給料の上限定めた「1:12イニシアチブ」、国民過半数が反対
スイスで24日に行われた国民投票で、企業内の最低賃金と最高賃金の差を12倍までとする「1:12イニシアチブ」は反対65.3%で否決された。また、子どもを外に預けない世帯への課税控除を求めた「家族イニシアチブ」は反対58.5%で否決。高速道路料金の値上げをめぐる「国道使用料に関する連邦法改正案」も反対60.5%で廃案となった。
今回の国民投票で一番注目されたのが、「1:12イニシアチブ-公正な給料のために」だ。これは、企業役員の給料をその企業内の最低賃金の12倍までに制限することを求めたイニシアチブ(国民発議)。社会民主党青年部が中心になって立ち上げられた。
このイニシアチブが発足した背景の一つには、2000年代後半に起きた経済危機で経営が悪化するなか、役員に高額の給料を支払い続けていた大企業に対する批判がある。例えばスイスの大手銀行UBSは、経済危機の影響で国から財政融資を受けることになったが、役員への高額報酬はその後も続いた。
PLACEHOLDERイニシアチブ推進派が主張するところによると、UBSは昨年、25億フラン(約2800億円)の損失を出したが、同行投資部門CEOのアンドレア・オーセル氏には入行時の手当てとして2600万フランが支払われた。この金額は、スイス人の平均年収の385倍になるという。
イニシアチブ推進派はさらに、「企業内の最高給料をその企業内最低給料の12倍までに抑えれば、お金が公平に分配され、最低給料の水準も上がるため、国内消費が増えて経済が活性化する」と主張していた。
しかし、政府と連邦議会は、国内に拠点を置く大企業が国外に移転する可能性があるとして反対。また、高額所得者は多額の税金を払うことで、低額所得者への負担軽減に貢献していることも反対の理由に挙げた。
国民も結果的に、給料の在り方に制限を設ける今回のイニシアチブに納得はできず、賛成34.7%、反対65.3%で否決した。
中小企業を代表するスイス商工業連盟(SGV/USAM)は同連盟ホームページ上で、「国民は自由な労働市場と、責任感ある企業への信頼を表した」と今回の結果を評価。一方、社会民主党青年部など左派は、今後は全国で最低賃金の導入を求めるイニシアチブで賃金格差問題に取り組んでいく方針だ。
今回の国民投票と同日、新しいジュラ州の形をめぐる州民投票が、ベルン州の一部であるベルン・ジュラ地方とジュラ州で行われた。
ベルン州から分離する形で1979年に誕生したジュラ州だが、ジュラ州に隣接するベルン・ジュラ地方では、ベルン州からの分離独立を目指す人たちと、ベルン州に留まりたい人たちの間でたびたび衝突が起こっていた。
そこで今回、ベルン・ジュラ地方がジュラ州に併合するか否かを巡って州民投票が行われた。ジュラ州は賛成76.6%で大多数がジュラ州拡大に肯定的だったが、ベルン・ジュラ地方では反対が7割という結果となり、ベルン・ジュラ地方のジュラ州併合は実現しないことになった。
育児と仕事の両立を今後も支援
今回の投票では、家族の在り方についても国民に是非が問われた。右派の国民党が中心となって立ち上げた「家族イニシアチブ」は、家庭内で子どもの面倒をみる世帯に対し、子どもを保育所など外に預ける世帯と最低でも同等の課税控除を適用することを要求していた。
連邦統計局2009年の統計によると、スイスでは7歳以下の子どもを持つ家庭の52%が外に子どもを預けており、片親世帯ではその率は70%を超えた。仕事と育児を両立しなければならない親が増えていることから、連邦議会は2009年、子どもを有料で外に預ける世帯に対して課税控除を認めることを決定。しかし、国民党は「子どものいるすべての家庭に課税控除を等しく適用すべきだ」として、今回のイニシアチブを発足させた。
国民党によると、このイニシアチブは昔ながらの専業主婦を支援するものではなく、育児のために労働時間を減らした人や、親族に子どもを見てもらっている人の負担軽減が目的。同党はまた、保育や教育は国が介入する分野ではないとも主張していた。
しかし、家族イニシアチブは「女性の社会進出に悪影響を与える」と、経済界や中道派のキリスト教民主党が反対してきた。可決された場合、家庭内で子どもの面倒をみる世帯への課税控除が、子どもを外に預ける世帯への課税控除よりも多くなる可能性もあるため、これまで国が進めてきた「家族、教育、仕事における男女の不平等撤廃」の方針とは逆をいく懸念がある。そのため、政府と連邦議会もこのイニシアチブには反対していた。
国民投票の結果は、賛成41.5%、反対58.5%で否決。シュヴィーツ州、ウーリ州、アッペンツェル・インナーローデン準州以外、賛成が過半数を上回る州はなかった。
高速料金値上げに反対過半数
政府と連邦議会が提案していた「国道使用料に関する連邦法改正案」のレファレンダムは、賛成39.5%、反対60.5%で否決された。
政府と連邦議会は今年3月、州道の一部である計400キロを国道に変更する連邦法改正案を成立させたが、この法案の実施にかかる費用は、高速料金の値上げ(現在の年間40フランから100フラン)で賄うとしていたため、国民党や左派の緑の党などが反発。レファレンダムが発足し、今回、国民にその是非が問われることとなった。
政府と連邦議会は、州道の一部を国の管理下に置くことで、近年の人口増加で問題となっていた都市と郊外の道路網整備を改善できるとしていた。だが、それに伴う高速料金の大幅な値上げに関して、国民の同意を得ることはできなかった。
スイス国営放送によると、今回の国民投票の投票率は過去3年で最も高い53%を記録した。
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