スイスのイグナツィオ・カシス外相が「国連難民救済事業機関(UNRWA)が中東和平の妨げになっている」と発言し、波紋を広げている。UNRWAを名指ししたこの発言を受け、アラン・ベルセ連邦大統領が火消しに走る事態に陥っている。
このコンテンツが公開されたのは、
スイス各紙が17日、初のヨルダン公式訪問を終えた外相インタビューの中で、この発言を報じた。
カシス外相は「パレスチナ人は難民キャンプにいる限り、祖国に帰ることを夢見ていられる」と発言。現在、パレスチナ難民キャンプには5万人が生活し、UNRWAから生活物資などの支援を受けているが、「全員がこの夢を叶えるのは非現実的。UNRWAは長い間、この問題の『解決策』だったが、現在ではむしろ『問題の一部』と化している」と述べた。
さらに「UNRWAは弾薬を提供して紛争を継続させている。私たちがUNRWAを支援することで、紛争を助長していることになる」と語った。
ただその一方で、米国などのように、UNRWAへの財政支援を大幅に減額することはしないと語った。
>>中道右派の急進民主党党首カシス氏
この発言を受け、ベルセ連邦大統領はカシス外相と会談。ベルセ大統領は翌18日、UNRWAが「地域の安定と過激派との闘いにおいて重要な役割を担っている」と評価し、同機関に対するスイスの支援はこれまでと何ら変わらないと強調した。
驚き
中東専門のスイス人元外交官で元UNRWA事務局長のイヴ・ベッソン氏はスイスインフォに対し、カシス外相の発言に非常に驚いたと語った。ベッソン氏は「UNRWAは今、パレスチナ人および難民への国際社会の関心を示す最後の痕跡だ。これらの発言は中立とは程遠い。イスラエルと米国に追従する主張だ」と批判した。
米国はすでにUNRWAへの大幅な支援削減を示唆している。
ベッソン氏は、イスラエルとパレスチナ解放機構(PLO)の間で締結された1993年のオスロ合意の和平プロセスで、パレスチナ側が求めたのは母国への帰還ではなく、1948年に発生した70万人に及ぶパレスチナ人難民に対し、イスラエルが責任を認めることだったと指摘。ベッソン氏は「自身のルーツや帰還の権利を心のよりどころとするこれらの人々に対し、気遣いがほとんどない」とカシス氏を批判した。
ジュネーブ高等研究所の中東の専門家、リカルド・ボッコ氏も「1948年の第一次中東戦争の起源と、パレスチナ難民に対する解決策を混同しないほうが良い。パレスチナ難民の状況は居住国によって異なる」と話す。
UNRWAの反応
UNRWAのピエール・クレーエンビュール事務局長はフランス語圏の日刊紙ル・タンに「スイスはこれまでUNRWAに対して多大な貢献をしてくれた」として、カシス外相の発言を巡る議論に加わるつもりはないと語った。
クレーエンビュール氏は「今中東で起こっていることを鑑みれば、人道・医療支援を提供する私たちの役割はますます重要になっている」と強調した。
政治家の反応は分かれている。右派国民党のクリスティアン・イマルク議員外部リンクはスイス公共放送ラジオ(SRF)に対し、カシス外相の発言は「正しい方向へ一歩進んだ」と評価。一方、社会民主党のカルロ・ソマルーガ外部リンク議員はこの発言にショックを受けたと述べ、次の連邦議会でこの問題を議論したいと語った。
おすすめの記事
ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)は10日、電気を使わない除湿器を開発したと発表した。壁や天井の建築材として、空気中の湿気を吸収し一時的に蓄えることができる。
もっと読む ETHチューリヒ、気候に優しい除湿機を開発
おすすめの記事
スイスでX離れ進む
このコンテンツが公開されたのは、
スイスで「X」から撤退を表明する企業や著名人が相次いでいる。
もっと読む スイスでX離れ進む
おすすめの記事
スイスの研究者、キノコで発電する電池を開発
このコンテンツが公開されたのは、
スイスの研究者たちが、キノコで発電する電池を開発した。農業や環境研究に使われるセンサーに電力を供給できるという。
もっと読む スイスの研究者、キノコで発電する電池を開発
おすすめの記事
ジョンソン・エンド・ジョンソン、スイスでの人員削減を計画
このコンテンツが公開されたのは、
米ヘルスケア大手ジョンソン・エンド・ジョンソン(J&J)は、スイスでの人員削減を計画している。
もっと読む ジョンソン・エンド・ジョンソン、スイスでの人員削減を計画
おすすめの記事
「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱
このコンテンツが公開されたのは、
スイス最大手のUBS銀行の資料室には、第二次世界大戦中の行動に関する秘密がまだ残されている可能性がある――。過去にスイスの銀行と独ナチス政権とのつながりを調査した歴史家、マルク・ペレノード氏は、再調査の必要性を強調する。
もっと読む 「スイス銀行のナチス関連口座は再調査を」 歴史家ら提唱
おすすめの記事
スイス航空の緊急着陸 客室乗務員の死因は酸欠
このコンテンツが公開されたのは、
スイスインターナショナルエアラインズ(SWISS)のブカレスト発チューリヒ便が先月オーストリアのグラーツで緊急着陸した後、客室乗務員(23)が死亡した事件で、死因は酸欠だったことが分かった。複数のスイスメディアが報じた。
