女性議員比率17位のスイス 目標はまだ道半ば
スイスで女性参政権が導入されたのは今からちょうど50年前。現在は連邦議会の女性議員の割合が過去最高に達し、世界の女性国会議員比率ランキングで191カ国中17位だ。一見順調に見えるが、地方レベルでは改善の歩みが非常に遅い。
今から50年前の1971年2月7日、スイスの男性は、今後は女性にも参政権を付与すると国民投票で決定した。同年10月31日の連邦議会総選挙は、女性が有権者として、また候補者として参加を許された初の選挙となった。この選挙で11人の女性が国民議会(下院)の議員に当選し(全体の5.5%)、42議席ある全州議会(上院)の議員に女性1人が選ばれた。
その後はどのような歩みがあっただろうか?過去50年間のうちに、スイス人女性は政治分野でポジションを獲得できただろうか?
女性ストライキ後の女性選挙
2019年10月に行われた前回の総選挙は「女性選挙」として歴史に名を刻んだ。上下両院に当選した女性の数が過去最高に達したからだ。そのためスイスは世界の女性国会議員比率ランキングでまずまずのポジションにいる。スイスは女性下院議員の割合が41.5%で、世界191カ国中17位だ。
なぜ女性議員の割合がこれほど上昇したのだろうか?「19年は様々な要因が重なった」と、政治学者のザラー・ビュティコファー氏は話す。スイス政治、政治家のキャリアパス、ジェンダー問題に関する数々の研究プロジェクトに携わってきた同氏は、女性議員の割合を押し上げた要因に「時代思潮」と「世界的動向」を挙げる。例には、#MeToo運動や、ドナルド・トランプ元米大統領の女性蔑視的な言動に対する抗議運動のほか、女性ストライキと気候デモが盛り上がりを見せたスイスの状況がある。「立候補する女性が大幅に増えた。また、候補者名簿で女性の割合が高い左派政党や緑の党が議席を多く獲得し、獲得議席の大半が女性で占められた」と同氏は付け加える。
連邦レベルは短い低迷期を経て女性の割合が上昇
19年総選挙以前は、適切な男女比率が達成される見込みはほとんどなかった。下院では女性の割合が上昇していたが、上院と連邦内閣で下がっていたからだ。
だが国の行政府であり、7人の閣僚から成る連邦内閣は、10年に初めて女性が短期的にも過半数を上回った。その女性多数派の1人だったドリス・ロイトハルト氏は当時を振り返りこう語っている。「女性が過半数を占めた当時の連邦内閣ほど大胆な決断をした連邦内閣は後にも先にもない」
上院は19年総選挙で低迷期が終了した。前々回の総選挙では女性の割合が1991年以来最低を記録したが、前回の総選挙で過去最高となった。ただ、それでも約26%とまだ低い水準だ。
政治家のキャリアは地方レベルから
スイスの連邦制度では多くの権限が地方レベルに委譲されている。そのため州・基礎自治体の議会は総体的に重要な地位を占める。
おすすめの記事
三権分立
政治家の典型的なキャリアは地方レベルから始まる。居住地の基礎自治体の議会からスタートし、次に州議会議員の座を目指して奮闘する。そして仕事で良い成果を納め、適切な人脈を築き、多少の運があれば、国政の舞台に立てる。そのため地方政治は後世の政治家を育てるための重要な土壌だ。
他国では状況が異なる場合も多い。「他国では通常、政治家のキャリアは政党内でスタートする。議員職に就いてキャリアを築くケースは少ない」とビュティコファー氏は指摘する。だがスイスでも近年は政治家になる方法が少し変わってきたという。「例えば環境・気候分野や具体的なテーマへの直接的な関与をきっかけに政治家としてのキャリアを歩む人がスイスでも増えている」
だが「通常、女性は地方レベルで政治家のキャリアを歩む」と連邦外務省開発協力局で男女平等に関する助言委員を務めるコリンヌ・フーザー氏は言う。「本来、地方の方が女性議員の割合が高い。必ずそうというわけではないが、女性にとって地方の方がキャリアを始めやすいとされる」
19年総選挙で女性当選者数が過去最高を記録したことで、連邦議会における女性議員の割合が、基礎自治体や州の議会のそれよりも高くなるという逆転現象が起きた。似たような状況の国は他にもある。「一部の国ではクオータ制が導入され、当然ながら(女性議員の割合の引き上げに)強い効果が発揮された」(ビュティコファー氏)
州では緩やかな上昇
州議会における女性議員の割合はスイス全体でまだ30%だ。とはいえ、07~15年の停滞期以降は明らかに上昇傾向にある。州政府に関しては女性の割合はそれほど増えていない。
だが、どの州も同じ状況というわけではない。すべての州議会は男性が多数派だが、ヴォー州、チューリヒ州、トゥールガウ州の州政府は女性が過半数を占める。
ただ、大半の州では男性が州政府の指揮を握る。6つの州政府(大半は定数が5人か7人)に至っては閣僚全員が男性だ。
極端な例を除き、都市では停滞
都市でも女性の割合は州と同様の水準で推移している。ここでも目を引くのが、市議会よりも市参事会(市の行政府)の方が女性の割合が平均的に低い点だ。
ここでは、連邦や州の政府・議会ほど女性の割合が明確に上昇しているわけではない。女性の割合は過去10年間で停滞しているようにみえる。
だがどの都市も同じというわけではない。昨年11月の市議会議員選挙で男性の倍を超える数の女性が当選したベルン市は、スイスの都市の中でも明らかに稀な存在だ。
大きな都市のうち、女性が多数派を占める都市はベルン市以外にない。だが、大きな都市の方が小さな都市に比べて女性当選者の割合が高いとされる。その理由をビュティコファー氏はこう説明する。「女性当選者の割合に特に影響を及ぼしているのが、左派と右派との違いだ。都市部では緑の党と左派政党が強く、これらの政党は女性候補者の割合が高い。そのため、結果的に女性当選者の割合も高くなる」
19年の「女性選挙」で長期的に上昇するか
地方レベルで女性の割合を長期的に高めていくには、党の勢力も大いに関係してくるとビュティコファー氏は指摘する。「重要なのは各政党の勢力、そして党内の女性の割合だ」
フーザー氏も、連邦議会選挙での勢いが州レベルや基礎自治体レベルにも波及するかは今後判明すると考える。「この勢いがこのまま続くかは予想できない」。いずれにせよ、19年の総選挙で女性当選者が急増したからといって、もう何も手を打たなくて良いわけではない。それは女性の割合に関する各国の状況を見れば分かると同氏は言う。「時間が経てば割合が増えるというわけではない。大事なのは積極的な取り組みだ」
(独語からの翻訳・鹿島田芙美)
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。