軍需品の輸出 再び議論の的に
輸出されたスイス製の武器を最終的に手にするのは誰なのか。軍需品の輸出を規制するスイスの法律は、透明性に欠けるとして専門家の間で批判されている。
ベルン大学とチューリヒ大学が行った調査によると、スイスの軍需品輸出規制法は堅固ではあるものの、それが間違いなく遵守されていることが保証される必要性があるという。
昨年12月、6カ月にわたる禁止期間を経て、カタールへの武器の輸出が再開されたことにより、軍需品輸出問題は再び議論の的となった。カタールへの武器の輸出は、昨年7月以降スイスの兵器製造業者ルアク(Ruag)社製の弾薬が輸出協定に反してリビアに渡っていたことが発覚したために禁止されていた。
しかし、武器輸出の管理を担当する経済省経済管轄局(SECO)は、これを「軍事兵站上の過失」とみなし、輸出の再開に踏み切った。
スイス政府がすべての株を所有するルアクが、3月22日木曜日に発表した年間業績報告によると、同社の収益は2011年、前年比5.9%増の9700万フラン(約88億円)。売り上げの37%、17億7000万フラン(約1600億円)はスイス軍との取引による。
外交政策を専門とするシンク・タンク「フォラウス(Foraus)」の依頼で実施された、「スイス製弾薬の輸出に関する考察-法と実務の相違」と題された調査の共著者であるアレキサンダー・スプリング氏は、カタールへの武器輸出再開の決定や出荷後の検閲に関しては、まだ不明瞭な点があるという。
「出荷後の検閲については何も明らかになっていない。軍事兵站上の過失というだけでは、極端に言えば、カタールのスイス大使館職員が弾薬庫へ出向いて箱の中を見ただけなのか、それとも適格な軍事専門家が検閲を行ったのかは不明だ」とスプリング氏は言う。
経済管轄局の輸出審査部長、シモン・プリュス氏は、スイスインフォの問い合わせに対する返信メールで、輸出後の検閲は行われなかったと述べている。なぜなら「カタール自らが、軍事兵站上のミスによってスイス製の弾薬がリビアの反政府派に渡ったことを、すでに初期の段階で認めた」からだ。
プリュス氏によると、政府の代表者が事の詳細を確認し、状況の打開策について話し合うべく2度にわたってカタールの首都ドーハ(Doha)を訪れた。
さらに「出荷後検閲が行われるべきか否か、また、どのような場合にそれが行われるべきかは経済管轄局が決定する。その手続きと目的は、外交ルートを通じて、出荷先の国と協力して状況に応じてその都度明確にされる必要がある」とプリュス氏は付け加える。
インドへの輸出
反戦主義団体「軍隊なきスイスのためのグループ(GSoA/GSsA)」のトビアス・シュネブリ氏も、輸出された軍需品の最終利用者に関する透明性の欠如が争点であることに同意している。同氏はまた、2011年にインドのオリッサ州(Orissa)およびジャールカンド州(Jharkhand)の警察に対して機関銃や軍事用自動小銃が輸出されたことを強調し、その不透明性を指摘する。
オリッサ州とジャールカンド州はともに、近年ナクサライト(Naxalites)と呼ばれる毛沢東主義ゲリラが率いる過激な反政府活動の拠点となっており、何千人もの人々が犠牲になっている。
2011年の軍需品の対インド輸出額は740万スイスフラン(約6億7000万円)で(2010年は約5億4000万円)、インドは軍需品輸出相手国の16位に上った。
「オリッサ州では、州警察が反乱軍との交戦のために未成年の若者や16歳以下の子どもを雇っていることが分かっている」。シュネブリ氏は、NGO「ヒューマン・ライツ・ウォッチ(Human Rights Watch)」の指摘を引き合いに出す。
さらに「経済管轄局は今後検閲を実施していく方針だというが、武器の最終利用者を特定する調査には人権擁護団体の代表者も同行することを要求する。そうでもしなければ、軍隊や警察は簡単に事実を隠ぺいしてしまうだろう」と訴える。
