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国際機関を徐々に弱体化させるトランプ政権

第72回国連総会の開会式で演説するドナルド・トランプ大統領
第72回国連総会の開会式で演説するドナルド・トランプ大統領、2017年9月19日、ニューヨークの国連本部にて Keystone

ドナルド・トランプ氏が米大統領に就任した昨年1月、ジュネーブの国連や各種国際機関の関係者たちはこれから訪れるであろう激動の時代を予感した。それから1年。「インターナショナル・ジュネーバ」の名で知られる国際交渉の場、ジュネーブは予算削減の危機こそ免れたものの、トランプ大統領の「米国第一主義」の外交政策は、ゆるやかではあるが大惨事につながっていく可能性がある。地元の関係者たちはそう警告している。

 ジュネーブ国際問題開発研究所(IHEID)のガバナンス専門家トーマス・ビーアステカー外部リンク教授は、「我々は巨大で危険な実験を行っている。これは米国と国際機関をめぐる真のテストといえる」とスイスインフォに語った。

 トランプ大統領はこれまで「米国第一(アメリカ・ファースト)」の名のもと、国際協力や多国間交渉を否定する一方で、外交関係の再交渉に重点を、二国間取引に信頼を置いてきた。

 先月26日に行われた世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の演説でも氏は「米国第一」を強調。米国はビジネスに開かれた国だと発言した。

 これまで氏は国際的な面で、対中貿易赤字を訴え、ジュネーブを拠点とする世界貿易機関(WTO)外部リンクを批判。環太平洋連携協定(TPP)へは復帰検討を表明したが、北米自由貿易協定(NAFTA)の見直しを求めている。

 大統領選挙遊説中は国連などの組織を公然と批判していたトランプ大統領だったが、政権の座についてからは語調を和らげ、国連は大きな可能性を秘めていると主張。アントニオ・グテーレス国連事務総長が主導する国連改革を支持した。また、国連を平和と調和に向けて一段と強力で効果的、また公正な機関にするための米国は「パートナー」であることを誓った。

 だが、米国務省は昨年6月、国連主導の地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定外部リンク」から米国が脱退を望んでいることを正式に伝えた。

 さらに、国連教育科学文化機関(ユネスコ)に対し、ユネスコの姿勢が反イスラエル的との懸念から脱退を10月に正式に発表外部リンク。続いて12月には、国連が意欲的に取り組んでいる移民問題の国際的戦略からの脱退を表明した。

 米政府はまた、国際機関への資金援助の見直しも行っている。昨年4月には、国連人口基金(UNFPA)への資金拠出を停止することを明らかにした。また先月には米国務省が、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)への支援パッケージ1億2500万ドル(約140億円)の半分以上の拠出を凍結すると発表している。決定的だったのは、昨年のクリスマスイブに発表された国連予算の削減だ。米国政府と欧州連合(EU)の交渉により、2018年~19年の国連運営予算をマイナス5%削減の54億ドルで合意外部リンクに至った。

 国連の最大の財政貢献国である米国は、2年ごとの通常予算の22%、平和維持活動(PKO)予算73億ドル(約8190億円)の28.5%を負担している。また同国は、ジュネーブに本部を置く世界保健機関(WHO)や国連難民局(UNHCR)などの多くの国連専門機関への主要資金提供者だ。

 ニッキー・ヘイリー米国連大使外部リンクは、「国連組織の非効率性と過剰な支出はよく知られている。もう米国の寛大さを利用されるままにはさせない」との声明を発表した。

限定的な財務上の影響

 ジュネーブのスイス国連大使、バレンティン・ゼルウィガー外部リンク氏は、国連の通常予算削減がジュネーブにどのような影響を及ぼすかをコメントするのは「時期尚早」であり、国連事務局のすべての業務にわたって影響を与えるだろうと述べる。

