「データが国民に力を与える」
国連の世界データフォーラムがスイスの首都ベルンで開かれ、国連の持続可能目標を達成するためにデータをどう活用していくか、世界の専門家が話し合った。スイス大使として参加した連邦外務省開発協力局のトーマス・ガス副局長は、スイスの開発援助にもデータが重要だと力説した。
新型コロナウイルスの流行が始まって以来、公共データに対する需要がかつてなく高まっている。普段はデータを避けて生活しているような人でも、突如として実効再生産数やワクチン接種率、超過死亡率といった数字に付き合わざるを得なくなった。
各国政府はこうしたデータに基づいて感染対策を講じた。そうでなければ実情を踏まえていないと非難された。これはつまり、データを公開し利用できるようにすることの重要性を浮き彫りにしている。「計測可能でさえあれば、誰かに責任を持たせることができる」。スイス連邦統計局のジョージ・シモン・ウルリッヒ局長は、3~6日にベルンで開かれた第3回国連世界データフォーラム外部リンクでこう強調した。
進捗を測り目的を検証する。可能な限り優秀なデータエコノミストが可能な限り多くの国のデータにアクセスできるようにすることは、同フォーラムに参加した110カ国700人が目指す目標だ。国連の持続可能な開発目標外部リンク(SDGs)17項目の検証を目指す。
スイスもSDGs達成に向け努力を進め、国外にも活動のすそ野を広げる。swissinfo.chはスイス連邦外務省開発協力局のトーマス・ガス副局長に、データやSDGsがスイスの開発協力をどう変えていくのかインタビューした。
swissinfo.ch:SDGsはスイスの開発協力にとってどんな意味がありますか?
トーマス・ガス:SDGsによって、開発とは誰かが誰かに与えるものではないということが明確になりました。開発とは、国民自身が参加しなければならないものです。
SDGsは3つのパラダイムシフト(大転換)を引き起こしたと考えています。まず種々のテーマは孤立して存在しているわけではなく、互いに結びついているということです。例えば男女共同参画なしに経済振興はできません。安全を確保せずに教育を施すことも不可能です。安全ではない国で子供は学校に行けませんから。色々なことが結びついているということを、開発協力においては意識しなくてはなりません。
2つ目に、開発は長らく「与えられた者は、与えた者に対して釈明責任を負う」と考えられていました。SDGsはこれを転換し、国家が国民に対して釈明責任を持つことになりました。これは開発協力に置いて革命的なことです。
3つ目に、「leave no one behind」、1人も取り残さないという約束がなされたことです。かつては特に効率性が重要視され、自国が最も多くお金を得るためには、開発協力の財源をどう配分すればいいのか、という問いが立てられました。しかしそうした方針を取ることで、いつも同じグループの人々が取り残されたのです。SDGsは普遍的な人権に基づき、重大な経済的・社会的グループが置き去りにされるならば、それは持続可能な開発ではないと明言しました。
今回の世界データフォーラムを振り返って、最も重要な気付きは何でしたか?
国民に対する釈明責任が中心に据えられたことです。スイスでは自分の家の前に何かが建てられることになったら、誰が建築許可を取り、誰がそれを実行し何が建設予定なのか、それらを知るためにどこに行かなければならないかがすぐに分かる。スイスでは当たり前のことですが、世界中でそういうわけではないのです。
データを持つということは国民に力を与えます。政府や地方自治体に義務を課すだけではなく、参加し自ら何かを行う力をも与えます。これは開発協力の心髄となります。
開発協力では事業者と事業を求める人々が強くなければいけません。どちらか片方だけ強化することはできないのです。事業者だけを支援しても、国民が得るものはありません。国民だけを強化しても、苛立ちと不満が貯まるだけで、必ずしも良い事業が生まれるわけではありません。バランスの取れた関係づくりの鍵となるのが、データと透明性なのです。
データが民主化のような役割を果たすということでしょうか?
その通り!私にとってそれはこのフォーラムで最も大事なテーマでしたが、そうシンプルなことではありません。データは権力なのです。不正操作するために利用することもできます。事業者と国民の関係を強めるためにデータが使われるのは自明のことではありません。
データを理解できるように揃え、説明し、然るべき人間に提供しなければなりません。国民はデータに関する知識と能力が必要です。またデータの質が良くなければなりませんし、プライバシーを侵害してはなりません。例えば難民に関してそれは特に重要です。
世界データフォーラムでは「二重に見えない」というテーマの下、国内難民の子供たちの問題を話し合ったパネルも開かれました。国内難民はそもそも目に見えない存在で、国境を越えて初めて救済の対象になります。彼らの子供となれば、もはや何一つ把握されていません。どれだけ多くの子供が被害を被っているのかも検討がつきません。そうした子供がどのくらいいるか分からないのに、彼らに学校を建ててあげることができるでしょうか?
まさに新型コロナ危機で、私たちはひと月、1年学校に行かなかっただけで子供の成長可能性がどれだけ失われるかを目の当たりにしました。だからこそ「1人も取り残さない」という信念が重要なのです。
開発協力組織として、私たちは絶えず自問しなければなりません。「国民の中で誰が最も弱い立場にいるか本当に分かっているのか?その理由は?彼らが克服すべき社会・経済・政治上のリスクは?」と。
コロナ下でスイスでも突如食料を買い求める行列ができました。そんなことがスイスで起きるなんて想像もしていませんでした。「1人も取り残さない」は、こうしたグループを可視化するデータが存在して初めて実現します。
データが存在しない・不足している国について、開発協力局はどのように対処しているのですか?
それは大きな課題です。SDGsの達成期限は2030年で、今その折り返し地点に来ています。多くの国では下位目標や持続可能目標の指標に関するデータがありません。
データの穴が多いのです。部分的には市民社会の協力で補うことができます。森林破壊であれば、衛星画像などの地理データを使うこともできます。しかし大筋として、SDGsに向け前進できるかどうかを知るためにはデータの改善が急務となっています。
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