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国民投票 ミナレット建設禁止の是非

ヴィンタートゥールにある、アルバニア系モスクのミナレット。煙突が建つ風景に建っている Keystone

11月29日に行われる国民投票では、イスラム教寺院の塔、ミナレットの建設禁止を求めるイニシアチブの是非が問われる。スイスには現在4カ所にミナレットがある。

この建築物に対しスイスでは今、宗教の自由に関しキリスト教とイスラム教といった二つの異なる宗教の見解の違いから来る対立や人権問題、社会、治安問題にまで及ぶ討論に発展し、さまざまな意見が衝突している。

「塔は問題ではない」

 イニシアチブの要求は簡素簡潔。「ミナレットの建設を禁止するという条項をスイス憲法に盛り込む」ことだ。イニシアチブを発足したグループは、当初から特定の宗教を差別するものではないと主張し、スイス憲法には違反しない要求文を作った。しかし、これが単に塔をめぐる問題ではないことは、イニチアチブが挙げた理由からも明らかだ。
「1980年にはたった5万6600人だったイスラム系住人がいまでは50万人に増えた。こうした急増問題にスイスは直面している。なぜなら、イスラム系住人はスイスで宗教活動をするだけではなく、政治的な権限を要求するようになってきているからだ」

 イニシアチブの中心となっている国民党 ( SVP/UCD ) 議員のウーリッヒ・シューラー氏も、政治的観点からの要求であることを認める。
「当然、私たちにとっては塔が問題なのではない。ミナレットには宗教的な意味はない。ミナレットは権力の象徴だ。政治的にイスラム化を完結する意図の鉾先である。根本的にスイスの憲法は、こうしたイスラム化とは相反するもの。私たちはこれに反対している」
 さらに
「スイス国内で、ベールをかぶるなど、( 宗教的 ) 強制による現象を多く見るようになった。スイス社会は平等で、顔を隠さなくとも自分の意見をオープンに言える社会だ」
 とスイスインフォに語った。

 10月末フリブール市で国民党が開催したイニシアチブに対する質問会では「ミナレットからコーランが流れるようになるのか」。「イスラム系住人の権利拡大になるのでは」。「コーランが定めるイスラム法が有効になるのか」といった質問が数多く出された。イスラム教と政治は切っても切り離せないのではないかといった疑問は質問会には参加しなかった有権者の中でくすぶる疑問でもある。イニシアチブ発足グループが意図した討論がスイス国内で活発だ。

 イニシアチブを発足したのは、右派政権党で国民議会 ( 下院 ) の議席過半数を占める国民党と、キリスト教原理主義的であると見られている政党連邦民主ユニオン ( EDU ) 。昨年7月、最低必要署名数10万票をやや上回る11万5000票を集め、イニシアチブを国民投票にかけることに成功した。投票日が迫る10月には、ミナレットをミサイルに見立てスイスの国旗に何本も突き立たせたポスターを制作。一部の州はこれを「人種差別であると」禁止するほど、挑発的な内容として受け取られた。

政府、経済界は毅然と反対

 国民議会では、132票対51票、全州議会 ( 上院 ) では39票対3票とこのイニシアチブを否決。政府も毅然として反対している。イニシアチブは
「人権憲章に加盟しているスイスとして、これを反故 ( ほご ) にする内容であり、スイスの憲法に相反する。このイニシアチブは問題を解決するのではなく更なる問題を生むものだ」
と指摘している。その問題とは、宗教的平和を侵す。人権保護に反し憲法違反。建物の建築政策は州に権限があり、州の独立性を侵すという3点を挙げている。
 
 エヴェリン・ヴィトマー・シュウルンプ法相は、イニシアチブがミナレット建設禁止を要求するに至った背景には、スイス国民がイスラム系外国人のスイス社会への融和に不安を持っていることや、極少数のイスラム教原理主義者との問題もあると認めるが、スイスでは外国人に対しても人権や宗教の自由が認められることをマスコミなどを通じ、繰り返し訴えている。

 スイス企業連盟 ( economiesuisse ) のゲロルト・ビューラー会長やスイス雇用者協会 ( Schweizerische Arbeitgeberverband ) のルドルフ・シュテンプリ氏も11月2日の記者会見で、宗教の自由と平等を侵すものでミナレット建設禁止は不必要という見解を示し、スイスが開放的で法治国家であることはスイスの特徴であり「スイスメイド」と表現。経済的にも大きな影響をもたらすとミナレット建設禁止の要求に対し、反対を表明した。

 現在、リビア政府との関係が悪化し、その解決にあたるミシュリン・カルミ・レ外務相は
「( ミナレット建設禁止は ) スイスの外交にとって、またスイスと外国諸国との関係上危険だ。外国を怒らせるような危険をはらむ」
 と語る。もっともアラブ諸国のメディアは、スイスの今回の国民投票について、直接宗教を攻撃するものではないと捉え、大きくは取り上げてはいないというスイスのラジオ報道もある。

佐藤夕美 ( さとうゆうみ ) 、swissinfo.ch

ジュネーブ、ウィンタートゥール ( Winterthur ) 、チューリヒ、ヴァンゲン・バイ・オルテン ( Wangen bei Olten ) の4カ所にミナレットのあるイスラム教寺院がある。
このほかおよそ130のイスラムセンターや祈りの家があるが、多くの場合一般住宅を利用したものだ。

スイスの国旗の上に、ミサイルに似せた黒いミナレットが何本も建ち、ベールをかぶった女性が横に立っているというデザイン。
こうしたミナレット建設禁止を主張するポスターを公共の場に張り出すことについて、スイスの市町村は大きく揺れた。
バーゼル、ローザンヌ、フリブール/フライブルクの各市では張り出し禁止となった。
一方、チューリヒ、ルツェルン、ジュネーブでは言論の自由が優先されるとして認められた。
連邦人権委員会は9月末、このポスターは偏見に近いもので社会的協力のためには勧められないという判断を下した。

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