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気候変動と若者がスイスの総選挙を動かした

投票箱
2019年の総選挙で、有権者はどの政党を支持したのか? Keystone / Alessandro Della Valle

環境系の緑の党・自由緑の党が歴史的勝利を収めた2019年のスイス総選挙。専門家の調査によると、選挙を動かしたのは都市部に住む教育水準の高い若者たちだった。

調査会社ソトモ外部リンクの世論調査では、緑の党と自由緑の党が草の根運動で最も成功し、新たな支持者を獲得したことが分かった。

国民議会(下院)で緑の党は17議席増、自由緑の党は9議席増と大勝。その割を食ったのは主要政党で、社会民主党は4議席を減らした。また、12議席減の保守系右派・国民党支持者の「心変わり」も如実に現れた。

ソトモのミヒャエル・ヘルマン代表は、今年の選挙の主な争点は気候変動だったと指摘。2015年の前回選挙は移民と対EU関係だった。

調査はスイス公共放送協会(SRG SSR)の委託で実施したもの。ヘルマン代表は同協会に対し「国民党支持者の多くは、一度は有権者に承認されたはずの移民制限に連邦議会が反対したことを嫌い、それが支持離れにつながった」と指摘した。

下院最大勢力の国民党は、得票率で前回比3.8ポイント減。1990年代後半以降上昇を続けてきた中で、20年ぶりの惨敗を喫した。

左派の社会民主党も、100年ぶりの苦い結果となった。得票率は2ポイント減ったものの、政党別では第2勢力を堅持している。

緑の党は6.1ポイント増、自由緑の党は3.2ポイント増と支持を伸ばした。

争点は気候変動一色

ソトモの報告書によれば、過去10カ月間続いた気候変動の議論とストライキが、他の政治的問題を一掃した。

2万人超の回答者のほぼ40%が、温暖化が重要な争点だったと答えた。

同時に、医療保険のコスト上昇も決定的な争点だったと答えた。今回は移民問題よりも、日本の国民年金にあたる老齢・遺族年金(AHV)改革と対EU関係が重要視されたようだ。

4割以上が、議会の政治的勢力図をリセットする時が来たと答えた。下院はこれまで、右派の2政党がわずかに過半数を上回っていた。

新しい時代?

ソトモの報告書は、社会民主党と国民党が負けを喫したことについて、どちらも「支持者の多く」が「年配の世代」に属していると指摘。それが理由で「スイスの政治に大きな変化をもたらした」と結論付けた。

報告書は「2019年の選挙は世代交代のサインだ」としている。

ベルン大学の政治学者アドリアン・ヴァッター外部リンク教授は、この革新的な発言に関しては慎重な立場を取る。ヴァッター氏は、若者、都市部での投票率が高かった点を挙げたが、その一方で全体の投票率は低下した。特に農村部が顕著で、45%にとどまった。

ヴァッター氏はスイス公共ラジオ(SRF)に対し「政治の専門家の多くは、投票率が50%を割るほど低迷するとは予想していなかった」と語った。

ヴァッター氏は、気候変動が主要な争点となった理由として、投票に参加した若者が多かったことを挙げたが、投票率自体は比較的まだ低いと述べた。

また現在の状況は将来、容易に変わる可能性があるとし「移民、対EU関係、国内の農業政策などが関心事の上位に上がって来れば、農村部の投票率が再び上昇するだろう」と語った。

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投票率は年々後退

投票率の低下は、在外スイス人協会(OSA)の懸念でもある。在外スイス人のうち約18万人が、在外選挙人登録をしている。

OSAは、26州のうち10州の数値を基に、投票率が最大10ポイント低下したのは電子投票の制度がないためだと主張する。

OSAは声明で「投票率の急激な低下は、在外スイス人に参政権を認めているスイスにとって大きな後退だ」とした。

OSAは在外スイス人の権利向上のため、電子投票の導入を訴えている。だが連邦政府は今年、サイバーセキュリティ上の懸念と政治的反対から、電子投票の試験的実施を当面見送ることを決めた。

連邦統計局外部リンクは、今回の選挙で在外スイス人の支持傾向をまとめたデータを公表した(下のグラフ参照)。グラフによると、在外スイス人は国内の有権者よりも明らかに緑の党を支持している。国民党はその逆だ。

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ソトモの世論調査

調査はオンラインで実施。2万645人が回答した。

スイスインフォの親会社、スイス公共放送協会(SRG SSR)の委託で、10月18日から21日にかけて実施した。

誤差は項目ごとにプラスマイナス1.1~2.5%。

(英語からの翻訳・宇田薫)

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