欧州の要路ゴッタルド基底トンネル 脱線事故でスイスの威信にキズ
世界最長の鉄道トンネル「ゴッタルドベーストンネル(ゴッタルド基底トンネル)」での脱線事故から10日で1カ月が経った。基底トンネルは欧州の要路として知られるが、事故の被害は深刻で、完全復旧には数カ月かかると言われている。
ゴッタルド基底トンネルは世界最長の(そして最深の)鉄道トンネルだ。トンネルの全長は57.1キロメートル。17年という長い年月をかけて建設され2016年に開通した。ウーリ州エルストフェルトとティチーノ州ボディオを結び、貨物・旅客輸送のための単線トンネル2本で構成されている。貨物列車は1日最大260本運行、旅客列車は65本が最高時速250キロメートルで運行する。
8月10日、ティチーノ州ファイドの多目的施設近く、ゴッタルド基底トンネルの南側入口から15キロメートルの地点で30両編成の貨物列車が脱線、トンネルが一時閉鎖された。負傷者はいなかったが、16両が脱線し、そのうちの何両かは東線と西線を隔てる坑口に突き当たった。さらに列車には大量のワインが積まれていたため、線路の一部が水浸しになった。
事故の原因は、車軸の破損とみられている。トンネル内では連日、最大50人の作業員が車両および瓦礫の撤去作業を行っているが、今月7日時点で8両がトンネル内に残されている。また、7キロメートルにわたるレール損傷の修復に、2万本のコンクリート製枕木を交換する必要があるという。スイス連邦鉄道(SBB/CFF)のインフラ整備主任を務めるペーター・クンマー氏は7日、スイスメディアの取材に対し「被害は甚大」で、完全復旧には数カ月を要すると語った。
現在は被害の小さかった東線が部分的に再開され、1日約100本の貨物列車が通過可能となっている。旅客列車は引き続き、低速のパノラマ山岳ルート経由で迂回する。
代替ルートは?
連邦鉄道は代替としてレッチベルク~シンプロン間の貨物列車を1日約20本増発した。旅客が同区間に流れた様子はないという。
アルベルト・レシュティ運輸相は18日、独語圏のスイス公共放送公共(SRF)のラジオ番組の取材に対し、この脱線事故は「システムの繊細さと回復力の重要性を示している」と述べた。「レッチベルク経由とゴッタルド経由が互いに補完できることが重要だ。ゴッタルドのいわゆるパノラマルートがコスト上の理由で廃止されなかったのは幸運だった」
脱線事故が国際的に報じられた理由
基底トンネルは、ドイツとイタリアを結ぶ貨物輸送で重要な幹線上にある。同トンネルが開通したおかげで、アルプス南北を結ぶルートを利用する物流量は大幅に増加した。スイス連邦政府によると、昨年はスイスアルプスを通過する鉄道貨物輸送の3分の2以上が、基底トンネルを利用した。
ゴッタルド基底トンネルは、レッチベルク基底トンネル(34.6キロメートル)、チェネリ基底トンネル(15.4キロメートル)を含むアルプス縦断鉄道計画(NEAT/NLFA)の一環としてスタートした。ゴッタルド基底トンネルの建設は、スイスがこれまでに手がけた中で最大の建設プロジェクトだ―政府はそう胸を張る。
アルプス縦断鉄道計画
スイス連邦政府外部リンクによると、2020年のチェネリ基底トンネルの開通により、スイスはロッテルダムからジェノヴァまで伸びる貨物鉄道路線の全てが完成した。アルプス縦断鉄道の建設にスイス政府が投じてきたお金は総額228億フラン(約3兆7000億円)と、国内総生産(GDP)の約3.5%に相当する。長さ2500キロメートルにわたる南北路線は、ロッテルダム、アムステルダム、アントワープ、デュイスブルク、ケルン、フランクフルト、マンハイム、バーゼル、チューリヒ、ミラノ、ジェノヴァに経済的な発展をもたらした。
英語からの翻訳:大野瑠衣子
おすすめの記事
ゴッタルドについて知っておくべき7つのこと
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。