スイス連邦議会は昨年12月、児童を虐待から守るための新しいガイドライン(指針)を承認した。特に家庭内にこもりがちな小さな子供を守るため、日常的に子供と関わるあらゆる職業に当局への通報を促す内容だ。
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ガイドラインはシモネッタ・ソマルーガ司法相をはじめとする議員が提起した。提案者らは、スイスで身体的・精神的虐待の犠牲になる子供の多さについて議論を投げかけた。毎年1500人の子供が虐待によるケガで病院の治療を受ける。その半数が6歳未満で、4人に1人は2歳未満だ。
「たった一つでも虐待事件は起きてはならない」。司法相はこう訴えた。提案により、2013年に新設された公的機関「児童・成年保護局(KESB/APEA)」に助けを求める人が増え、虐待問題の歯止めになることを期待する。
新しいガイドラインは、託児所職員やスポーツコーチなど、日常的に子供と関わる職業の人も対象に、保護局への通報を促す。旧ガイドラインは、教師やソーシャルワーカーなど公的に児童福祉に携わる人々だけが通報義務の対象だった。対象拡大で、公的機関と接する機会の少ない幼い子供を救済することを狙う。
秘密保持の壁を破る
もう一つの大きな変更点は、医師や弁護士、カウンセラー に関わることだ。
こうした専門家はこれまで、虐待の疑いがあっても、患者や依頼人との秘密保持契約のため、児童・成年保護局に通報することができなかった。新ガイドラインには、秘密保持義務に関わらず、保護局に連絡できると明記した。
医師やカウンセラーは、虐待が疑われるケースで保護局の証拠収集に協力もできるようになる。
連邦議会は上下院とも、当局への通報に厳密な事実確認は不要だと強調した。一方、全ての通報に対して何らかの措置が行われるとは限らないとも確認。当局は単に、あらゆる懸念事項を通告する最初の窓口であるとの位置づけだ。
新しいガイドライン
児童・成年保護局のトーマス・ビュハラー局長は、「虐待の危険性が高い親や子供は、できるだけ早く適切な支援が必要だ。定期的に子供と接触している人々に、潜在的なリスクがある段階で当局に通報するのを後押しすることで、必要な保護を適切なタイミングで提供できるようになる」と語った。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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