スイスの法人税改革案 可否は国民投票で
多国籍企業の優遇撤廃を目指した法人税改革法案の可否が、国民投票で問われることになった。同案は、国外からの圧力を受けて政府・連邦議会が進めていたものだが、反対派は「年金削減や増税につながる」と批判している。
左派の社会民主党を中心とした反対派は、「法人税改正は一般市民に犠牲を強いるもの」と見なしている。
「これは大きな詐欺だ」。国民投票を求める署名5万6千筆が連邦内閣事務局に提出された先週、社民党のベアート・ヤンス下院議員はそう話した。「この税制改革が行われれば、国の歳入が減り、年金受給額がカットされ、税金も高くなってしまうだろう」
現在、スイスに所在する外国企業がスイス国外で得た利益には、州税が軽減されている。経済協力開発機構(OECD)外部リンクや欧州連合(EU)外部リンクはこれを「競争原理に反し、自由貿易を歪めるもの」とし、税制の改革を求めてきた。しかし改革反対派は、「こうした税制改革の恩恵を最も受けるのは、多国籍企業や株主だ」と主張している。
連邦議会は今年6月、法人税改革法案を承認。これに対し、左派政党や労働組合は同法の公布から100日以内に必要な署名数を集めたため、税制改革の是非が国民投票で問われることになった。国民投票の実施日は来年2月になる見込み。
特別な地位
スイスには現在、優遇税制の恩恵を受けている外国企業が約2万4千社ある。その大半はフランス語圏のジュネーブ州、ヴォー州、ヴァレー(ヴァリス)州に集中しているが、ドイツ語圏のツーク州、シュヴィーツ州、オプヴァルデン準州にも多い。
きわめて複雑な法人税制改革の影響を受けるのは、国の財政だけではない。連邦制上の財政構造にも大きく影響し、高度な課税権を持つ州・基礎自治体にも影響が出るとされる。
反対派の試算では、税制改革により国の歳入は年間13億フラン(約1370億円)減少し、地方自治体においてはさらなる減収が見込まれている。
競争力
連邦議会の多数派および経済連合「エコノミースイス(Economiesuisse)外部リンク」は、法人税改革法案を歓迎している。
賛成派は、「左派はスイスの高い競争力を弱め、15万人分の雇用を危険にさらそうとしている」と批判。「新制度ではすべての企業が同じ土俵に立つことになる。改革を行えば、スイスの税制度は魅力的かつ国際的に認められたものとなる」と主張する。
スイス政府はこれまで「今すぐ対策を講じて、投資家に必要な法的安定性を提供し、外国企業がスイスから離れるのを防ぐべきだ」と繰り返し訴えてきていた。
法人税制改革法が施行されれば、現在、外国のホールディング会社や官民企業など子会社に与えられている優遇税制措置が撤廃される。スイスが外国企業の国外拠点としての魅力を維持していくために、その他にもいくつもの税制上の措置が講じられる。
その措置には、スイスに所在する外国企業の秘密積立金にかかる収税を10年間軽減することや、研究開発費への税額控除(いわゆるパテントボックス税制)、国内・外国企業を合わせたすべての企業に対する州レベルの一般法人税率の引き下げが含まれている。
(英語からの翻訳・鹿島田芙美 編集・スイスインフォ)
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