スイスの政治家と専門家たちは、トランプ米大統領が下した米国のパリ協定離脱決定に失望。一方で専門家は、世界で2番目に温室効果ガス排出量の多い米国にとってこの決定は、自国に損害を与えるだけだという。
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「米国は地球への責任がある。米国が再生可能なエネルギーへの道を進み続けるかどうかはいずれわかる」とドリス・ロイトハルト環境・エネルギー相は話す。
ロイトハルト氏とスイス交渉団首席およびは連邦環境省環境局長を務めるフランツ・ペレ氏は、スイスが重要で有能な交渉相手を失ったことを「残念に思う」と話す。一方で、継続的なスイスのパリ協定へのコミットメントを強調。またペレ氏は、米国の離脱は長期的なグローバルな再生可能エネルギーへの移行には影響しないと、確信を表明した。
ペレ氏は「米国を含め、多くの国で再生可能エネルギーはすでに化石燃料を上回っている。米国が4年以内にその機会を利用しないなら、それは残念だが、主に自国に損害を与えるだけだ」とドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)に対して話した。
「まだ全てが失われたわけではない」
ペレ氏は、トランプ氏の協定再交渉要求に国際社会が応じるとは思えないと話す。トランプ氏が言う「より公正な協定」が具体的に何を指しているか曖昧だからだ。
日刊紙ターゲス・アンツァイガーは、トランプ氏の計画は明確でないとし、各州が彼の決定に関わらずこれまでの計画を続行すると見て「まだ全てが失われたわけではない」と報じた。また、「欧州連合(EU)と中国が共に、環境保護の経済的機会を強く主張し、貧困国をサポートしていくことができれば、米国の離脱は中期的に乗り越えることができる」と、残りの国での補填の可能性について論じた。
国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)評価報告書にも携わったジュネーブ大学の気候学者であるマルティン・ベニストン氏は、パリ協定を実行し続けることをすでに誓約している米国の州、都市、農家が新技術を導入することによって、米国の温室効果ガスの排出量を半分まで減少させることができると見ている。それは世界の温室効果ガス排出量の25%にあたる。
同氏は「協定の枠組みが崩れることはないと思う」とフランス語圏のスイス公共放送(RTS)に対して話した。「トランプ氏の決定は政治的惨事ではある・・・。しかし米国は単一国家ではない」
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11月30日までに審議される三つの計画案は、パリ協定の批准、二酸化炭素(CO2)排出関連法の改正、そしてスイス・欧州連合(EU)間のCO2排出量取引の合意に関するものだ。
「地球全体の平均気温の上昇を産業革命前と比べて2度以内に抑える」という歴史的合意に達したパリの国際気候変動枠組み条約第21回締約国会議(COP21)から9カ月を経て、ドリス・ロイトハルト環境・エネルギー相は1日、スイスが最初の批准国60カ国入りを目指すとの考えを示した。
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途上国を含む全ての国が、温暖化防止に取り組むことを定めた「パリ協定」の行方に暗雲が漂っている。同協定からの脱退を公約したドナルド・トランプ氏が米国の次期大統領に決まったのが一因だ。スイスメディアや政府関係者の間では、温暖化対策の後退は避けられないとの見方が広がっている。
モロッコで開かれていた国連の気候変動枠組み条約第22回締約国会議(COP22)は19日、パリ協定の実現に向けて具体的なルールを2018年までに策定することで合意し、閉幕した。それに先立つ4日にはパリ協定が発効した。
「地球温暖化の取り組みで最も重要な人物、ドナルド・トランプ氏は現れず」。
COP22の閉幕にあわせて、スイスの有力紙NZZはこんな見出しの記事を掲載した。温室効果ガスの排出量世界2位の米国がトランプ氏の公約通り脱退すれば、パリ協定前に逆戻りしかねないと警鐘を鳴らした形だ。
トランプ氏は選挙戦中、地球温暖化を「でっち上げだ」と一蹴。パリ協定からの脱退に加えて、オバマ政権の環境・エネルギー政策の白紙撤回や、米環境保護庁(EPA)の解体を主張してきた。
NZZによると、COP22の会期中に参加国は、米国が脱退した場合の対抗措置についても議論。メキシコやカナダは、米国からの輸入品に炭素税を課すことを検討中だと報じている。
一方、日刊紙ターゲス・アンツァイガーは、温暖化問題に取り組む国際交渉に影を落としたのは、「トランプ・ショック」だけではないとも指摘。COP22では、パリ協定のルール作りをめぐり、先進国と途上国の対立が再燃した場面があったことを示唆した。
パリ協定では先進国と途上国の双方が温室効果ガスの削減で努力することが決まった。
だが、途上国側からすると、温暖化を招いた責任は先進国にあり、先進国は温室効果ガスの削減に積極的に取り組むと同時に、途上国の温暖化対策に資金や技術を提供すべきとの考えが根強い。
ドリス・ロイトハルト環境相はCOP22の会期中、途上国への資金・技術援助として500万フラン(約54億800万円)提供すると表明した。
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