韓国・平昌(ピョンチャン)で開催中の冬季五輪で、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長の実妹・金与正(キム・ヨジョン)党中央委員会第1副部長がスイスのアラン・ベルセ大統領に遭遇し、握手を交わす一幕があった。
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2人が遭遇したのは、スイスと南北合同チームが対戦した女子アイスホッケーの開幕戦後。与正氏は北朝鮮の高官級代表団の一員として韓国を訪問していた。ベルセ大統領は9日の五輪開幕式で、和平実現に向けた働きかけの一環として組織された合同チームの重要性を強調していた。試合は8対0でスイスが制した。
与正氏は先代・金正日(キム・ジョンイル)総書記の「3番目の妻」高英姫(コ・ヨンヒ)の子で、正恩氏の実妹。独語圏のスイス公共放送(SRF)外部リンクによると、血縁があるだけに正恩氏との結びつきも強い。1996年から、正恩氏と同様にスイス・ベルンに留学した。2人はスイス滞在中、側近によって厳重に保護されていたという。
正日氏は、幼少期から政治に関心を持っていた与正氏を称えていた。正恩氏や次男の金正哲(キム・ジョンチョル)氏、17年にマレーシアで暗殺された長男の金正男(キム・ジョンナム)氏よりも気に入っていたとされる。
正恩氏の政権掌握以来、与正氏も政界の頂点に君臨している。朝鮮労働党で税制、国家メディアや文化を担当し、正恩氏のイメージ戦略に貢献。昨年10月には30歳の若さで党中央委員会政治局員候補に選出された。
初めて北朝鮮メディアの前に現れたのは09年、正日氏がある農業大学を訪問したのに随行した際だ。同国では血縁が何よりも重要とされ、今では正恩氏の助言者として影響力を持つ。
米国は先月、与正氏が北朝鮮の国民の人権を侵害したとして、米国内の銀行口座や不動産を凍結する人物のブラック・リストに載せた。与正氏が国のプロパガンダに寄与していることを理由に挙げた。一方、国連による海外渡航の禁止人物リストには与正氏の名はない。
北朝鮮情勢に詳しいジャーナリスト、マルティン・フリッツ氏はSRFの取材に対し、「家父長的な思想の強い北朝鮮では、若い女性がリーダーになれるかという想像は現実的ではない」と解説。正恩氏の後継者には実子が就くとみられ、与正氏は政治的な脅威ではないとされる。与正氏を平昌に送り込んだのも、こうした安心感が背景にあるという。
(独語からの翻訳&編集・ムートゥ朋子)
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金正男(キムジョンナム)氏とは80年代からジュネーブで学友だったというアントニー・サハキアンさんによると、正男氏は政権奪取の野心は持っていなかったが、身の危険を感じていたと話す。その人物像を語るスイス地元紙は、マレーシアでの殺害事件は、中国が支援する正男氏が北朝鮮の指導者となるのを恐れた何者かによって毒殺されたのではないかとの見解も示している。
北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)・朝鮮労働党委員長の異母兄、金正男(キムジョンナム)氏(46歳)がマレーシアの空港で毒殺されたとされる事件を受け、正男氏とはティーンエイジャーの頃から友人だったというアントニー・サハキアンさんが、ジュネーブにいた金正男という人物がどんな人だったのかを複数のメディアに語った。
正男と正恩の兄弟は、2人ともスイスで教育を受けたとされる。異母弟の正恩氏はスイスの独語圏ベルンにある公立学校に通っていたのに対し、正男氏はスイス西部仏語圏ジュネーブの私立学校「インターナショナルスクール」へ長年通っていた。ジュネーブの地元紙などによると、正男氏は生前ジュネーブを度々訪問。ここ2年間もジュネーブを頻繁に訪れ中心街で目撃されたことがあるという。
金正男は政権奪取の野心はないが身の危険を感じていた
ジュネーブの学校で正男氏とクラスメートだったというアントニー・サハキアンさんは、「金正男は権力に興味はなかったが、政治上の立場により、身の安全が脅かされているのは知っていた」と話し、今回の事件を「平壌に蔓延っている偏執病的な雰囲気の中で、王様 を喜ばせようとした誰かがやり過ぎてしまったのではないか。死者という贈り物を指導者に捧げたのかもしれない」との見解を24日付けのフランス語圏の日刊紙ルタンで述べている。
英紙ガーディアンの21日付けの記事によると、サハキアンさん44歳 は、正男氏とは12、13歳頃からの友人で、つい数カ月前にも 会ったばかりだという。サハキアンさんは、金正男氏が「国を支配する野心は持っていなかった。そこで起こっていることを嬉しく思ったり認めたりはしていなかった。政治体制とは一定の距離を保っていた」と説明し、同氏の性格については、「非常に寛大で、素晴らしく、とても親切で、フレンドリーで、陽気な子でした。私たちはやや甘やかされて育ったのだけれど、ごく普通の人だった」と振り返っている。
中国が支援する正男氏が北朝鮮の指導者となるのを恐れて毒殺されたか
スイスのルタン紙では、正男氏を「野心の無い男」と紹介した上で、「金正男とは、北朝鮮の指導者がその座を降りた日のために、中国が確保していたかった人物とみるのが正しいのではないか?」とし、「金正男は、国内であまり知られていなかったものの、彼に忠実な特に軍隊の仲間からは尊敬されていた。北朝鮮政権の創始者である祖父の金日成(キムイルソン)の息子の長男である正男が、神聖な相続人として、平壌で権力争いが再び起きる可能性はあった。しかし、金正恩は権力の座に着くや数年のうちに、叔父の張成沢を裁判で処刑したような壮大な粛清を実行しながら、確実に権力を行使する方法を身につけていった」と解説した。
北朝鮮の現在の支配体制にとってもはや脅威とはなっていなかった正男氏の謎の死は、正男氏が中国政府の保護下にあったことで、地政学的な利害関係と相まって様々な憶測を呼んでいる。
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