「令和」の時代が始まった。スイスのメディアは明仁上皇の退位と同様、新天皇に高い関心を寄せた。各紙が注目したのは、歴代天皇で初めて海外留学されるなどしたその国際感覚と、皇室の近代化への期待、そして雅子皇后がなぜこれほどまでに長期療養を要するのかという点だった。10連休の経済効果に触れたメディアもあった。
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マルチメディア・ジャーナリスト。2017年にswissinfo.ch入社。以前は日本の地方紙に10年間勤務し、記者として警察、後に政治を担当。趣味はテニスとバレーボール。
「現人神から人民天皇へ」
ドイツ語圏の日刊紙NZZ外部リンク(1日付)は徳仁天皇を「人民天皇(Bürgerkaiser)」という言葉で歴代の天皇と対比。普通の生活を経験させるため、14歳の徳仁さまをオーストラリアの農場に滞在させるなど「皇太子(明仁上皇)と企業トップの娘、美智子さまは文字通り、息子に人民的な価値観を与え、彼らのために思いを馳せる努力を行うことを教えた」。また自然災害の被災者や高齢者を慰問する姿を見せることで「現人神から人民天皇に変わる方法を身をもって示した」と評した。
さらに徳仁天皇が皇太子時代、英オックスフォード大学に2年間留学したことにも触れ「(上皇・上皇后の)教育はうまくいった。徳仁天皇は現代人の感覚を確立した」と指摘。「保守派はリベラルな考えだった先代同様、徳仁天皇にも苦しめられることになる。彼は人民天皇でありつつ、父親に増して国際理解と環境問題に力を注いでいくだろう」という専門家の見方を紹介した。
フランス語圏の日刊紙ル・タン外部リンク(4月28日付)は、新天皇・新皇后が皇室に新風を吹かせるのかという点について「2人とも複数カ国語を話し、海外生活の経験がある。徳仁天皇は特に水問題を長く研究しており、雅子皇后は困難な状況に置かれた子供たちの支援に力を入れている」とした。
皇室の近代化
新天皇に「皇室の近代化」を期待するのは、ドイツ語圏の地域紙ルツェルナー・ツァイトゥング外部リンク(30日付)だ。
「新天皇が天皇としての役割と任務を全うできるという点に疑いの余地はないが、一部の改革主義者たちは、彼に皇室の近代化も望んでいる」とする。その中で現在、議論になっている「女性宮家の創設」に触れ「今までと規則が変わらなければ女性皇族は結婚とともに皇室を去らなければならない。17歳の愛子さまも例外ではない」と報じた。
ドイツ語圏のスイス公共放送局外部リンク(SRF、1日付)も「59歳の新天皇は、皇室の厳格なルール、そして世界最古の君主制を現実にどう適応させていくかが問われる」と指摘した。
「雅子さまは男性優位社会における日本女性の象徴」
多くのメディアが、雅子皇后が適応障害により長期療養中なのは、厳格な皇室のしきたりやお世継ぎをめぐる「皇室からの重圧」などが原因だとした。その中でも、スイスの無料タブロイド紙「ブリック」は雅子さまを「男性優位社会における日本女性の象徴」とみる。
同紙は「雅子皇后は日本女性の象徴である理由外部リンク」と題した記事の中で、外交官の卵としてキャリアを邁進していた雅子さまを「世界最古の君主制の厳格なしきたりが壊してしまった」と指摘。「皇室の拘束服のせいで、雅子さまは自分のキャリア、人格を抑え込まなければならなかった。さらに彼女の『大罪』は、皇位継承権を持つ男児を生めなかったことだった」と述べた。
同紙はその姿が現代の日本女性に通じるという。昨年の世界経済フォーラム(WEF)の世界平等ランキングで日本が149カ国中110位だったことなどに触れ「多くの女性が雅子さまと同様、出産とキャリアの両立に苦心している。その点で、雅子さまは日本社会を象徴する存在といえる」と、精神科医の香山リカ氏がジャパンタイムズ外部リンクに語ったコメントを引用した。
10連休の経済効果
天皇交代で10連休となった日本。その経済効果に注目したのはスイスの経済誌ビランツだ。
同誌の電子版外部リンク(30日付)がロイター通信の記事として伝えたところによると、旅行大手JTBは日本人の5人に1人にあたる過去最高の2470万人が連休中、旅行に出かけると予測。その大半が国内旅行という。ビール大手アサヒ広報は連休中の需要増を見越して一部商品を5~10%増産したと話した。
同誌によると、専門家は10連休中の「好景気」が第2四半期の国内総生産(GDP)を押し上げるとみる。 第一生命経済研究所のチーフエコノミストは国内旅行消費額だけで30%増の1兆4800億円に達すると予想。SMBC日興証券のエコノミストは個人消費が前年同期比7.6%増になると見積もる。
徳仁天皇とスイス・ヌーシャテルのつながり
2014年、皇太子だった徳仁さまは、スイスのヌーシャテル外部リンクを訪問された。スイスと日本の国交150周年を記念し、ディディエ・ブルカルテール連邦大統領(当時)が自身の故郷であるヌーシャテルに徳仁さまを招待した。
SRFによると、フランス語圏にある都市ヌーシャテルは、日本の皇室と特別な関係がある。1862年、スイス連邦内閣が日本との条約交渉に当たり「特使および全権公使」として送り出したのが、スイス時計組合の会長でヌーシャテル州選出の上院議員エメ・アンベール・ドロス氏だった。 1864年2月6日、スイスはアジアの国では初となる日本との修好通商条約を結んだ。
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天皇陛下が「お気持ち」を述べたビデオメッセージ公表を受け、独語圏の日刊紙NZZ、ターゲス・アンツァイガー、仏語圏の日刊紙ヴァントキャトラー、ル・マタンをはじめとする多くのスイスメディアは、天皇陛下の言葉を引用しながら大きく伝えた。
各紙は、 天皇陛下がビデオメッセージで「体力の面などから様々な制約を覚えることもある」と述べられたこと、「これまでのように全身全霊をもって象徴の務めを果たしていくことが難しくなるのではないかと案じている」と懸念を表明したことを伝えた。また、天皇陛下が意向を示した「生前退位」は現法で認められておらず、天皇陛下による国政への関与と理解されるのを避けるため、退位の意向の直接的な表現はなかったと報道した。
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ブルカルテール氏は、皇太子さまと出会うのは今年これで2回目だとスピーチを始めた。2月に日本・スイス国交樹立150周年を記念して日本を公式訪問した際、天皇、皇后両陛下をはじめ皇太子さまに迎えられ素晴らしい時間を過ごしたという。「そのお返しにスイスに来ていただき、しかも私の故郷にこうしてお招き出来て感無量だ」と語った。
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