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開発援助の恩恵に与るスイス

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「人のための人・スイス」はエチオピアの人々を支援する基金。人々は牛を受け取り、それを肥育してから売って利益を得る Ppr Media Relations Ag

国際開発金融機関の是非については意見が分かれるが、貧困国の経済発展を促進すべきこの超国家的組織の中で、絶大な影響力を持つのがスイスだ。そしてスイスは同時に、その恩恵にも与っている。世界銀行の資金が汚職を通じてスイスの口座に流れていることが、最近の調査で明らかになった。

世界銀行が融資を行う目的は、発展途上国や新興工業国の経済促進だ。しかし、当該国の富裕層が所有するオフショア口座の残高が、融資と平行して突然ぐっと伸びる現象は、もはや自然の法則と言ってもよい。世界銀行が行った調査外部リンクでは、開発援助のために世界銀行が支払った金額の7.5%が、被融資国の汚職を通じてタックスヘイブンの銀行口座に流れていることが明らかになった。金融機関の多く集まるスイスは、最も重要な流出先だ。

国際開発金融機関は複数国家が設立した超国家機関で、金融支援や技術的支援、知的貢献を通して途上国を支援する。民間商業銀行ではリスクが高くお金を貸せない事業にも融資をする。開発銀行は国際資本市場で大量の資金を調達し、融資の借り換えを行う。

つまり、スイスの銀行は、国際開発金融機関が貧困国の経済開発のために準備した資金の恩恵を間接的に得ているということになる。だが、スイス連邦経済省経済事務局(SECO)の多国間協力部門を率いるダニエル・ビルヒマイヤー氏は、「詳細は知らないが」と前置きした上で、最新調査のデータはあまり確かなものではなく、統計上それほど有効とは言えなさそうだと話す。そして、「汚職は多くの貧困国に見られる問題であり、制度上の対策や監視対策を講じてせき止めなければならない」と言う。

スイス企業が得る恩恵

しかし、スイスは国際開発金融機関の資金から、もっと直接的な利益も得ている。スイス企業は、この機関が融資している業務の委託先でもあるのだ。特に深く関わっているのが、医療、金融、水インフラ、エネルギー、農業などの分野だ。 

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基本的に、国際開発金融機関の公募には誰でも参加可能だ。だが、スイス企業が利潤の大きいこれらの委託業務を繰り返し勝ち取っていることは明白な事実で、スイス企業はいわば、この分野のプロのようだ。企業の要望に合わせて公募が規格化されているのか、それとも複雑な部分もある公募手続きの経験が他国に不足しているのか、その辺の事情は定かではない。

いずれにせよ、スイス企業は被融資国での委託業務を引き受けるだけでなく、運が良ければ新興市場外部リンクに半分進出したも同然の状態となるのだ。

影響力の大きいスイス

スイスは小国でありながら、国際開発金融機関の中では大きな影響力を持つ。最も勢力の強い加盟国はアメリカと中国だが、スイスは重要な委員会を率いているほか、現在は複数の機関で常任理事も務め、強力な経済力と高額の資金調達額のおかげで議決権の所有の割合も小国の割に高い。

SECOのビルヒマイヤー氏は、「国の大きさから見ると、スイスは平均以上の影響を与えている」と言う。「スイスは後援国のトップ10に入っており、その上、積極的に提案を行うことで非公式な枠内での足場も固めた。スイスはオピニオンリーダーの一人だ」

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国際開発金融機関の議決権に関して、「西側諸国と途上国の間に大きな開きがある」と批判するのは、途上国支援のシンクタンク「南同盟(Alliance Sud外部リンク)」のクリスティーナ・ランツ氏だ。西側諸国は資金を出す代わりに共同決定権を求めるので、当然と言えば当然のことだろう。お金を出す者が命を下す、というわけだ。

ビルヒマイヤー氏もこれに関しては同意見だ。「多額の資金を投資するのだから、方向性の共同決定権も欲しい」。特に直接融資しているプロジェクトでは、スイスの影響力は絶大だ。

民間セクターの抱き込み― スイスの発案?

世界銀行は、開発援助に民間セクターも抱き込むという、議論の余地ある進路を選択したが、スイスはここにも大きく関わっている。「スイスは早くから、的を絞った民間セクターの利用を主張してきた」と、ビルヒマイヤー氏もこの事実を認める。「だが、これは不規則な取引形成ではなく転成を意味しており、そのことは常にはっきりと示してきた。つまり、透明な市場の中期的な形成だ」。言い方を変えると、個々の企業ができるだけ利潤の多いビジネスを展開することが目的なのではなく、狙いは全体的な経済の発展だ。

民間企業が開発援助に駆り出されることについては、NGOから批判外部リンクが出ている。

ランツ氏は次のように語る。「企業はリスクを最小限にとどめ、利益を最大限に伸ばしたがる。だが、最貧国への投資はリスクが大きく、教育や医療プロジェクトへの投資など、貧困撲滅に必要な対策の多くは利益の見込みがない。世界銀行は、公民連携を促進してリスクを途上国に押し付けようとしていると言っても過言ではない」。言い換えれば、「利益を私有化し、リスクを国営化する」のだ。

対立要素はほかにもある。民営企業は非営利組織とは異なり、株主に対し利益の最大化を法律で義務付けられている。利益の追求と開発援助という公益を並行して等しく進めるのは、多くの場合困難だ。このような矛盾はSECOにもすっきりとは解決できない。しかし、「特に現地の中小企業を促進し、ダイナミックな地域市場を作り上げるべき」という見解は、SECOと南同盟の両者で一致している。「民間投資にも有益な良いものは必ずある」とランツ氏は言う。

国際開発金融機関の功績 ―そして批判

スイス政府は、世界の最貧困率が1981年の41%から2015年の10%へと減少したのは、実質的に世界銀行グループの功績だと発表している。

だが、ランツ氏の見方は異なる。「1980年代、世界銀行は構造調整プログラムを通じて、貧困率を高めてしまった。これは当時、途上国の赤字を削減するために広く実行されていた政策だ。国営企業の民営化などを通じて、被融資国の自由市場経済のバランスを取ろうとしたのだ」

このメカニズムは今でも働いている。インフラを建設して、その使用料を徴収する。これが問題になるのは、その地域の賃金が低すぎて、消費者が使用料を払えなくなったときだ。特に、国際企業が地域にそぐわない巨大で高価なインフラを建設したり、道路やエネルギー供給が民営化されたりしたときに、このような問題が浮上しやすい。

「モザンビークでは、公民連携の融資をもとに建設されるインフラが増えている。利用者は突然道路使用料を支払わなければならなくなるが、その理由が分からない」とランツ氏。

また、学校が民営化されたため学費の支払いが請求されるようになっても、払えない家庭が多いとランツ氏は言う。世界銀行が支援したタンザニアの公民連携の発電プロジェクトでは、実現後、電気代が1年間に40%も高騰した。インフラができれば、国民はもちろんその恩恵を受ける外部リンク。しかし、使用料の支払いのために子供を学校にやれなくなったり、商いに行く道路を使えなくなったりしたのでは、開発の促進というより、むしろ阻害と言った方が正しい。

「もちろん、国際開発金融機関のプロジェクトには良いものもある」とレンツ氏は認める。「再生可能エネルギーには多額の資金が注ぎ込まれており、小規模のソーラーパネルの拡充にも出資されている」。しかし、「まだ化石エネルギーに注がれる資金も多い」と批判も忘れない。

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(独語からの翻訳・小山千早)

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