冷戦時代、旧ソ連の侵攻に備えてスイスが作った軍の秘密部隊「P26」が、再び脚光を浴びている。この部隊について調査した機密文書の行方が分からなくなっているとドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーが報じた。
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部隊は「26作戦(Projekt26)」と呼ばれ、1950年代、共産勢力の侵攻に備えてスイス軍の秘密組織として作られた。民間人約400人が所属し軍事訓練を受けたほか、スイス全土に秘密の武器庫を保有していた。
1990年2月、議会の調査委員会によってP26の存在が明るみになり、戦後史最大のスキャンダルに発展。議会の調査委員会は、この部隊には法的根拠がなく、政府の監視下の外で運営されていたと批判した。さらにP26と海外組織との関係にも踏み込んだ「コルニュ・レポート(Cornu Report)」と呼ばれる別の調査報告書が出されたが、政府はこの文書を2041年まで機密扱いとした。P26は90年に解散した。
行方が分からなくなったのは、国防省に保管されているはずのコルニュ・レポートの資料で、文書をとじた27のバインダーやファイル。関係者によると「極めて機密性の高い文書」で、関係者の証言、外国の諜報機関および諜報部員の氏名、P26メンバーの個人情報などが含まれる。同紙によれば、議会の監査委員会が国防省に対し、1年以上前からこの資料の行方の所在を問い合わせているが、同省は「当時の責任者に事情を聞き、捜索もしたが、まだ説明できる状態ではない」としている。
歴史家で元左派政党の政治家ヨセフ・ラング氏は「シュレッダーにかけられたか、隠匿、もしくは紛失した可能性がある。偶発的な事故であったとしてもスキャンダルだ」と批判する。
国防省の広報担当者はロイターの取材に、現在、同省と公文書館が文書の所在を確認中だとし「文書が破棄されたのかどうかについては現時点では憶測の域を出ない」と述べた。
「許しがたい」
冷戦下の欧州では、P26のような秘密部隊は珍しくなかった。北大西洋条約機構(NATO)加盟国は旧ソ連などによるワルシャワ条約機構に対抗、旧ソ連の侵攻に備えてそれぞれ極秘の組織を編成していた。
歴史家によると、こうした秘密組織のネットワークにはイタリア、ベルギー、フランス、ギリシャ、旧西ドイツ、オランダの部隊があり、主に米国や英国が支援していた。
スイスはNATO加盟国ではないが1996年、NATOの欧州の政治・安全保障協力のための枠組み「平和のためのパートナーシップ(PfP)」に参加。97年にはNATOの欧州大西洋パートナーシップ理事会(EAPC)にも加盟した。
91年の国の調査では、P26が「国際的な抵抗組織のネットワーク」の一員ではなかったものの、1967年ごろから英国の諜報部員らと極めて緊密な関係を持っていたとした。
連邦政府は当時の報告書で、法的な根拠もなくこのような秘密組織が配備されたことは「許しがたい」とした。
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