 国連職員組合のイアン・リチャーズ委員長は、予算削減の大部分は管理部門とニューヨーク本部で行われていたため、国連職員の給与が最近下がったジュネーブには限定的な影響しか及ぼさないとの見通しをしている。日刊紙トリビューン・ド・ジュネーブの最近の記事外部リンクでは、グテーレス国連事務総長によるロビー活動とスイスを含む国々による最後の仲裁によって、失業数は抑えられると伝えられた。

 主に州からの自発的寄付に依存している国際労働機関(ILO)など、ジュネーブに拠点を置く多くの専門機関は、「現在の米国政府の資金調達レベルに影響はないと確信している」とスイスインフォに返答。

 だが、米政治学者のダビッド・シルヴァン外部リンク氏は、国連通常予算の削減は「重大問題」と述べ、国連と専門機関の予算には引き続き米国の圧力が掛かると考えている。

多国間システムのリスク

 国際交渉の場、ジュネーブに対する拠出金削減よりもさらに深刻な脅威は、過去1年間のトランプ政策が影響し、多国間システムの正当性が長期的なスパンでむしばまれていくことだ、とシルヴァン氏は強調する。

 トランプ政権の明らかな標的になったのは、世界貿易機関(WTO)だ。中国をはじめとする他国の不公平な貿易慣行から米国の労働者を守る「米国第一主義」の公約に基づき、米国はWTOの紛争解決プロセスを弱体化させる狙い外部リンクがあると見られている。

 ベルギーのブリュッセルを拠点とするシンクタンク、ブリューゲル研究所のアンドレ・サピール上級研究員は、「振り返ってみると2017年は、共通のルールに基づいた自由貿易体制の終わりの始まりを示したかもしれない」とロイター通信に語った。

 米国の次の標的は、ジュネーブの国連人権理事会(UNHRC)外部リンクだ。ヘイリー米国連大使は昨年6月の訪問中に、反イスラエル的な姿勢を続けるのをやめるよう要求した。同大使は、米国の人権理事会からの脱退を検討しているとほのめかした。

 国際政治学者ビアステーカー氏は、トランプ政権の誕生以来、ジュネーブの米国代表団の新大使外部リンク、WTOとUNHRCの米国の新常任委員に誰も任命されなかったという事実を挙げ、「これは世界への関心の欠如と、孤立主義傾向との一致」を示していると述べた。

ギャップを埋める

 トランプ大統領を観察して1年経つが、氏のツイートなど外交問題に対する衝動的かつ反動的な発言内容のパターンを説明することは時々難しい。ただ一つ明確なのは、「トランプ氏はまだ選挙活動モードでいる。いくつかの点で言うと、よく吠えるが、噛まない犬のようだ」とビアステーカー氏は言う。

 前出のシルヴァン教授は、問題は「誰も仕事に精を出しておらず、基本的に以前の状態」であることだと話す。

 また、トランプ大統領とレックス・ティラーソン米国務長官と米国務省との間に確執があることや、特に外務省の多くの最高幹部のポストに人を任命していないことによって、「皮肉なことに、国際組織に対する米国の政策ははるかに低い水準に押し下げられている」と付け加えた。

 2017年に得た教訓の一つとしてビアステーカー氏とシルヴァン教授の両者が挙げるのは、米国が空けたリーダーシップの席を他の国々が進んで埋めようとしていることだ。その傾向は、パリ協定や最近の、国連安全保障理事会(UNSC)でのイラン反政府デモの討論で顕著に見られた。

 「米国の離脱やリーダーシップの放棄はそれほど恐ろしいものではなかったが、最終的には悲惨な結果を招く可能性がある」とビアステーカー氏は予測し、さらにこう締めくくる。

 「世界のその他の国々は前進しており、米国がこれから目を覚ますのを待っているわけではない。他の分野の問題も同様に、気候変動は最重要課題であり、米国の参加の有無にかかわらず、この課題に継続して取り組んで行く」

(英語からの翻訳・上條美穂)

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