「混雑する」紛争仲介の場
軍事紛争が武力で解決されることはほとんどない。解決策の多くは交渉のテーブルで見つかる。だが仲介にあたる国や組織は増加する一方であり、このままでは反生産的になる恐れさえあるという。
このような見通しを発表したのはスイスの平和研究基金スイスピース(Swisspeace)だ。著者の1人、ラシェル・ガッサーさんは「ノーベル平和賞レースを見ているような気がするときもある」と言う。「平和作りに貢献したがる仲介役の数は増えるばかりだ」
ガッサーさんによると、それぞれが自分の持つスキルを和平プロセスに生かしており、それ自体はよい方向に作用している。しかし仲介役間の競争、とりわけ国際組織と地域組織の間の競争が激化し、深刻な問題に発展しているという。
2月に公表した調査「混雑する分野:国際的な和平仲介における競争と調整(A Crowded Field: Competition and Coordination in International Peace Mediation)」で、ガッサーさんは「この問題に取り組まなければ、平和プロセス全体が水泡に帰す恐れがある」と警告した。
仲介は効果的な手段だ。和平交渉によって解決された紛争は過去20年間で8割に上る。連邦外務省の発表によると、2001年から2008年までの間に軍事介入で決着がついた紛争はわずか5件。一方、仲介により解決された紛争は17件を数える。
冷戦が終結し、紛争の性質にも変化がみられた。2国間の争いは減り、代わって政府と反政府グループ、あるいは種々の武装グループが一国内や隣接諸国で戦うことが増えた。
その結果、仲介の在り方も変わった。外務省は以前、停戦に持ち込んだり、状況を少しでも安全にしたりすることを目的としていたが、今日の仲介はかなり複雑になっている。連邦主義、地方の自治権、富の偏在、権力の分割などを取り巻く問題が数多くみられるためだ。
平和を維持
「目的は、政治界のエリートのみでなく現地の生活共同体や市民社会、女性、紛争被害者を交えて、平和を長続きさせることだ」。現在、ミャンマーの平和構築プロセスに携わっているガッサーさんはそう語る。
「このような理由から、仲介役はもはや一つの組織ではなく複数が集まったチームになっている。また近年は、多数の国際組織、非政府組織(NGO)、国家が世界のさまざまな地域で仲介役として活動するようになった」。カタールやトルコ、フィンランドなどもその例だ。
調査に加わったバーゼル大学のダーフィト・ランツさんは次のように報告している。「1992年以降、1年間の和平プロセスの数は減少しているが、何らかの紛争に関わった仲介役の数は著しく上昇した」
冷戦後グローバル化が進み新しい状況が生まれたこと、また仲介に対する認識が世界的に高まったことが影響しているという。
スイスは国際的な仲介において重要な役割を担っている。その主な理由はスイスの中立性にある。スイスはどの連合(欧州連合や北太平洋条約機構など)にも加盟しておらず、過去植民地を持ったこともない。また連邦制を取り、多言語、多文化の国家でもある。
2000年以降、スイスはネパール、スリランカ、グルジア、スーダン、ウガンダ、コロンビア、メキシコ、ソマリアなど約15カ国で20件を超える和平交渉に関わってきた。
スイスの仲介活動は多岐にわたる。交渉に直接関わっているケースもあれば、国連や地域の組織の要請で仲介役チームに専門家を送り込む場合もある。
スイスはまた紛争当事者の交渉の場になることもある。1985年にはジュネーブで、当時のロナルド・レーガン米大統領とミハイル・ゴルバチョフソ連書記長の初会見が実現した。
連邦外務省はジュネーブの人道対話センター(Centre for Humanitarian Dialogue)やイギリスのコンシリエーション・リソーシーズ(Conciliation Resources)などの非政府組織(NGO)とも密接な協力関係にある。
競争
アフリカの三つの紛争(スーダン、ケニア、マダガスカル)を分析したガッサーさんは、仲介役の間で競争が起こる理由として次の3要素を挙げる。「国家の利益の衝突、異なる関心事を持つ組織同士の対立、国際政治で紛争解決に乗り出す場合の原則や価値観に対する意見の食い違い」だ。
現在目につくのは、自国と特別な関係にある国やグループ、あるいは紛争解決後に自国に利益をもたらしそうな国やグループに和平交渉の仲介を申し出るというケースだ。つまり、紛争が終結すれば自国の利益につながる。そのため和平活動も並行して行い、和平プロセスの指揮を執ろうとする。
ガッサーさんはスーダンの紛争でそれが明らかになったと言う。「1999年、エジプトがリビアと共同で始めた仲介は、政府間開発機構(IGAD)の仲介と真っ向から競う形となった。両国が仲介を始めた理由は、IGADによる和平プロセスが自国の利益を脅かすと考えられたからだ」
当時のホスニ・ムバラク政権は、IGADが勧めるようにスーダン人民解放軍の自決権について投票を行えば、ナイル川の水資源をめぐる紛争に発展すると恐れた。一方リビアの故カダフィ大佐は、スーダン前首相とのより緊密な関係を望んでいた。
仲介の役割が一部重なったことにより、国連と地域の組織間で競争が発生したこともある。例えばマダガスカルでは、国連、アフリカ連合(AU)、南部アフリカ開発共同体(SADC)のどれもが仲介の委託を受けていた。いずれも前向きな姿勢で仲介に立ったが、広範にわたる交渉が続き、プロセスは遅々として進まなかった。
提案
このような「混雑」の悪影響を緩和するため、あるいは当事者が自分に最も都合のよい妥協案を提示してくれる仲介役を探そうとするのを防ぐため、同調査では次のような提案をしている。
「階級を作り、中心的役割を担う指導的な機関を決める。この機関が他の機関にそれぞれタスクを振り分けて調整を行う。必要があれば第三者的立場の機関と協力し、必要がなくなれば協力関係を解消するという方法も考えられる」
また、仲介役のネットワークを作って共同作業を行うのも一つの手だ。共通の目的を持つ仲介役が分業で作業にあたるよう勧めている。
しかし、このような仲介パートナーの調整はガッサーさんにとって理想的な解決策とはいえない。「当事者が平和より戦争を望むのであれば、いかに調整がうまくいっても何の効果も出ないからだ」
(英語からの翻訳 小山千早)
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