国民投票、障害者保険改定案を圧倒的に支持
障害者保険 ( IV/AI ) 改定案の是非を問う6月17日の国民投票で、投票者は60%の支持率で改定案に同意した。
障害の早期発見早期治療で、できるだけ職場に残るよう提案した改定案は、22の州で支持を得、反対は4州にとどまった。
反対を表明したのはいずれもフランス語圏の、ジュラ、ジュネーブ、フリブール、ヌーシャテル州であったが、その反対率も50%をわずかに上回る程度だった。ドイツ語圏では、アッペンツェル・インナーローデン州の79.6%を筆頭に、多くの州で高い支持率を得た。しかし、投票率は36.2%で、過去数年で最も低いものの1つとなった。これは支持率の高さに反し、「判断が難しい投票のせいで、棄権者が増えた」と分析できるという。
問題の背景
障害者保険は、身体の障害で働けなくなった人に対し、月額最高2210フラン ( 約22万円 ) を支給する保険制度である。しかし受給者がここ10年間で急増し、運営状態が悪化していた。
政府側は、障害者がすぐ仕事をやめ保険に頼るのではなく、早期発見、早期治療で障害を本人と雇用者が一緒になり解決していき、障害の程度に応じた職を積極的に見つけるなどを奨励する改定案を提示した。これに対してレファレンダムが起こり国民投票を行うことになった。
改定案を強く支持する右派政党の国民党 ( SVP/UDC ) などは、保険受給の最大の理由である精神疾患の患者の中には、「みせかけ」の病人がいると主張していた。
これに対し多くの障害者協会、労働組合、社会民主党 ( SP/PS ) をはじめとする左派政党は、「基本的に障害者に対するサービスが低下する」とこの改定案に反対していた。
結果に対して
レファレンダムを提示したチューリヒの小さな障害者協会「自立のためのセンター ( ZSL ) 」は、今回の投票結果に「最も豊かな国の1つが、障害者の家族への保険支給を削減することに幻滅した」と訴えた。
また職を探してる障害者が5万人いるという現実を前に、「改定案のお陰で職が見つかるだろう」と言った人たちに、「これから職を見つけてくれるよう連絡をとる」と語気を強めた。
社会民主党の副党首、ピエール・イブ・マイヤール氏は、「右派の歪曲したキャンペーンのせいだ」と投票結果を批判。「この結果、現在およそ1カ月2000フラン ( 約20万円 )の支給を受けている全国8万組の夫婦が、毎月400フラン( 約4万円 )失うことになる」と語った。
一方、パスカル・クシュパン内務相は「政府の障害者保険政策に国民が全面的な信頼を寄せた」と選挙結果を高く評価し、レファレンダムを行う必要はなかったと語った。
しかし、右派政党の国民党は、この結果に満足しながらも、障害者保険の支給をさらに厳しくチェックするような次の改定案に向け、準備を進めると宣言した。
swissinfo、外電 里信邦子 ( さとのぶ くにこ )
1997年の障害者保険受給者数は17万3000人だったのに対し、2006年1月には29万9000人に増加。理由は精神疾患による受給者の増加だという。精神疾患の受給者は年間およそ8%ずつ増えている。
こうした受給者の増加に比例して、障害者保険は現在90億フラン ( 約9000億円 ) の赤字を抱えている。今回承認された改定案で、補償額が少なくとも年間5億フラン ( 約500億円 )は節約できるだろうとみられている。
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