スイス北部のバーゼル・シュタット準州で13日、人間以外のすべての霊長類にも基本的人権を与えるべきだとする発議案について、世界で初めて住民投票が行われた。同案は反対多数で否決された。
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動物愛護団体「Sentience Politics外部リンク」が2016年に立ち上げた住民発議(イニシアチブ)は、「人間以外の霊長類の身体的及び精神的完全性に対する権利」を保証できるよう、州憲法の改正を要求していた。可決されれば霊長類が「もの」ではなく知覚のある「個人」として扱われ、例えば州内の大学では霊長類での動物実験ができなくなるとされた。
13日の住民投票で、有権者の74.7%が反対し否決された。投票率は51%だった。同日に連邦レベルの投票で問われた動物実験の禁止も反対79.1%で否決された。
霊長類には、類人猿(ボノボ、チンパンジー、ヒト、ゴリラ、オランウータン)のほか、ヒヒ、マカク、ワオキツネザル、オナガザル、マーモセット、ロリス、キツネザルなどがおり、全部で300〜500種がいると考えられている。
イニシアチブ推進派は投票キャンペーンで、霊長類は「痛みに対する感度が非常に高く、亡くなった人を悼み、他の動物に思いやりを持ち、将来の計画を立てることができる」と訴えていた外部リンク。
また、霊長類が持つこのような能力は、時に悲運のもとになってしまうとも主張した。「彼らは私たち人間に似ていることから、生物医学研究を行う対象として最適だと思われたり、観察や娯楽のために展示されたりする。そして利益が得られなくなったり、ケアが複雑になったりすると、手間をかけずに安楽死させることができてしまう。このような行為は、道徳的に正当化できない」
スイスでも有数のバーゼル動物園やスイス製薬業界の本拠地を抱えるバーゼル・シュタット準州議会はイニシアチブに反対。同議会は、スイスは世界で最も厳しい動物保護法を設けている国の1つで、このイニシアチブによって州内に生息する霊長類が今以上に保護されることはないと主張した。
「むしろ、私たちの基本的人権を希薄にし、人間と動物の境界線を曖昧にしてしまう。また、同イニシアチブは、動物を飼育すること自体を疑問視することになりかねない」
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(英語からの翻訳・編集 大野瑠衣子)
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