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公務に市民ボランティア スイスの伝統が衰退の恐れ

自治体の集会には多くの一般市民が参加してきた。ヴォルフェンシーセン、1994年 Keystone

スイスの地方政治では、市民がボランティアとして働くというユニークな特色があるが、この伝統が衰退しつつある。チューリヒのシンクタンクは市民の公務参加を義務化し、伝統を継続させようとしている。

シンクタンクのアヴニール・スイス外部リンクが発表した200ページに及ぶ小冊子外部リンクは、国内26州と2300以上の地方自治体(市町村などの基礎自治体)における厳しい現実を描き出している。

ボランティアで地方自治体や州レベルの公務を担当する人の中にはフルタイムの仕事をしている人も多いが、こうしたボランティアの数は20年近く前から減少の一途をたどる。こういった務めに意欲的な市民を探すことに苦労する地方自治体の数は3分の2に上ると推定される。

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スイスでは、連邦、州、基礎自治体レベルで合計15万人の人々が公務に従事していると推定される。

基礎自治体だけでも、地方議会の議員1万4千人が毎年100万時間を会議に費やしている。多くの場合、時給約25フラン(約3170円)が支払われる程度で無償労働に近い。

政治におけるボランティア制度は「世論調査でいまだ高い支持を受けている」(アヴニール・スイス)が、多くの小さな自治体はボランティアで公職に就く市民がいなくて困っている。その現実をはっきり示す例が2つある。いずれも、意外な人物が公職に就くことを承諾したという例だ。

1つは、セドルンという山村。この村に別荘は持っているが別の地域で暮らしていて仕事もしているという男性が、3月に村長に選ばれる見込みだ。候補者がこの人しかいないためだ。

もう1つの例は、スイス東部の農村部に位置する人口800人あまりのヒュットリンゲン。スイス国籍を取得してわずか数カ月のドイツ人男性が投票で自治体長に選ばれた。

職業政治家の議会

この2つの例は根本的な問題を示している。1つは、社会が個人主義的な方向へ向かっているということだと、アヴニール・スイスは分析する。

別の問題としては、地方議員、教育委員会や建築委員会の扱う仕事や、教会コミュニティーの一部としての社会福祉事業といった公共サービスが、今日ではどんどん複雑になっていることが挙げられる。

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これらの仕事に就こうという人は、ハードな公務と、家庭や本業を両立させなければならない。

同時に、連邦議会議員の仕事が疑いようもなく「プロ化」しつつあるという傾向を示す調査結果もでている。

スイスのDNA

アヴニール・スイスのディレクターであり、ドイツ語圏の主要日刊紙NZZの元経済部長ゲルハルト・シュヴァルツさんは、市民がボランティアで公務をする制度は「スイスのDNAの一部だ」と称賛する。

だが、中立や直接民主制に比べてメディアからの注目は薄く、「今回の調査結果には危機感を覚える」と言う。このボランティア制度は、市民生活に密着したアマチュア(素人)政治家の手で行われることが重要だからだ。

民兵制

「民兵制」という言葉は、兵役と政治の両方の分野で使われる。

スイス歴史事典外部リンクでは、「全ての有能な市民が自由意志に基づき、あるいは副業として、自らの知識を最大限に発揮して、任務を果たすか公職に就く」という、共和主義的理想に基づいた政治の仕組みであると定義されている。

スイスではフルタイムで政治活動に専念する職業政治家が増えつつあるが、職業政治家に頼るようになればエリート集団が生まれ、結果として国の運営によりお金がかかるようになるかもしれない。増大する支出は市民や企業への増税でまかなわれるのが常だ。

「政治における『民兵制』は直接民主制の練習場のようなものだ」と、アヴニール・スイスの小冊子を作成したアンドレアス・ミュラーさんは話す。「この制度は、憤慨する市民が政府から離れて(過激なデモを起こすような事態を)防ぐことにもつながる」

共和主義の理想

だが、市民が納税や投票以外にも、国のために進んで貢献するという共和主義的な理想は社会から消えつつある。

この流れを止めるには、どうすればよいのだろうか。部分的な改革でどうにかなるのか、それとも国の制度を大改革する必要があるのか?賃金を見直すべきか、職務の変更が必要なのかなど、意見は大きく分かれている。

アヴニール・スイスが提示する解決策は過激だ。世論を喚起するため、「20歳から70歳までの、永住権を有する移民を含めた男女の市民全員に対し、約200日間の市民としての義務を強制する」ことを提案している。

計画には、基礎自治体の議会や地域行政での勤務、奨励金の導入など、さまざまな選択肢が含まれている。

計画のねらいは、公務のボランティア制度を補強し、市民と国の関係強化を図ることだ。

反応はさまざま

しかし、この提案への支持は限定的なようだ。いずれの主要政党も、このような市民の義務は支持していない。「非現実的」「文面に矛盾をはらんでいる」「民兵制への脅威」というのがその理由だ。

しかし、ミュラーさんは人々の反応に満足しているそうだ。

「重要な問題に関心を集めることができたし、主なメッセージは伝えられた。メディアでは私たちの調査について広く中立的な視点から報道され、政治学者たちもブログでこの問題を議論している」

しかし、各政党が突っ込んだ議論をしようとする姿勢を見せていないことには失望している。

「特に10月の選挙を控えて、板挟みになっている政治家もいるのかもしれない。議会の職業政治家の増加を公然と支持することも、長期的な傾向を否定することもできないのだ」

 奉仕活動

市民の義務と、兵役の代わりに行う社会奉仕活動は別物だ。後者は1996年に導入され、期間は通常の兵役の1.5倍となる。

兵役に不適合とされた男性は、非武装の民間救護部門に所属。災害時の緊急業務を支援する。

市民の義務は、スイス国民の男女および定住許可(滞在許可証C)を有する外国人に課される。

アヴニール・スイスは、インセンティブ制度を含む計200日の強制奉仕を提案。活動内容は、軍隊、病院や老人ホーム、地方行政や地方議会での仕事などだ。

スイスの徴兵制度では、18〜34歳の健康な男子は兵役に就くことになっている。スイス軍の中で職業軍人は5%に満たず、残りは民兵だ。

(英語からの翻訳・西田英恵 編集・スイスインフォ)

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