下院は右寄り、上院は中道に スイス連邦議会の行方は?
スイス全州議会(上院)の決選投票が19日に終わり、先月22日の国民議会(下院)と合わせ全ての議席が確定した。保守党が勝利した下院とは異なり、上院では中道政党が躍進した。世論調査機関gfs.bernのルーカス・ゴルダー共同所長に、今後4年間のスイス連邦議会の展望を聞いた。
swissinfo.ch:スイス議会選挙が終わり、上下院の全246議席が確定しました。勝者・敗者は誰でしょうか?
ルーカス・ゴルダー:最大の勝者は上下両院で躍進した中央党(Die Mitte/Le Centre)です。特に上院での主導的地位を強めました。中央党は今や両院のモデレーターとして行動する立場にあり、それは極めて重要な役割です。
とはいえ、中央党は多数派意見を見出す能力が実際にあることを証明しなければなりません。選挙戦ではまさに、反二極化を訴え解決策を模索することを約束したからです。
一方、緑の党(GPS/Les Verts)は両院で敗北しました。得票率は大幅に下落し、10%を割り込みました。ただ議席数は「緑の波」が起きた2019年選挙の前の時点より依然多く、そこまで明らかな敗北とは言えません。
環境政党の敗北を象徴するのが、上院議員のリサ・マッツォーネ氏(ジュネーブ州)が再選を逃したことです。緑の党は上院での会派形成に必要な議席数を得られなかっただけではなく、党の希望の星であり原動力であった若手議員を失いました。
swissinfo.ch:中央党が躍進した理由をどう説明しますか?
ゴルダー:さまざまな要因があります。単に政党名を変えたことだけが理由ではありません(編注:中央党の前身はキリスト教民主党=CVP/ PDC)。それは何よりも政治的マーケティングでした。
人民民主党(BDP/PBD)との合併で支持者が大幅に増えたわけではありませんが、同党は変化を起こす能力があることを証明したのです。
家族というテーマを強調することで、中央党は新たな政治エリートを擁立することに成功しました。新人のマリアンヌ・ビンダー・ケラー氏(アールガウ州)など、多数決選挙に勝利できる強力な女性候補です。
ゲルハルト・フィスター党首も党の立ち位置を見直し、選挙での勝利に重要な役割を果たしました。医療費抑制策を打ち出すことで、2023年総選挙の最重要争点に狙いを定めたのです。
swissinfo.ch:急進民主党(FDP/PLR)は勢力を維持することはできましたが、予想以上に劣勢となりました。国民党との連携は逆効果だったのでしょうか?
ゴルダー:急進民主党と国民党の連携が持つ弱点は、特に右派が上院の議席を失ったチューリヒ州で露呈しました。この結果が示すのは、急進民主党がもう少し中道に寄り、それをもっと明白に示さなければならないということです。
支持者の高齢化が進む他の伝統政党と同じように、急進民主党も若い有権者を動員する必要があります。しかし同党は新しいアイデアを取り入れて自己刷新することに失敗しました。国民党のしんがりとみなされる恐れがあります。
swissinfo.ch:保守系右派の国民党は下院で大勝利したにもかかわらず、上院で議席を伸ばせませんでした。むしろ上院では少数政党のままです。なぜでしょう?
ゴルダー:国民党はドイツ語圏で多数決方式の選挙に勝つための処方箋を見つけていません。それは保守右派の同党が中道右派政党と協力できないことも一因です。有権者は、国民党が下院でみせる二極化スタイルを高く評価しているようです。その一方で、そのスタイルが州を代表する上院でも機能するかどうか確信を持てずにいます。
地方ではなお国民党が大政党であることにも留意すべきです。現在、ライフスタイルは大都市だけでなく小規模な集積地においても都市化、デジタル化、グローバル化がさらに進んでいます。保守右派にとって勝ちにくい環境です。
swissinfo.ch:環境政党の大敗はどのような影響をもたらすでしょうか?
ゴルダー:長期的には、有権者は気候変動への解決策を求め続けています。それは緑の党も自由緑の党(GPL/PVL)も選挙で2連敗したことがないという事実が示しています。両党はいつも、敗北を喫しても前よりパワーアップして戻ってきました。気候は今後20年の根本問題であり、そうあり続けるべきです。
ですが緑の党は体制を建て直し、選挙運動の進め方を改善し、政治的立ち位置を見直す必要があります。緑の党と自由緑の党の分断は、環境活動家にとってハンディキャップです。両党の支持者が結集すれば、連邦内閣(政府)の閣僚ポストを主張できるほど大きな力になるでしょう。
swissinfo.ch:社会民主党(SP/PS)はわずかに議席を増やしましたが、環境政党の敗北を補うほどではありませんでした。その結果、下院全体では左派が弱体化、右派が強化されました。この新しい勢力図は、政治的なパワーバランスを根本的に変えることになるのでしょうか?
ゴルダー:いいえ、今回の選挙はパワーバランスを変えるものではありません。スイスではこれまで通り、左派は少数派です。解決策を見つけるためには、他の政治グループと連携する必要があります。
2011~19年は、社会民主党は急進民主党とともに社会・リベラルな解決策を見出すことが多くありました。近年は中央党と連携することが増え、今後4年間もそうした状況が続く可能性が高いです。
swissinfo.ch:下院の右傾化、上院の左傾化が進んだ場合、議会が袋小路に陥ることは増えるのでしょうか?
ゴルダー:そうは思いません。袋小路を避けるためには共通のアイデアが必要であり、それは存在します。たとえば金融政策の分野では、右派と中道派の間に共通の考え方があることがわかります。国民党を孤立させることで、左派と右派が妥協点を見出す可能性もあります。これは医療政策や対欧州外交にも当てはまるかもしれません。
気候政策に関してさえ議会が停滞する危険はなく、むしろ新たな同盟を築く機会だと考えています。ほとんどの政党が地球温暖化によってもたらされるリスクを認識しているからです。
swissinfo.ch:議会が右寄りに動いたことは、在外スイス人にとって朗報なのでしょうか?
ゴルダー:解決策を見つけようとしている人にとっては、これは朗報だと思います。デジタル政策の分野でも新たな同盟が生まれる可能性があります。これはオンライン投票の導入を強く求めている在外スイス人にとって重要な分野です。
私は議会と連邦内閣による新たな妥協案の模索に期待しています。しかしその妥協案は、最終的には国民の承認を受けなければなりません。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。