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人道援助団体のジレンマ 安全と効率確保の難しさ 

救援物資が届いたことに喜ぶ国連職員、シリア首都ダマスクス、2014年3月20日 Reuters

紛争地帯では、人道援助活動に従事する支援要員を狙った襲撃事件が多発している。スイスのNGOや赤十字国際委員会(ICRC)などの人道援助団体は、安全を確保するために対応策を見いだそうと努力しているが、効率的な活動を続けながらスタッフの安全確保を図るには非常な困難が伴う。

 シリア、イラク、リビア、ウクライナ。2014年にも、人道援助に携わるスタッフが活動先のこれらの国々で命を落とした。その中には、シリアの「イスラム国」戦闘員によって米国人ピーター・カシグ氏が殺害され、残虐な映像が公開されるという、世界中に衝撃を与えたケースもあった。

 「安全確保は、私たちが最も気にかけていることだ」。紛争地帯や自然災害に見舞われた国々で積極的に活動する人道援助団体カリタス・スイスのペーター・シュタウダッハーさんは言う。「紛争地帯で使命を遂行し、スタッフの安全を確保するには、特別な計画と予算を要する」

 リビアやヨルダン、イラク北部のクルディスタン地域に避難したシリア人やイラク人の支援活動を続けるNGOテールデゾムも同意見だ。メディアへの広報を担当するゼリー・シャラーさんは「安全管理では、攻撃と事故を防ぐためのガイドラインがある。もちろんそれだけでは全てのリスクを取り除くことはできないが、このガイドラインのおかげでミッションを遂行する際、現場で状況判断ができ、スタッフの安全対策をとることができる」と言う。

 紛争地を含む世界80カ国以上で活動するICRCもまた、スタッフの安全確保という課題に直面している。広報担当者のディバー・ファフルさんは「今日、シリアやイラク、リビアで活動するには、安全に関して多くの課題がある」と話す。

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難解な方程式

 人道支援においては、スタッフの安全を確保することは至難の業といっても過言ではない。

 ミッションの目標を失わずに安全を確保することは、難解な方程式のようなものだ。現場での効率的な活動を損なうことなくスタッフを保護するには、慎重な計算が必要になってくるからだ。シュタウダッハーさんも「初めに立てた目標を、是が非でも現場で達成しようと考えてはいけない。重要なのは常に状況判断をし、何が必要で、何がそうでないかを見極めて優先順位をつけることだ」と指摘する。

 ICRCも、安全と効率のバランスを図ることは容易ではないと話す。「対立関係にある全ての陣営と対話するには、多くの時間がかかり、その交渉は厳しいものだ。助けを必要としている人々のもとに行くために、私たちは最低限の警備に頼らなければならないことが多い。現在、許可が下りなかったために行くことができなかった地域がいくつかある。私たちが自由に行動できないことも問題だ」(ファフルさん)。

目立たぬように

 例えば、有刺鉄線のついた壁を作ったり、活動の行動範囲を制限したりすればある程度は安全を守れるかもしれない。だが、それでは助けを必要とする人たちと援助する側の間にある溝を広げることになる。

 一般に、武装警備は、「命を救うためか、大事故・大惨事を回避する目的」にのみ認められる(シュタウダッハーさん)。一方で、武装警備をつければ、地元住人は人道援助団体を現地の外国軍と同じ類のものだと考えてしまうという。

 人道援助団体は、周囲に悟られずに活動しなければならない場合などは、援助団体だと分かるロゴや車両などを使用できないこともある。だが、そうすると今度は団体の身元があいまいになり、地元住民に警戒心を持たれてしまう。ファフルさんによると、このような厳しい状況下で、全ての現場に適用できるような魔法の解決策はない。「状況は各国で異なる。イラクでは、リビアやイエメンと同じようには活動できない。それぞれの国にあった策が必要だ」

地元住民との協力

 人道援助活動を安全に進めるには様々な問題が伴うが、現地で啓蒙キャンペーンを広げたり、住人や地元団体の声に耳を傾け、対話をしたりすることで、効率的な支援活動が可能だ。

 テールデゾムは、軍隊に頼るよりも地元住民に協力を求めるという選択肢をとった。「私たちはスタッフの大半を現地採用している。そのおかげで、現地のニーズをより明確に把握し、より的確な支援プロジェクトを準備できる」とシャラーさん。ICRCもまた、現地のパートナー団体やその国の国際赤十字・赤新月社連盟(IFRC)と協力して活動しているという。

 カリタス・スイスも、現地の人々の協力を得ることが重要だと考える。「だが、私たちに協力することで彼らをトラブルに巻き込むことがあってはならない。危険にさらさないように留意する必要がある」(シュタウダッハーさん)

(仏語からの翻訳・編集  由比かおり)

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