランゲナウアー氏は、チューリヒのコンピューターシステムの利用を考えている州もあると言う。しかし、ここでもその州名は明かされない。

 チューリヒ州自体は2014年、1年間の中休みを終えて電子投票のテストを再開する意向だ。すでに在外スイス人向けに電子投票を導入した州は、今後、地元に住む有権者が利用できるようにしていく。

政府は個人利用のPCに電子投票の安全リスクがあるとみており、報告書に次のように記している。「個人利用のPCは電子投票のアキレス腱と見なされる。当局の管轄外にある上、有権者の多くはPCを適切に守れるだけの技術的知識を基本的に持ち合わせていないと思われるからだ」

連邦官房は連邦工科大学チューリヒ校にこの問題の解決策を委託した。結果は数カ月以内に出る予定。

「耐えうるリスク」

 電子投票は今これからというところだが、そんな折、ジュネーブ州やチューリヒ州などでこのシステムに対する批判が持ち上がった。これらの州の緑の党や右派国民党は猶予期間を設定すべきだとまで訴えている。きっかけとなったのは7月末のマスコミの報道だ。あるコンピューターセキュリティの専門家が、ジュネーブ州のある有権者の票の中身を気づかれることなく変えたのだった。

 だが、当局にはそれほど驚いた様子は見られない。「電子投票の試験を始めたのはもう10年以上前になるが、そのときから関係者はこのようなリスクがあることを承知していた。だが、これはしょっちゅう起こることではない。専門家も、ある一定の条件下では仕方がないものと判断している。試験の参加者数は、潜在リスクを考慮して決めている。悪用されても、投票全体に影響が及ばないようにしてある」。こう説明するのは連邦官房ののトーマス・アプエッグレン情報・コミュニケーション技術副部長だ。

 このような危険性は、政府の電子投票に関する3次報告書でも明らかにされている。現行のシステムや参加者数で考えられる危険性は、世界的に「耐えうる」と評価されている。そんな中、政府は電子投票の拡大を急ぐよりも、適切な安全水準の達成を目指す。

必ず認証を

 現在、一つの州で電子投票の試験に参加できる有権者数は全体の最大3割。現行のコンピューターシステムを引き続き利用するのであれば、この数は今後も変わらない。一方、有権者全員が電子投票できるようにしたければ、投票者の認証が可能になる第2世代のソフトの利用が義務付けられる。

 つまり、新しい安全対策の中心要素は認証の導入だ。認証できれば、データを漏らすことなく、投票結果の公表前に組織的な操作を発見しやすくなる。認証が可能になることで、票の中身は意図通りなのか、投票の意図があったのか、意図通りに票が数えられたのかなどを追うことができるのだ。

 だが、第2世代の電子投票システムへの移行には膨大な費用がかかる。そのため、とりあえずは認証の範囲を狭めてのスタートだ。初期の電子投票の利用者数は全体の半分以下になる見込み。こうすることで、外圧を受けることなくそれぞれのペースで各州に移行を進めてもらおうという意図だ。

(独語からの翻訳 小山千早)

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