ハマスをテロ組織に認定すべきか イスラエル急襲で再び揺れるスイス
パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスのイスラエルに対する大規模攻撃を機に、同地域では報復の応酬が続く。スイスではハマスをテロ組織と認定すべきかについて議論が再燃している。
ガザ地区近辺では現在も戦闘が続く。ハマスが7日にイスラエルへの一斉攻撃を仕掛けて始まった戦闘では、これまでにイスラエル人900人が死亡、子供・高齢者を含む150人超が拉致された。ガザ地区では500人以上の死者が出ている。イスラエル領土への襲撃としては、エジプト・シリアと交戦した1973年の第4次中東戦争以来最悪の規模となった。
イスラエル国防軍（IDF）は9日、報復としてガザ地区のハマスと武装組織「イスラム聖戦」の施設500カ所以上を攻撃したと発表した。イスラエルのヨアブ・ガラント国防相はガザ地区の「完全包囲」を命じ、当局が電力や食料、燃料を封鎖すると宣言した。
国連安全保障理事会は8日に緊急会合を開き、米国は全理事国に「ハマスによる凶悪なテロ攻撃」を強く非難するよう要求した。ただ具体的な対応はまとまらなかった。
8日の声明によると、安保理の非常任理事国を務めるスイスは緊急会合で「ハマスのイスラエルに対するテロ行為やロケット弾発射などの衝撃的な攻撃を非難した」。ガザ地区で拘束されている人質の解放と暴力の抑制を求める一方、民間人の犠牲者全員に遺憾の意を表し、国際人道法の尊重を求めた。
なぜスイスはハマスをテロ組織と認定しないのか？
欧州連合（EU）、米国、英国、日本外部リンクはハマスをテロ組織に指定しているが、中立国スイスはこうした宣言を行っていない。スイスは独自のテロ組織指定リストを持たず、ハマスをテロ集団に指定していない安保理による制裁を踏襲するのみだ。
中東の和平促進活動において、スイスはイスラエルとパレスチナ間、またイスラエルとの和平を目指す（パレスチナ自治政府の主流派組織）ファタハとハマス間の対話を促進するため、全関係者とコミュニケーションをとっている。ハマスをテロ組織に指定すれば直接対話ができなくなるとの懸念を抱く。
政府外部リンクによると、スイス当局は公式にハマスとの接触を維持しており、「この文脈における包括的な接触と仲介政策は、特に有事において米国やEUなど主要国に評価されている。イスラエルはまた、ハマスとの接触についてスイスから定期的に報告を受けている」。中立国スイスは仲介政策外部リンクのもとで、エジプトとカナダでイランの利益代表、イランにおける米国の利益代表、サウジアラビアとイラン、またジョージアとロシアではそれぞれ互いの利益代表を務めている。
スイスのユダヤ人団体はハマスの禁止を要求
スイスのユダヤ人団体はこれまでハマスをテロ組織と認定するよう繰り返し要求しており、7日の奇襲を受け改めて要請した。スイス・イスラエル協会はホームページ外部リンクで「スイスの中東政策の責任者にとって、今日とこれからの数日間は立場を再考する機会に他ならない。EUや米国、その他の国々が長年行ってきたように、ハマスをテロ組織と宣言することもその1つだ。スイス当局がハマスとどのような関係を維持したいのか、真剣に自問する必要がある」と訴えた。
スイス・ユダヤ人会連盟と「スイスリベラルユダヤ人プラットフォーム」も共同声明外部リンクを発表した。「明確に禁止しない限り、ハマスは通常の政治主体としての正当性を得ることになる。ハマスはスイス国内を自由に移動し、寄付を集め、財政を処理できる」
反人種差別・反ユダヤ主義財団もスイス政府に対し、今回の奇襲を受けてハマスをテロ組織に分類するよう呼びかけた外部リンク。
スイスの国会議員はハマスをどうみているか
スイス議会では、ハマスをテロ組織に分類する試みは全て失敗に終わってきた。直近では右派・国民党のルーカス・ライマン議員が提出した発議外部リンクが2022年6月に下院で否決された。ライマン氏は、国民党がこの件に関し新たな提案を練っていると述べた。
国民党は9日、ハマス及びハマスと関連するパレスチナ組織へのあらゆる援助を禁止する必要があるとX（旧ツイッター）に投稿した。
中道左派の急進民主党は声明外部リンクでハマスをテロ組織に指定するよう政府に求めた。「これまでは、地域の全ての関係者との対話が容認されてきた。今回の襲撃で、もはやそれは許されなくなった。そのような行為を計画・支持する人々との対話は不可能だ」。同党はスイスのパレスチナ開発援助を見直し、ハマス関連組織に対する支援停止も検討するよう主張した。
スイスは、国連パレスチナ難民救済事業機関（UNRWA）と30の現地NGOに年間約2千万フラン（約32億8千万円）を拠出している。
議会のイスラエル議連も連邦内閣と議会に対し、スイスの立場やハマス・イランとの関係を再考するよう求めた。
スイスの親パレスチナ組織の見方
「スイス・パレスチナ友好議連」のメンバー10人は襲撃後、表向きはハマスから距離を置いているようだ。左派・社会民主党のファビアン・モリーナ議員は9日、無料紙20min.に「ハマスは犯罪組織であり、腐敗した集団だ」と語った。自由緑の党のビート・フラッハ議員は7日の攻撃を「紛れもない惨事」と位置づけた。
ただモリーナ氏はイスラエル側の報復攻撃も非難した。「イスラエルの民間人を拉致し、町にロケット弾を撃ち込むのは卑劣な行為だ。だが復讐としてパレスチナの病院への電力を遮断することも同様に間違っている」
元国会議員（緑の党）でスイス・パレスチナ協会会長を務めるゲリ・ミュラー氏はドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガー外部リンクで、ハマスを禁止すればスイスが「良好な交渉活動」を進めることができなくなると警告した。「暴力は決して容認できない。イスラエルにとっても同じだ」と語り、過去半年だけでもユダヤ人入植者がパレスチナの村70カ所を攻撃したと指摘した。
ミュラー氏は、約200万人がガザ地区に取り残されているため、極端な反応が起こるのは当然だとも語った。「イスラエルはアパルトヘイト（人種隔離）国家。それだけのことだ。スイスがハマスをテロ組織と宣言したいなら、イスラエルの国家テロもそう呼ばなければならない」
英語からの翻訳：ムートゥ朋子
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