安倍晋三首相が28日、官邸で会見し、自身の健康問題を理由に辞意を表明した。スイス国内メディアは7年8カ月に及ぶ歴代最長政権をどう評価したのか。
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マルチメディア・ジャーナリスト。2017年にswissinfo.ch入社。以前は日本の地方紙に10年間勤務し、記者として警察、後に政治を担当。趣味はテニスとバレーボール。
「国内政治はほんのわずかの好転、外交関係は悪化」と厳しい評価外部リンクを下したのは、ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)だ。
現地特派員のトマス・シュタルダー記者は、首相肝いりの経済政策「アベノミクス」の効果について「日銀の金融緩和で確かに株価は上昇し、一部の集団に利益をもたらした。だが国民の多くはそれを実感していない」と評価。消費増税により低所得者の負担が増えたことにも言及した。
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また新型コロナウイルス危機以降、政権への支持率が下がり続けていることにも触れ、安倍首相主導で全戸配布した布製マスク「アベノマスク」は「非常に小さく、初期には欠陥品もあった」。さらに観光需要の喚起策「GoToトラベル」も「感染者数が大幅に増加しているにもかかわらず施策に固執し、批判を浴びた」と論じた。
外交面では、近隣諸国との関係が安倍政権下で悪化し、一因に首相の歴史認識があると分析。シュタルダー記者は「安倍首相は在任中に物議を醸す靖国参拝を行い、それが国際的な抗議活動につながった。中国は日本にとって最大の貿易相手国であるにもかからわず、韓国、中国、ロシアとの関係は過去数年で悪化している」と論じた。
「成功は多いが勢いは衰退」
2度目となる政権のかじ取りを「成功は多いが、勢いは衰退した」と報じた外部リンクのは、ドイツ語圏の保守系リベラル紙NZZだ。
東アジア特派員のマルティン・ケリング記者は、アベノミクスにより「在職中の株価は3倍になり、経済は弱いながらも成長した」と一定の功績を認めた。とりわけ安倍首相は外交を重視し「歴代首相の誰よりも多く外遊し、経済・金融の中心地としての日本をアピールした。米国離脱後の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)も救った」と述べた。
対米外交も「トランプ米大統領と良好な関係を築いた数少ない首脳の1人」であり、「トランプ氏の貿易政策上の攻撃は避けられなかったが、先延ばしに成功した」と手腕を評価した。
その一方で勢いの衰えは否めず「インフレも高い経済成長も起こらず、日本は再び危機に入った」。度重なるスキャンダルも安倍氏の人気低迷につながったと述べた。
多くの政策が道半ばでとん挫し、その中でも「首相自身が『歴史的使命』とした憲法改正だ。安倍首相は憲法改正により自衛隊の軍隊への引き上げと任務範囲の拡大を試みたが、計画段階にすら上らなかった」とした。
さらにコロナ危機によって「安倍首相は自身の政治的資本とリーダーシップを使い果たした。政府は強力なパンデミック対策を講じられず、支援も迅速ではなかった。政権支持率は40%を下回り、徐々に危機的なゾーンに突入している」と述べた。
強力なライバル不在
フランス語圏のオンラインマガジン、ハイジニュースでは「日本の安倍晋三首相は何に苦しんでいるのか」という見出しの記事外部リンクで辞任の理由を解説。「コロナ禍での彼の政府運営は厳しい批判を受け、人気が低迷した」ともコメントした。
左派リベラル紙、24時間新聞に掲載されたスイス通信社Keystone-ATSの分析記事外部リンクも「安倍首相の人気はコロナ危機後低迷した」と評価。アベノミクスは「大規模な構造改革に欠けており、部分的な成功はコロナ危機で大半が泡と消えた」と指摘した。一方、これだけの長期政権が実現したのは「自民党内の強力なライバル不在に加え、野党が弱く、度重なる首相のスキャンダルを攻撃材料にできなかった」と分析した。
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