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スイスの若手消防団員、なり手不足

Zwei Feuerwehrmänner vor einem roten Fahrzeug
ダニー・オーベルト部長(写真左)とジャン・クロード・ボンヴァン分団長は共に、スイスの若手消防団員を見つけるのは至難だという。それでも長年にわたり情熱を注いできた防災活動を若手後継者に引き継ぎたいと願うのは両者とも同じだ swissinfo.ch

スイスでは災害、自然災害時の支援活動は、本職があり非常時のみ出動する有志の消防団員の活躍に頼るところが大きい。ところが近年、消防団員希望者の数が減少を続けているという。オープン・デーに消防署を訪問し、昼夜を問わず精力的に自治体の防災活動に関わる2人の消防団員に話を聞いた。

我々がヌーシャテル湖のほとりの、人口4700人ほどの自治体コルタイヨにある消防団拠点施設を訪れたのは暑い夏の午後のことだ。ジャン・クロード・ボンヴァン分団長とダニー・オーベルト部長が建物の中へと案内してくれた。後ろでは男性2人が消防車の点検をしている。

オープン・デー

スイスの消防団も議員や軍隊と同じように、本来の職業に加えコミュニティのために公務を担う名誉職制度外部リンクを採用している。ただ、名誉職は近年、なり手が十分に確保できず存続の危機にさらされている。

世間の関心を高め、詳細な議論を活発化させるために、スイス地方自治体協会外部リンクは2019年を名誉職制度の年外部リンクと定めた。

またスイスの消防団外部リンクは今年150周年を迎える。そのため、2019年は年間を通じて数多くのイベントが開催された。8月下旬にはオープン・デーを開催し、市民に施設を一般開放した。

自治体コルタイヨの緊急対応設備は「基本的なもの ―つまり火災と自然災害―」に焦点を合わせ、通常防車両10台と60人の消防団員が待機しているとオーベルトさんが説明してくれた。

合理的でスピーディーな対応

オーベルトさんの説明によると、消防団員は、呼ばれればいつでも対応できる(オンコールサービス)体制ではいるが、常時勤務する義務はない。ただし、4分以内に指定の駅に到着できることが条件となっている。

地域消防団を率いるボンヴァンさんは「自治体が要求する防災活動レベルを保つためにはそうでなくてはならない。コルタイヨ消防団員はアラームが鳴ってから遅くとも15分後には火災現場にいなくてはならない」という。

また、迅速かつ合理的に意思決定ができること、また活動を行うにあたって心身共に健康であることが、参加するための前提条件だ。消防団に参加したい場合はまず、健康診断に合格した後、実践と理論の両方で基本講習会を受講しなければならない。

また毎年、追加の講習を受けることも必須だ。「理論と実践の両面からさらに専門的に特化していくことが重要だ」(オーベルトさん)

ランボーはいない

オンコールサービス、介入、演習、理論コース。ボランティアでも消防団員として活動する以上、都合の良いときだけ参加するということはできない。タイムリーに効果的な活動を行うためには、十分な準備と規律は不可欠だ。

冷静さに欠く人はすぐに団員から除外される、とボンヴァンさん。「最優先すべきは安全確保。人の命を危険にさらすことはできない。誰かを救うために全力を尽くすが、不必要なリスクを負うことを避けるためにも、安全規則に従って行動する必要がある」

コルタイヨの消防団員は勤務時間1時間当たり20フランを謝礼として受け取る。火災現場に出動した場合は2倍になるが、それでもスイスの標準的な時給よりも低い。お金が参加動機でないのなら、プライベートな時間を割いてまでこの活動を行うのはなぜなのか――。

「第一に人が好きで、人を助けたいと思うから。他にも、自分の職業分野以外の、さまざまなことを学ぶ機会がある。これは自身の人生と職業にもとても役立つ。あとは仲間の存在も大きい」とオーベルトさんは話す。

世代交代

だが、そのような気持ちは若者の間では育ちにくいようだ。統計によると2018年はスイスのボランティア消防団の出動回数が増加したが、消防団員の人数は減少した。

グラフ
Kai Reusser / swissinfo.ch

現時点でコルタイヨ自治体の消防団員は50~60人と安定しているものの、世代交代による課題は抱えているとオーベルトさんはいう。「多くの消防団員がもうすぐ60歳を迎える。昔と比べて若者の参加が少なくなっている」

ボンヴァンさんは、これには考え方とライフスタイルの変化が関係しているという。「今日の若い世代は、暮らしている自治体コミュニティや地域とのつながりが遥かに薄い。フットワークが軽く、余暇を楽しむレジャーの種類も幅広く、変化に富んだことをしたいと思っている」

また若い世代が尻込みする他の理由として、消防団員が訓練と時間に多くの時間を費やす必要がある点を挙げる。「消防団は新技術や地滑りや嵐による突発的な洪水など、常に新しい課題に適応しなければならない」(オーベルトさん)

幼少時代のあこがれを再び

要求されるものは多いが、その分、消防団員として活動する魅力も多い。ボンヴァンさんは「ルーチン化することは絶対にない」という。この2人はなんとか若い世代の心の、子供の頃に感じた消防士へのあこがれを再燃させられないか試案中だ。

そのため今、若い世代の啓蒙活動に力を入れている。コルタイヨ消防団は今年、「若い消防士」訓練を開始。他の地域では「ミニ消防士」とも呼ばれるこの訓練では、12歳以上の対象者が段階的に、遊び心に溢れた効果的な方法で消防士の仕事に触れることができる。そうして登録の最低年齢である18歳になったときに、継続して続けたいと思ってもらうのがねらいだ。

消防士のヘルメット
幼少期に抱いた消防士へのあこがれが、大人になっても燃え続ける可能性も swissinfo.ch

女性の消防団員

現在、コルタイヨには16人の「ちびっこ」消防団員がいるが、そのおよそ半数が女の子だ。それほど驚く数字でないとボンヴァンさんたちは言う。

スイスの女性の消防団員数は過去10年で確実に増加した。コルタイヨでは現在、全国平均をわずか10%上回るほどだが、国内全体の女性の割合は約15%で、若い世代では約50%まで増える。

そのようなことから、スイスの消防団は不足分の穴埋めとして女性に希望を託している。これまでのスイスの消防団員の活動が父から息子に受け継がれた伝統だったとしたら、現代は父から娘へと受け継がれるようになるのかもしれない。今日我々を案内してくれた、ダニー・オーベルトさんのように――。

消防車と市民
今年、スイスの建国記念日の8月1日に行われた、消防団によるイベントにて。イベントはテーマ「社会へのコミットメント:名誉職の仕事」に基づいて開催された swissinfo.ch

(英語からの翻訳・大野瑠衣子)

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