国民投票 外国人犯罪者の国外追放
11 月28日に行われる国民投票で問われる第1 案件は、外国人犯罪者の国外追放についてだ。
外国人が罪を犯した場合、犯罪者は例外なく自動的に国外追放されるのか、それとも犯罪の程度によって国外追放が決まるのかを国民が判断することになる。
囚人の70.2%が外国人
スイスには現在170万人 の外国人が住み、それは全人口約750万人の21.7%に当たる。従来スイスは、キリスト教を信仰するヨーロッパの国々、スペイン、イタリア、ポルトガルから建設、ホテル業界などに外国人労働者を受け入れてきた。こうした労働者がスイスの経済発展に果たした役割は大きいと言われている。
しかし近年、旧ユーゴや、シェンゲン協定の「人の往来の自由」によりルーマニアなどの東欧からの移民は、スイス社会に溶け込まず犯罪に走るケースが目立ち、こうした新しいタイプの外国人による犯罪が増加している。
実際、2009年9月に発表された連邦統計局 ( BFS /OFS ) の調査では、現在スイス全土の刑務所には6084人の囚人が収容されているが、そのうち70.2%に当たる4272人が外国人で、全ての刑務所で収容定員をオーバーしている。
イニシアチブと対抗プロジェクト
こうした社会的状況を受け、右派の国民党 ( SVP/UDC ) が、外国人犯罪者の国外追放を強化するイニシアチブ ( 国民発議 ) を提出した。イニシアチブとは憲法の条項の改正を目的に発議を行うことだが、今回国民党は現行の条項をさらに厳しくするよう訴え、「罪、( 特に殺人、性犯罪、麻薬及び人身売買、強盗など ) を犯した外国人、または社会保障 を悪用した外国人の滞在許可書を、すべて自動的に取り上げること」を主張した。
これに対し政府と連邦議会は、イニシアチブに対抗するプロジェクトを提案。これは、イニシアチブが犯罪の程度を考慮せず、罪を犯したものは全員例外なく、自動的に国外追放されるべきだと主張している点を一番問題視している。
そのため対抗プロジェクトでは、犯罪の程度を考慮に入れ、ケース・バイ・ケースで判断して国外追放を決定すること、また外国人のスイス社会への融和政策も同時に憲法に導入するよう訴えている。ただし、重罪を犯した外国人は直ちにスイスから追放されることは、現行の条項で十分だと主張している。
こうした提案は、憲法の基本に則り、また国際人権法をも尊重したものだという。さらに社会保障の悪用に関しては、現行の条項でも十分スイスへの再入国を禁止できるという。
各政党の意見は分裂
今回、この案件に関する投票の仕方は複雑だ。国民はAのイニシアチブにもBの対抗プロジェクトにも賛成か反対を表明できる、つまりこの二つは独立した項目とみなされる。その結果、もし二つが共に過半数を超えて賛成された場合、Cとして「どちらの実施を選ぶか」という、計3項目について意志表示を行うという、過去2、3回しか実施されたことのない極めて珍しい投票になっている。
また、対抗プロジェクトはイニシアチブと同様、承認されるには投票者と州の両方で過半数の賛成を得る必要がある。
国民党は、再び人種差別、外国人排斥のためにこうしたイニシアチブを提案したと主張する左派政党の意見もあるが、一方で「国民は全般的に外国人犯罪者に対してより厳しい態度を取る傾向にあることは明らかだ」というチューリヒ大学の政治学者ミヒャエル・ヘルマン氏の意見もある。
実際、各政党の意見は分裂傾向にあり、国民党など右派政党がイニシアチブを支持するのは当然だが、中道右派のキリスト教民主党 ( CVP/PDC ) や急進民主党 ( FDP/PRD )は対抗プロジェクトを支持。中道左派の社会民主党 (SP/PS)及び緑の党 ( Grüne/ Les Verts )は、現行の外国人犯罪者の国外追放法で十分だとして、イニシアチブ、対抗プロジェクトの両方に反対している。しかし、中道左派の内部でも一部の党員は対抗プロジェクトを支持している。
憲法の条項の一部の改正を求めて行われる国民発議。
10万人分の署名を18カ月以内に集め、国民投票にかけられる。
承認には投票者と州の両方で過半数の賛成を得る必要がある。
イニシアチブが承認されるのは極めて珍しく、1891年から2007年にかけて承認されたのはわずか15だった。
しかし、2009年11月の国民投票では、やはり国民党のイニシアチブ「イスラム寺院の尖塔ミナレットの建設禁止」が予想に反して承認された。
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