福島県知事スイス訪問 「福島の時間は止まっていない」
福島第一原発事故のニュースが世界中を駆け巡ってから、はや4年。再生可能エネルギーに復興の光をみる福島県の内堀雅雄知事は13日から15日、この事故を契機に脱原発にかじを切ったスイスを訪問。同国のエネルギー事情を視察するとともに、原発事故から立ち上がろうとしている福島の現状をアピールした。
「震災から5年目の今でも、11万人が避難生活を強いられており、放射線量の高い避難区域の住民は普段の生活ができないでいる」。内堀知事は14日にスイス北西部ソロトゥルンで開かれた記者会見で、福島の深刻な現状について語った。
スイスの主要メディアでは、福島の原発事故については大きく報道されたが、福島の現在の状況、特に復興に向けた取り組みについて報道されることはほとんどない。しかし、内堀知事はこう付け加える。「生活環境や医療、インフラなど、福島の復興は着実に進んでいる。時計の針は止まっていない。前に動いているんだという明るい部分を、スイスの皆さんに伝えたい」
福島の光と影の部分を正確に伝えることが、今回の訪問の目的の一つだと、内堀知事は述べる。そしてもう一つの目的は、スイスの再生可能エネルギーの現場を視察し、スイスのエネルギー政策や再生可能エネルギーの普及について、情報を得ることだ。
福島第一原発が爆発して白い煙が立ち上がった映像は、世界中に衝撃を与え、原子力への信頼を揺らがせた。日本のような最先端技術を誇る国で原発を安全に運営できないとしたら、どこの国ができるのか…?この事故にショックを受けたスイスは、2011年、段階的に既存の原発を廃炉にし、脱原発を目指すことを決意した。
脱原発にかじを切ったスイスは、エネルギー基本方針「エネルギー戦略2050外部リンク」を策定し、エネルギー供給量に占める水力発電など再生可能エネルギーの割合を大幅に増やすことを目標に掲げている。
再生可能エネルギーに関して言えば、福島県の目標はそれよりもさらに高い。同県は40年までに、県内の電力需要相当分の電力量を100%再生可能エネルギーで生産することを目指している。この目標を達成するには、脱原発を進めるスイスから学ぶことは多い。
内堀知事や県関係者、地元新聞社の記者などの一行は、ジュネーブ州の水力発電所や、アールガウ州のミューレベルク原発などを視察し、スイスのエネルギー方針や、廃炉まであと4年となったミューレベルク原発の解体工程や解体後の計画について、連邦エネルギー省のヴァルター・シュタインマン長官からじかに説明を受けた。原発の廃炉工程に関しては特に、「大いに参考にしたい」と内堀知事は語った。
再生可能エネルギー産業の一大集積地に
「再生可能エネルギー」に希望の光をみている内堀知事は、佐藤雄平前知事に続き、福島県を「原発に依存しない社会」のモデルとして築こうとしている。そのための鍵となるのが、再生可能エネルギー産業の集約だ。
国の強力なバックアップを受けて、福島県では現在、浮体式洋上ウィンドファーム事業計画外部リンクが進んでいる。これは、丸紅、三菱重工、日立製作所などの企業と東京大学などが合同で進めている計画で、今年6月下旬には、高さ190メートル、重さ1500トンの世界最大級の風車「ふくしま新風」(出力7メガワット)が公開された。
計画では、これを福島県沖約20キロに設置し、今年12月には発電を開始する。これは2基目で、1基目(出力2メガワット)は13年にすでに稼動を開始しており、3基目の風車(出力5メガワット)も建設が予定されている。
福島県では他にも、県が出資して会社を立ち上げて再生可能エネルギー事業を行ったり、津波の塩害で農作が困難になった土地にメガソーラーを建築したりするなど、さまざまな取り組みが行われている。再生可能エネルギーの研究開発拠点の整備など人材育成にも力を入れるなどして、再生可能エネルギーを軸にした経済再建が着実に進められている。
「脱・原発依存」
内堀知事は知事に就任して間もない昨年11月、宮沢洋一経済産業相に福島第二原発の廃炉を要請しており、県内から原発を排除する姿勢を明らかにしてきた。
一方、国は福島県での再生可能エネルギー促進を支援しているが、今後も原発をベースロードに位置づける方向でいる。そのため、国の電力政策は福島県が目指すものとは矛盾しているようにみえる。
原発をあくまでも維持していきたい国の方針について、内堀知事はどう考えているのだろうか?スイスインフォの質問に対し、内堀知事は「一番重要なのは、日本でも世界でも、原発事故を起こさないということ。原子力に依存しない世界を作るために、各国が連携していくことが大事だ。スイスの取り組みなどをはじめ、世界には学ぶべき英知がある。(政府や外国などと)パートナーシップを築いていきたい」と述べ、明確な返答は避けた。
スイスからのアドバイス
福島第二原発が廃炉になるかどうかはまだ不明だが、福島第一原発の廃炉は確実に進めなければならない。「汚染水漏れや情報公開の遅れなどが原因で、廃炉作業に対する地元住民からの理解が少ない。住民たちの理解を深めるにはどうすればいいか?」。福島の地元記者からの質問に、シュタインマン連邦エネルギー省長官は次のように答えた。
「これはガバナンスの問題だ。電力会社、原子力規制委員会、政府がスイスのように独立していれば、それぞれに対する信頼度は高くなる。また、情報の透明性は重要だ。11年3月11日に事故が起きた際、日本政府からも、国際原子力機関(IAEA)からも我々の元には正確な情報が入らなかった。大事なのは、何が問題なのかを正直に伝えること。日本はこのことを教訓として学ばなければならない」
福島の復興が世界で伝えられるようになるには、再生可能エネルギーの普及を進める一方で、こうしたスイスからのアドバイスを実践することが、重要な鍵となるのかもしれない。
今回の訪問のきっかけ
今回のスイス訪問は、ウルス・ブーヘル駐日スイス大使が内堀知事に働きかけたことがきっかけで実現した。昨年11月に無所属で福島県知事に当選した内堀知事は、この訪問が知事就任後初めての海外訪問となる。
ブーヘル大使は「福島県の現実はスイスではほとんど知られていないが、この県は日本で最も美しい県に数えられる。景色はすばらしく、スキーもハイキングもできる。我々はお互いに学ぶところがある」と話し、スイスが復興のためのインスピレーションとなることをうれしく思うと語った。
JTI基準に準拠
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。