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新化学兵器、軍縮の妨げになるか

倉庫に保管された有毒ガスタンクを検査するロシア当局 Reuters

公式の統計によると、化学兵器の製造が減少している。これは、世界中で備蓄化学兵器の廃棄が進んでいるだめだが、スイスの専門家は、新種の化学兵器に対する需要動向を綿密に監視する必要があると警告する。

シリア政府は7月に化学兵器の保有を初めて認め、外国が内戦に軍事介入した場合、化学兵器を使用する可能性があることを明らかにした。これに対し国際社会は強い批判を表明し、メディアは化学兵器を大々的に取り上げた。

化学兵器が最後に使用されたのは、1980年代後期のイラク。当時のサダム・フセイン政権は自国民であるクルド人を殺害する目的で使用し、甚大な被害を生んだ。

化学兵器の現状について、核・化学・生物兵器に対する防衛を研究するシュピーツ試験場(Spiez Laboratory)の化学部長を務め、化学兵器禁止機関(OPCW)の科学審議会会長でもあるステファン・モグル氏に話を聞いた。

swissinfo.ch : 化学兵器の監視は、今日どのような意義がありますか。

モグル : 化学兵器禁止条約(CWC)が1997年に発効されて以来、これまで188カ国が批准した。総計約7000トン強もの備蓄が申告され、現在廃棄が進んでいるが、完了までにはまだ時間がかかる。

この条約に批准していない国はごくわずかだが、シリアの現状と周辺国への影響、及び国際社会の反応を見ればその理由はある程度明らかになる。すべての国がこの条約に批准し、所有している化学兵器及び製造計画を廃棄することが重要だ。

この条約がさらに目指すところは、化学兵器の使用を将来的に禁止すること。つまり市民社会全体が、有毒な化学物質を兵器として利用しないと保証することだ。化学兵器禁止条約の実施状況を監視する化学兵器禁止機関にとって、これは今後も非常に重要なポイントだ。

swissinfo.ch : 政府や第3者機関の監視を強化すべきでしょうか。

モグル : その質問には2通りの答えがある。化学兵器禁止条約は、戦争で化学兵器が使用されるのを防ぐために作られたもの。言わば、各国が主体となって軍縮・武装解除を行う条約だ。近年(テロ組織のような)武装組織による化学兵器の使用が大きな脅威となり、対応策として国連決議1540が採択された。大国の状況を監視することと、武装組織の状況を監視することは全く別物だ。

まず、化学兵器の備蓄量が異なる。例えばアメリカが申告した2万9000トン、またはロシアが申告した4万トンの化学物質、あるいはインドが廃棄した1000トンという量は、産業規模に匹敵する。こうした産業には化学物質や特殊弾薬の製造施設、それらをテストする試験所、貯蔵庫などの大規模施設が含まれる。

一方、1キログラムから100キログラム程度の化学兵器を製造する場合は監視が難しくなる。こうした少量の化学兵器の用途はさまざまだろうが、いずれにせよその影響は小さい。化学兵器を少量生産する目的は、化学兵器禁止条約が対象とするような戦争で使用することではない。

swissinfo.ch : 化学兵器の製造は非常に簡単だと言われていますが、これは本当でしょうか?

モグル : それは単純化し過ぎだ。化学兵器の製造に関して、二つの問題がある。まず化学技術面だが、備蓄に耐えられるような質の化学兵器を製造する能力が求められる。第2に、応用化学面だが、化学兵器は適切に使用された場合においてのみ機能する。これを実現するのは容易ではない。

swissinfo.ch : 国際社会は、化学兵器の監視をどの程度重視しているのでしょうか。

モグル : 化学兵器は公衆の目にさらされているわけではない。しかし化学兵器禁止条約とその実施状況を監視する化学兵器禁止機関は、ほかの条約に比べ大成功を収めてきた。しかし化学兵器の大半はすでに廃棄されたため、現在重要な岐路に差しかかっている。今後の課題は、条約のキーポイントは何か、そして化学兵器禁止機関は何に焦点を合わせるべきかの2点だ。私は、新種の化学兵器の製造防止だと考えている。どの化学物質が新種の化学兵器に使われる可能性があるかについて議論する必要がある。

swissinfo.ch : 大量破壊兵器にのみ焦点を合わせるべきでしょうか。それともほかにも警戒すべき兵器があるのでしょうか。

モグル : 大量破壊物質と化学兵器はもはや容認できないというのが国際的な理解だろう。多数の政府がこの点を明確にしたことが、化学兵器禁止条約の成功に寄与したと思う。しかし一方で、法律を執行するための化学兵器と呼ばれる新種の化学物質に関する問題が未解決だ。これは(警察による暴動の鎮圧など)特殊な状況で使用される化学物質で、人体の機能を抑制する化学物質だ。化学兵器に関する協議でこの物質が取り上げられる可能性がある。

swissinfo.ch : 2002年に起きたモスクワ劇場占拠事件では、警察が使用した「無力化ガス」のせいで多数の人々が死亡しました。これは特殊なケースですか。

モグル :目下の重要事項は、法律執行のための活動と、戦闘との明確な区別が困難だという点にある。これは、法律的に難しい問題だ。

現場の司令官にとって、その場に居合わせた人々や人質が敵と混在しているような状況は非常に難しく、司令官ができることは銃器の使用だけだ。その結果、悪人と善人を区別する猶予を与えてくれる兵器への需要が生まれた。

こうした兵器は魅力的に見えるが、今日の化学物質はそのようには機能しないこと、無力化ガスは有毒であることを警告したい。それらの化学物質は人体にとって有害であり、従来の化学兵器物質との区別が難しい。無力化物質の登場によって、化学物質を兵器に使用しないという社会規範が崩れていくかもしれない。従って国際社会は、化学兵器禁止条約に照らし合わせ、何が許容可能で、何がそうでないかをはっきりと区別することが重要だ。

主要化学兵器:神経ガス、びらん剤

神経ガスは致死性があり、びらん剤は人体に深刻な損傷をもたらす。

呼吸器官、目、肌への接触は、毒性症状や負傷を引き起こす。人体の保護には、軍隊(または緊急特殊部隊)が使用する特殊フィルター付ガスマスクと特殊な防護服が必要。

都市部に対する化学兵器の使用は非常に危険。だが、天候によっては一定時間後に消散する。

(出典:シュピーツ試験場ステファン・モグル氏)

化学兵器の開発、製造、入手、備蓄、保有、譲渡、使用の禁止を締約国に義務付けることによって、全種類の大量破壊兵器の撲滅を目的とする。締約国は、自国内の人々に対し、必要とされる段階的な措置を取り、条約で定められた禁止条項の完全な履行に務めなければならない。

全締約国は、備蓄化学兵器、製造施設、他国に投棄した化学兵器の廃棄を行い、軍縮に務めることに同意した。また、特定の有毒化学物質とそれらの前駆物質の検査制度の設立にも同意している。

この条約の発効を監視する化学兵器禁止機関(OPCW)は、締約国の順守状況を監査する。また、締約国間での協議および協力のための場を提供する。

(出典:化学兵器禁止機関)

(英語からの翻訳、笠原浩美)

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