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科学と外交 相互連携で見据える未来

量子コンピューター
量子コンピューターが、より長持ちするバッテリーやより優れたソーラーパネルの材料発見を加速させるかもしれない Christian Lunig / Science Photo Library

外交官と科学コミュニティーの対話改善に向けたジュネーブを拠点とする初のサミット。「総合的な福利の保護」を目指すこの会議の焦点の1つは、量子コンピューティングの潜在的な可能性だ。量子コンピューティングによってもたらされる恩恵とリスクとはーー2人の研究者が語る。

ジュネーブ・サイエンス・ディプロマシー・アンティシペーター財団(GESDA)外部リンクの第1回年次サミットで、科学者、外交官、産業界トップ、発明家らがジュネーブに集結した。議論の重点課題の1つに量子コンピューティングがある。その到来に向けて、政策立案者は何を備え、いかなるガバナンスを策定すべきか。全業界での利用をどう保証すべきか。しかし、量子コンピューターとは一体何か。この技術によって、何が可能になるのか。

量子コンピューターとは、量子力学の性質を利用して演算を行う計算機のことだ。量子力学は、原子や亜原子粒子(素粒子や、素粒子が複合した原子核や陽子などの粒子)スケールの粒子の挙動を記述する学問で、例えば、電子同士が相互作用して起こる現象などが記述できる。分子の振る舞いをシミュレートするには、古典的なコンピューターよりも、分子そのものが従うルールを利用する量子コンピューターの方が格段に適していると言われる。

現時点では、量子コンピューターはまだ小規模で信頼性にも欠ける。古典的なコンピューターが解けない問題を解決するレベルには達していない。

しかし、ジュネーブ大学とシャフハウゼン技術研究所の名誉教授で量子技術のエキスパートのニコラス・ギシン氏は「まだ不確実な点はある。だが、そのような量子コンピューターを作ることができない理由は、私には見当たらない。もちろん、技術的にとても大きな挑戦ではある」と語る。

量子コンピューターは、世界的な極めて喫緊の課題を解決する可能性がある。例えば、より長持ちするバッテリーや太陽光パネル、新たな治療の素材やマテリアルの発見を加速するかもしれない。現行の暗号を一瞬で解読する可能性もある。つまり、現在の情報セキュリティのままでは近い将来リスクにさらされるかもしれないのだ。

民間企業は、より信頼性の高い強力な量子コンピューターの開発競争に勝つことで莫大な経済的利益を得られる。

量子コンピューターによって新しい分子のシミュレーションができるまで5〜10年、暗号解読ができるような、より強力な量子コンピューターが実現するまで10〜20年はかかるだろうとギシン氏は予測する。

この技術をいかに早く開発するかは投資額にかかっている。IBMやマイクロソフト、グーグルなどの大手テクノロジー企業はいずれも量子コンピューター開発を推進している。米国、中国、欧州も量子技術に巨額を注ぎ込む。

量子コンピューター
IBMの量子コンピューター IBM

この迫る量子技術の到来に備えることが肝要だ。IBMチューリヒ研究所IBMフェローのハイケ・リエル氏は、その理由をこう説明する。「想定される複数の異なるシナリオの中には、歓迎できるものとそうでないものがある。そうした未来を予見することで、どのような規制が必要かを検討し、育成していかなければならない研究分野についても議論できる」

スイス政府は、10月7〜9日にジュネーブで開催されたGESDA財団の第1回年次サミットを支援。科学者、外交官、その他ステークホルダーが一堂に会し、重大な科学的進歩と、それらが社会に与えるインパクトを予見し、それに備えるガバナンス戦略等について議論する。

科学のための外交

より活発な研究活動のためには、科学者が動きやすい枠組みが求められる。リエル氏は「外交は科学の促進に貢献できる。だから、科学と外交、科学と政治が、相互に連携し合うことが重要だ」と言う。

政治家と外交官の役割は、国際的な共同研究事業を策定し、グローバルな研究活動の機会を提供することだ。特定の技術的課題に対して研究資金を重点的に投入し、トップダウン式の戦略的課題として先導することも政治の役目だ。

ギシン氏は「スイスは欧州の研究フレームワークから外されている。この状況は不条理で、誰も得をしないし、スイスと欧州の両者にとって不利益なだけだ。より緊密な対話と協調こそが双方により一層の利益をもたらす。それを理解することが極めて重要だ」と主張する。

外交のための科学

気候変動や新型コロナウイルス感染症によるパンデミックなど、我々が直面する課題の多くは地球規模だ。全世界が協力して問題解決に取り組めるような国際的なフレームワークを国家間で策定し統制することは容易ではない。だが、そこで有効なのが研究者のボトムアップ式な働きだ。

リエル氏は「科学コミュニティーは国境を超えたグローバルな活動を好む。この国際的な協働によって、歴史的にもバリアを打ち破ることに貢献してきた」と、この点からもコミュニケーションの重要性を強調する。

パンデミック状況下では、研究者のグローバルな協力が、有効なワクチンの開発を記録破りのスピードで成功させたのだ。

政策立案者への情報提供 

政治家は科学的事実だけに基づいて意志決定ができるわけではない。それでも、政策立案者や一般社会に対して、科学的に正しい情報を提供し共有し続けることは、科学者が果たすべき重要な役割だ。パンデミックでは、事実に裏付けされたエビデンス(合理的根拠)に基づいた議論がいかに難しいかが露呈した。

リエル氏は語る。「社会に向けて、私たち科学者が何をしているのかを説明することも、とても重要だと考える。私たちが行っていることは、人々を怖がらせるような謎めいたミステリーでは決してないのだ」

(英語からの翻訳・佐藤寛子)

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