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「西側諸国はプーチンの共犯者」反体制政治家カラムルザ氏

Kara-Murza
政治家のウラジミール・カラムルザ氏は3月からロシアで拘束されている swissinfo.ch

対ロシア制裁はどの程度効果があるのか。ウクライナとの戦争でスイスはどのような役割を担っているのか。反体制政治家ウラジーミル・カラムルザ氏に聞いた。

スイスは中立を盾に身をひそめ、プーチンとその側近に抜け道を与えすぎている――。これは、swissinfo.chが取材したロシアの反体制派全員に共通する意見だ。

今回のンタビューシリーズに先立ち、swissinfo.chはロシアの反体制派を代表する人物とコンタクトを取った。政権を批判したことで身に危険が及ぶ恐れがあるため、彼らの多くは既にロシアを出国している。反プーチン派のガルリ・カスパロフ氏はクロアチアへ、企業家レオニード・ネヴズリン氏はイスラエルへ、著名エコノミストのセルゲイ・グリエフ氏はフランスへ退避。反プーチン派で経済学者のセルゲイ・アレクサシェンコ氏は米ワシントンに亡命した。

ウラジーミル・カラムルザ氏はロシアの反体制政治家、ジャーナリスト、映画制作者。殺害されたロシアの野党指導者、ボリス・ネムツォフ氏に支持されていた。ロシア人ビジネスパーソンで元オリガルヒ(新興財閥)のミハイル・ホドルコフスキー氏が設立したNGO「オープン・ロシア」の副議長を務める。過去に2度毒を盛られたことがある。

swissinfo.ch:プーチン大統領の敗北でこの戦争を終わらせるために西側諸国は何ができるでしょうか?

カラムルザ:西側では最近、プーチン氏によるウクライナ侵攻に対するロシアの「集団責任」についてよく語られます。しかし「集団責任」という考えは間違っています。特に公然と戦争に反対したために今日刑務所にいる私たちからすればなおさらです。忘れないでほしいのは、、2月24日から数日間で1万6400人以上が反戦集会で拘束されたことです。

しかし西側諸国の首脳は、ロシアで人権が侵害され民主主義の原則が踏みにじられていることに何年間も目をつぶってきたことも忘れてはいけません。彼らはプーチン氏と友情を育みました。プーチン氏の目を見つめ、ジョージ・W・ブッシュ氏のように「プーチンの魂に触れる」ことができたのです。プーチン氏を公式訪問や首脳会談に招待し、プーチン政権に国際的な信用を与えました。プーチン氏に対して融和政策をとった西側の首脳にも、今日ウクライナで起きていることに対する責任の一端があります。

swissinfo.ch:スイスの役割についてはどうお考えですか?

カラムルザ:プーチン政権の幹部やオリガルヒは西側諸国に通じていましたが、中でも欧州の金融の中心地であるスイスは特に人気がありました。ロシアの納税者から盗んだお金をそこに貯めこむことができたのです。クレムリン周辺にいた人たちは長い間ロシアで盗み、西側で使うことを常としていました。盗んだお金を使うことを許容してきた民主主義諸国は共犯者でした。

このことは、不正や人権侵害に加担したプーチン政権の関係者に対し、個人の資産締結やビザの制限を科す「セルゲイ・マグニツキー法」の例で一層はっきりしました。近年私は各国で「マグニツキー法」制定に向け働きかけてきましたが、西側の政治家や高官、外交官の激しい抵抗に遭いました。

法案支持を表明する国会議員のおかげで類似の法律が欧州や北アメリカの数カ国で可決されました。しかし、ロシアがウクライナで戦争を始めた時、スイスをはじめ多くの欧州諸国でこのような法律がありませんでした。スイスのディック・マーティ議員はセルゲイ・マグニツキー事件に関する欧州評議会議員会議の特別報告者であったにもかかわらずです。

swissinfo.ch:この時、機会を逃したのでしょうか?

カラムルザ:あの時、ボリス・ネムツォフ氏をはじめとしたロシアの野党指導者の話を聞いていれば、今日のようなひどい状況にはなっていなかったと確信しています。ネムツォフ氏はプーチン政権の幹部に対して個人的制裁を科すよう求めていました。もしこれが採用されていれば、現在の状況は全く異なるでしょう。

Ermordung von Boris Nemtsow
2015年2月28日、野党政治家ボリス・ネムツォフが路上で射殺されたモスクワの犯行現場 Keystone / Pavel Golovkin

swissinfo.ch:しかし今日のこの状況を打開するにはどうすればよいでしょうか?

カラムルザ:西側諸国はプーチン氏とプーチン政権が体面を保つことを決して許してはいけません。これが最も重要です。そうでなければ、1~2年でまた別の場所で新たな戦争が起こっているでしょう。ロシア国内が変化することが現在の危機を解決する唯一の方法だということを理解する必要があります。プーチン政権を倒し、市民の権利を守り、国際的に品位ある行動をとる新しい民主的な政府を樹立することです。1つだけ確かなのは、このような変化はロシア社会の手で起こすしかないということです。

swissinfo.ch:それを実現するにはどのくらいかかりますか?

カラムルザ:1905年、1917年、1991年のように、ロシアでは突然、予期しない変化がしばしば訪れます。私たちは今日、明日のことを考えなければいけません。プーチン政権は永遠ではありません。プーチン後、民主主義と自由経済を取り戻すことが重要です。ロシアは再び欧州や国際社会の一員にならなければなりません。私はまだ、自由で、統一された平和な欧州という理想を信じています。しかしそれは、自由で民主的なロシアが参加して初めて可能になるのです。

欧州評議会のスイス代表、ダミアン・コティエ議員は3月、欧州評議会で次のように発言しました。「ロシア政府が欧州評議会を排斥し、今日ロシアが欧州から離れるとしても、いつか帰って来られることを担保しなければなりません。欧州はロシアの故郷であり、歴史なのだから」

インタビューは書面で行われました。
編集:Balz Rigendinger、英語からの翻訳:谷川絵理花

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