痛手!チューリヒ州に住む外国人富裕層
チューリヒ州の住民は、2月8日に行われた住民投票で「不公平」な税制を廃止し、優遇措置を受けている裕福な外国人に対して門戸を閉ざすことにした。
ポップス界の女王ティナ・ターナー、ロシアの大実業家ヴィクトル・ヴェクセルベルグ氏、ドイツの乳製品王テオ・ミュラー氏など、現在チューリヒ州に住む著名な富豪は、間もなくどこか別の州に住まいや収入を移すことになるかもしれない。
特別待遇の137人
このイニシアチブは、億万長者の外国人を対象とした税制上の優遇措置を廃止する目的で、左派の政治グループ「前衛リスト ( Alternative Liste ) 」が成立させた。これに賛成した投票者は全体の52.9%、およそ21万6000人に上った。
裕福な外国人は、ほかの住民のように収入や資産をベースとした税額を支払っていない。このような人々は現在チューリヒ州に137人おり、スイスの住居賃貸価格の5倍を目安とした税額を一括で支払っている。当局によると、その年間総額はおよそ2000万フラン ( 約15億円 ) になるという。
だが、このような税収入にかかる比重がもっと大きいジュネーブやヴァレー/ヴァリスなどの州に比べれば、チューリヒ州にはそれほど大きな影響は出ないと専門家は見る。コンサルタントグループの「KPMG」が2007年に行った調査によると、ヴァレー/ヴァリス州で収入全体の5.2%を占めるこのような見なし課税は、チューリヒ州では0.3%にしかならない。
墓穴を掘る
KPMGのイェルク・ヴァルカー氏は
「わたしがチューリヒ州の財務担当であれば、ほかのことにもっと頭を痛めているはず。だから、州が予算制度や税制度を改める必要性はないのでは。税金は近い将来引き上げられるべきかもしれないが、それにはどちらかというと、就労者が減り、法人からの税収入が減ることに対処する形で行われるだろう」
と話す。
しかし、ヴォルカー氏は同時に、ここ数年の間に長期的な影響がよりはっきりと浮上してくる可能性もあると言う。なぜならこの数年間、チューリヒ州に移住する裕福な外国人は増加の傾向にあるからだ。
「この傾向が続けば、過去の税収入を踏まえた上で将来の歳入を計算しなくてはならなくなる」
海外からスイスに移り住む富裕層にアドバイスをしている「ミシェルー ( Micheloud & Cie ) 」社のフランソワ・ミシェルー氏は、チューリヒ州の有権者は「オウンゴール」を入れたようものだと非難する。
「財政困難の今の時期に、このような墓穴を掘るのは少々愚かだ」
ミシェルー氏はまた、チューリヒ州でいつもこのような投票結果が出るのは、ここにはほかの州ほど多くの著名人が住んでいないからだと言う。
「チューリヒの人々は、ロシアの寡頭政治の支配者しか移ってこないと思っている」
不評の富裕層
裕福な外国人の見なし課税に対する反発は、この数年間、スイスの国内外で増大している。2006年にはフランスのロックスター、ジョニー・アリデイのスイスへの引越し騒動が起こったが、このときにはフランスやスイスの政治家からモラルを疑問視する声が上がった。
KPMGの調べでは、2006年に税金逃れでスイスに移ってきた人の数は4175人。2003年の2394人に比べると大幅な増加だ。
シュヴィーツ州財務官のクリスティアン・ヴァンナー氏は、今回の投票結果は、「強欲な銀行マン」という最近のネガティブな報道が影響しているのではないかと言う。彼はチューリヒの日刊新聞「ターゲス・アンツァイガー ( Tages Anzeiger ) 」紙上で
「金融危機やボーナスについて論議されている間に世論も変わり、高い収入を得ている人々に対する不快感は相当なものになった」
と述べている。
ヴァンナー氏は、これからほかの州もますますチューリヒの有権者を見習うことになるのではないかとにらんでいる。
swissinfo、マシュ・アレン 小山千早 ( こやま ちはや ) 訳
税額は、普通の住民のように収入や資産をベースとしない。
一般的には、納入者が住む住居の年間賃貸料の5倍に相当する金額を最低額として納入する。
このような課税方法は、裕福な納税者がスイスに移住してからもこれまでのライフスタイルを保つことができるよう配慮したもの。
見なし課税の資格を持つのは、滞在許可を所有し、新たにスイスに住むことになった外国人、もしくは最低10年間スイスを離れていた外国人のみ。彼らは毎日従事する仕事を持たなくてもよい。
見なし課税の徴税方法は、スイスの26の州および2600以上の地方自治体で大きく異なる。
各州当局の調べによると、2006年には4100人以上の裕福な外国人がスイスで特別税制措置の恩恵を受けていた。
中でも特に優遇されているのはジュネーブ湖畔、ヴァレー/ヴァリス州、グラウビュンデン州、ティチーノ州に住む外国人。
見なし課税によって、スイスは年間3億9200万フラン ( 約305億円 ) の収入を得ている。これは連邦、州、地方自治体が得る税収入全体の1%から2%に当たる。
スイスにある26州のうち半数以上は裕福な外国人に対して見なし課税を認めている。連邦当局の調べによると、2005年にこの措置を利用する外国人が住む州は多数あった。
このような制度を廃止させる提案は、現在、連邦議会の懸案事項となっている。だが、これまでに中道左派が出した2つの案は退けられている。
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