紛争地域でスイス製武器の使用が明らかに
スイスは毎年数億フラン相当の軍需品を世界に輸出している。戦争中の国への武器供給は法律で禁止されているが、スイス製の武器がアフガニスタン、イエメンの紛争地域で使われていることがメディアの調査で明らかになった。
スイスは自国の武器が人権侵害に使われるのを防ぐため、軍需品輸出に広範な制限を設けている。紛争国への武器売却は法律で禁じられ、購入国は他国へ再輸出しないことを確約する必要がある。
だが、メディアの共同調査で、アフガニスタンやイエメンの戦争地帯でスイス製の軍需品が違法に使われていたこと分かったほか、民間人への使用も発覚した。スイス公共放送協会(SRG SSR、swissinfo.chの親会社)、日曜紙NZZ・アム・ゾンタークのジャーナリスト12人がオランダのNGOライトハウス・レポートと共同で、インターネット上の動画・画像数百件を分析。現地調査で分析結果の裏付けを取った。
爆撃に使用されたピラタスの民間機
調査によると、スイスの航空機製造ピラタス社製のPC-12が攻撃偵察機としてアフガニスタンで使用されていた。仏語圏のスイス公共放送(RTS)は先月、昨年7月の大規模爆撃で同機が「戦略的な重要性」を担っていたと報じた外部リンク。同局のテレビ番組「タン・プレゾン(Temps Présent)」の記者は目撃者らを取材。タリバンの他に民間人にも犠牲者が出たとの証言を得た。
調査によれば、同機はスイスから米国に輸出された18機のうちの1機で、その後アフガニスタン軍に納入された。ピラタスの航空機は民間機として販売、輸出されている。RTSは「同社製航空機は軍用機とも商業・軍用の『デュアルユース』ともみなされていない。軍需物資に関する輸出規制を逃れたのはそのためだ」と指摘する。
航空機は改造を施され、その後アフガニスタンに渡った。「気密構造の二重扉やアンテナ、撮影機、その他の監視装置が付けられた」(RTS)という。ビラタス社は「数分で様々な特殊任務に転用可能」な多機能性が、同モデルの持ち味だとしている。
昨年8月にタリバンが権力を掌握した際、米軍とアフガニスタン軍のピラタス機数機がタリバンの手に渡ったとする情報もあった。RTSはタリバンが少なくとも2機を所有していることを確認できる画像を入手した。これについてスイス連邦政府、ピラタスはコメントしなかった。
イエメンでスイス製アサルトライフル
調査チームはまた、サウジアラビア軍がイエメンの反政府勢力フーシに対しスイス製の武器を使用していることを突き止めた。ジャーナリストらはサウジ海軍の軍事作戦の映像を調べ、撮影された兵士のうち少なくとも3人がアサルトライフル「シグ・ザウエル551(Sig Sauer 551)」を所持しているのを確認した。このライフルはスイス北東部シャフハウゼン州で製造されたもので、「非常に明確な特徴がある」(RTS)という。
調査チームはまた、これらの映像がイエメンの戦略的地域とされるハニシュ諸島で撮影されたものであることを確認した。
ライトハウス・レポートのレオーネ・ハダヴィ氏はRTSに対し、「イエメンの作戦でスイスの武器が使用され、市民生活に影響を与えているという明確な証拠がある」と述べた。同国では、イランの支援を受ける反政府勢力「フーシ派」と、サウジアラビアを後ろ盾にした政府軍との間で6年以上前から内戦が続いている。海路・空路が封鎖されているため、何百万人もの市民が食料を含め多くの物資を入手できなくなっている。
18年にはドイツ語圏の大衆紙ブリックが、イエメンの内戦でスイスの武器が使われていると報じた。だが武器輸出の監督官庁である連邦経済省(SECO)は十分な確証がないと判断したとRTSは伝えている。
SECOはRTSに対し、アサルトライフル106丁と小型機関銃300丁がサウジアラビアに輸出されたことを認めたが、これらの取引は内戦が始まる前の06年に行われたものだと述べた。スイスが輸出軍事品の監視を始めたのは2012年以降だ。連邦議会は昨年、サウジアラビアに対する武器売却の全面禁止を求める動議を否決した。イエメン内戦でスイスの武器が使用されていることについて、スイス政府も製造企業シグ・ザウエルもコメントしなかった。
RTSはまた、スイスがモワク製の走行兵員輸送車「ピラーニャ」30両をブラジルに輸出したと報じた。モワクはトゥールガウ州にある軍需品製造企業だ。
ブラジル当局はハイチの治安維持活動に必要だったと説明。だが実際ハイチに派遣されたのは4両だけだった。他の車両にはより攻撃的な装備がなされ、リオデジャネイロの貧民街で麻薬密売を撲滅するために使われた。
テレビ番組「タン・プレゾン(Temps Présent)」は、貧民街でブラジル軍が装甲車ピラーニャを使用した際の銃撃戦に巻き込まれた男性を取材。男性は複数の銃弾を受けて半身不随になり、片足を切断した。
連邦経済省(SECO)は現地査察の結果、ブラジルにモワク製の装甲車を輸出しない理由はないと結論付けた。
糾弾される「偽善」
中道左派・社会民主党のバティスト・ユルニ議員は、こうした事実についてRTSのラジオ番組で「スイスの法律は戦争地域の定義と軍事物資とみなされるものに関して二重の偽善に陥っている」とコメントした。昨年可決された輸出条件を厳格化する対案は、現状を大きく変えるものではないと考えている。
「サウジアラビアが極めて不安定であることは分かっていたが、戦争地域とはみなされていなかった。それが最初の偽善だ。第二の偽善は、私が『バット症候群』と呼んでいるものだ。犯罪グループに10本の野球バットを売ったとして、彼らがそれで野球をすると言えるだろうか?いや、おそらく犯罪に使うだろう」。ユルニ氏によれば、ピラタス機で起こったことが「まさにそれだ」と言う。
スイスは「とても小さな供給国」
一方で右派政党は、いったんスイスが戦争物資を売却してしまえば、その武器が紛争地域で使用されるのを防ぐのは困難だと考えている。急進民主党のオリヴィエ・フランセ全州議会議員はRTSラジオで「物資は転売される可能性があり、残念ながら紛争中の第三国に渡ることもある」と話した。「スイスも国を守る必要があり、完全に武装解除することはできない」
同氏はシステムを変えることが有益だとは思わないが、トレーサビリティー(追跡システム)に問題があることは認める。国外に出たスイスの軍需品の再輸出は防ぎようがない。ピラタスの一件がそれを如実に示している。
同氏は「スイスは周辺諸国に比べて非常に小さな供給国だ」と指摘する。実際、19年と20年の世界の武器輸出量でスイスが占める割合は1%未満だ。
軍需セクターは安全保障上だけではなくスイス経済にとっても重要だ。スイスの軍需品輸出額は16年から増加の一途をたどり、20年には過去最高の9億フラン(約1121億円)超に上った。
(仏語からの翻訳・由比かおり)
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