これに対し、経済管轄局のプリュス氏は次のように反論する。「出荷後の検閲はその国の権限を冒すことになりかねない。第三者の関与は非常にデリケートな案件であり、慎重に考慮されるべきである」
また、オリッサ州とジャールカンド州への武器の輸出は「特殊なケース」として扱うべきだと言う。そして、必要に応じて出荷後の検閲を行うことを契約条件として明記したり、武器が民間人に対して用いられることがないことを証明する書面を要請したりするとよいと提案する。
さらにプリュス氏は「忘れてはならないことだが、輸出される武器の中には、重要人物の保護のために設計され、利用されるものもある」と強調する。
「そうした武器はかなり高額で、取扱いやメンテナンスにも高度の専門知識を要するため、使用するのは訓練を積んだ特殊部隊だ。一般の警官が手にすることはまずない。そうした事情を理解することで、武器が誤用されるという懸念も減少する」
厳しい法律
スイスの法律は、紛争地域や武器が「望ましくない最終利用者」へ渡る可能性がある地域への武器の輸出を明確に禁止している。また、組織的に人権が侵されたり、武器が民間人に対して使用されたりする危険性がある地域への輸出も認められていない。
さらに、平和維持、子ども兵士の禁止、国際法に基づいた行為、スイスによる開発協力なども考慮されている。
スイスは2011年に約8億7270万スイスフラン(約785億円)の軍需品を輸出。2010年の輸出額に比べると36%の増額である。経済管轄局によると、このうち約2億5810万スイスフラン(約226億円)はアラブ首長国連邦への軍事訓練機の売り上げだ。
シンク・タンク「フォラウス」のスプリング氏も「軍隊のないスイス」のシュネブリ氏もスイスの軍需品輸出規制は世界でも最も厳しいことを認めている。しかし、スプリング氏は、現行の法律にはまだ不明瞭な点があり、改正が望ましいと述べ、シュネブリ氏は、法律を適用する上での解釈の余地が大きすぎると考える。
スプリング氏はさらに、武器輸出の経済的効果を疑問視する。スイスの軍需品輸出は国内総生産(GDP)のわずか0.4%を占めるにすぎないからだ。
しかし、経済連合エコノミースイス(economiesuisse)の広報担当ヤン・アッテスランダー氏によると、スイスの防衛産業は高い技術を持った優れた専門家と製品を、ほかの産業界へ供給する重要な役割を果たしている。
スイスの軍需品輸出法では、輸出貿易および契約ライセンスの取得には、下記の事項を考慮することが定められている。
・平和維持、国際安全、地域の安定
・輸出相手国の情勢、特に人権尊重と子どもを兵士として利用しないこと
・開発協力におけるスイスの尽力
・国際社会に対する輸出相手国の品行、特に国際法の遵守
・スイスと同じ国際輸出管理制度に参加する国々の意見
下記の事項に当てはまる場合は、輸出貿易および契約ライセンスは与えられない。
・輸出相手国が国内もしくは国際的な武力紛争に関与している
・輸出相手国が組織的に重大な人権侵害を行っている
・輸出相手国が途上国として現在の経済協力開発機構・開発援助委員会(OECD-DAC)の開発基金受領国のリストに載っている
・輸出相手国において輸出された武器が、民間人に対し使用される可能性がある、もしくは
・望ましくない最終利用者に渡る可能性がある。
2011年7月、スイス製の弾薬が、明らかに規制違反であるにもかかわらず、リビアで使用されていたことが発覚。これによってスイスの軍需品輸出に関する議論に再び火が付いた。
経済省経済管轄局(SECO)は、その弾薬がリビアに流れたルートに関する調査結果を待たず、即座にカタールへの武器輸出を禁止。しかし、同年12月には、原因を「軍事兵站上の過失」とみなし、輸出が再開された。
(英語からの翻訳、徳田貴子)
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