もっと読む スイス航空の緊急着陸 客室乗務員の死因は酸欠
おすすめの記事
ユングフラウヨッホ、2024年の来場者が100万人を突破
このコンテンツが公開されたのは、
ユングフラウ鉄道グループは、ユングフラウヨッホの2024年の来場者が105万8600人となり、2015年以来6度目の100万人の大台を超えたと発表した。
もっと読む ユングフラウヨッホ、2024年の来場者が100万人を突破
おすすめの記事
2024年のスイスの企業倒産件数、過去最高に
このコンテンツが公開されたのは、
スイスは2024年の企業倒産件数が過去最高を記録した。
もっと読む 2024年のスイスの企業倒産件数、過去最高に
おすすめの記事
国民投票に向けた署名がまたも偽造
このコンテンツが公開されたのは、
医療品の安定供給を求める国民投票に向けて集められた署名のうち、3600筆以上が無効な署名だったことが明らかになった。
もっと読む 国民投票に向けた署名がまたも偽造
おすすめの記事
スイスの柔道家エリック・ヘンニ、86歳で死去 東京五輪柔道銀メダリスト
このコンテンツが公開されたのは、
1964年東京オリンピックで銀メダルを勝ち取ったスイス人柔道家のエリック・ヘンニ(Eric Hänni)さんが25日、86歳で死亡した。スイス柔道・柔術協会が発表した。
もっと読む スイスの柔道家エリック・ヘンニ、86歳で死去 東京五輪柔道銀メダリスト
続きを読む
おすすめの記事
米国により財政難になったパレスチナ難民救済事業にスイスが資金支援
このコンテンツが公開されたのは、
昨年の米国の支援凍結により国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)が資金不足に陥ったことを受け、スイスは2019年早期に更なる資金を支援する方針を掲げた。それに対し同機関の事務局長ピエール・クレヘンビュール氏は29日、スイスの資金支援に感謝を表明した。
もっと読む 米国により財政難になったパレスチナ難民救済事業にスイスが資金支援
おすすめの記事
国際機関を徐々に弱体化させるトランプ政権
このコンテンツが公開されたのは、
ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任した昨年1月、ジュネーブの国連や各種国際機関の関係者たちはこれから訪れるであろう激動の時代を予感した。
もっと読む 国際機関を徐々に弱体化させるトランプ政権
おすすめの記事
予測不可能なトランプ政権、ジュネーブに不安募る
このコンテンツが公開されたのは、
トランプ米大統領が就任し、国際機関が多く集まるジュネーブでは不安の声が聞かれる。トランプ政権がジュネーブにある国連事務所や他の国際機関にどのような影響を及ぼすのか予想がつきにくいためだ。
もっと読む 予測不可能なトランプ政権、ジュネーブに不安募る
おすすめの記事
パレスチナ「国家」に格上げへ スイスの中立は保てるか
このコンテンツが公開されたのは、
スイス政府は28日、国連におけるパレスチナの地位を「オブザーバー国家」へと格上げすることに賛同すると公式発表した。 スイスはこれまで中東紛争の仲介役として国際的な信用を築いていたが、パレスチナの格上げを支持することで…
もっと読む パレスチナ「国家」に格上げへ スイスの中立は保てるか
おすすめの記事
パレスチナ国家の在り方を問う
このコンテンツが公開されたのは、
エルサレムにある連邦外務省開発協力局(DEZA/DDC)協力事務所長を務めるジャンカルロ・デ・ピチョット氏に話を聞いた。 東エルサレムには、商店街と呼べる通りはもうあまり残っていない。数少ないそんな通りを歩いても、パレ…
もっと読む パレスチナ国家の在り方を問う
おすすめの記事
スイス政府 イスラエルのガザ支援船攻撃に対し調査を要求
このコンテンツが公開されたのは、
この船団は、ガザ地区の住民に人道支援物資を届けようとしていた。スイスはこの悲惨な結末を招いた事情を解明する国際調査を要求している。 国際機構の構築を 連邦外務省 ( EDA/DFAE ) は、複数の船団員が死亡し、けが…
もっと読む スイス政府 イスラエルのガザ支援船攻撃に対し調査を要求
おすすめの記事
キリスト生誕の地ベツレヘムの子どもたちへ援助を
このコンテンツが公開されたのは、
ヨルダン川西岸パレスチナ自治区にある同病院は、今年拡張と改装を予定しており献金をさらに必要としている。「クリスマスの献金は大きい。年間予算の3分の1がこれで賄われる」と広報担当官エルビン・シュラハー氏はベツレヘムのオフイ…
もっと読む キリスト生誕の地ベツレヘムの子どもたちへ援助を
おすすめの記事
スイスとイスラエルの関係に新たな緊張
このコンテンツが公開されたのは、
ミシェリン・カルミ・レ外務相は同日夜、国営ラジオフランス語放送RSRに対して「専門家レベル」の会見があったことを認めるとともに、ハマスはイスラエルとの対立を解決するために無視することのできない重要な関係者だと語った。 4…
もっと読む スイスとイスラエルの関係に新たな緊張
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。