2017年、スイスの世界銀行加盟25周年を記念して会談した世銀のジム・ヨム・キム総裁とスイスのヨハン・シュナイダー・アマン経済相(ともに当時)
© Keystone / Peter Klaunzer
スイス政府は2月、国際開発金融機関に2億9700万フラン(約340億円)を出資する方針を決めた。開発援助で発言権を強める狙いがあるが、拒否権を持つ米国の動きや開発融資そのものに対する強い批判など、道のりは険しい。
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2020/03/04 11:00
国際開発金融機関とは?
国際開発金融機関は複数国家が設立した超国家機関で、金融支援や技術的支援、知的貢献を通して途上国を支援する。民間商業銀行ではリスクが高くお金を貸せない事業にも融資をする。開発銀行は国際資本市場で大量の資金を調達し、融資の借り換えを行う。
スイスは複数の国際開発金融機関に加盟。株主として発言権を有している。
その発言権を維持するため、スイスは世界銀行とアフリカ開発銀行(AfDB)の2つの下位組織への出資額を引き上げる方針だ。
連邦内閣が先月19日、出資額の引き上げに関する通知を公表した。連邦議会で承認を受ける必要がある。
具体的には、連邦内閣が連邦議会に対し、27億5900フラン超の融資を承認するよう求めている。実際は世銀の株1億9770万ドル(約210億円)、AfDBの株9970万ドル分を含めた計2億9730万ドルに出資する。残りは引当金や外貨準備に充てる。
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金は出さないが口は出したい米国
スイスは出資金の引き上げによって、世界銀行の下部組織である国際金融公社(IFC)の憲章の大改定に関わることになる。これまでは事実上、出資比率の多い米国だけが拒否権を持っていた。重要な決定事項に関しては8割の賛成多数が必要で、米国が議決権の約2割を占有していたからだ。
米国自身は増資する気はなく、議決権を減らすことになる。だが拒否権は維持したいため、他の加盟国が可決要件を80%から85%に引き上げることに同意した場合に限り、(他国の)増資を認めると表明した。
「米国は今後も世銀で強い発言権を握っていくため、拒否権をパワーポリティクスの道具として使っている」。途上国支援のシンクタンク「南同盟(Alliance Sud)」のクリスティーナ・ランツ氏はこう指摘する。スイス政府が提案した規約変更もスイス議会の承認を受けなければならない。
根強い批判
開発銀行に対してはさまざまな批判がある。主な論点はこうだ。
いくつかの開発銀行は環境破壊や人権侵害につながるプロジェクトに出資している。南同盟のランツ氏は「スイスが人権や気候変動の分野で重要な改革を進めるよう求める」。スイスがそれを意識して議決権を行使すべきだという。
開発銀行の融資の多くが条件付き。例えば途上国が片務的な市場開放を迫られることがある。
開発銀行の融資や調達契約で儲けるのはスイスの銀行や輸出企業などの西欧の大企業で、地元の中小企業に利益が流れない。「開発銀行は、世銀を支配し途上国市場に参入したい先進国の経済的な利益に左右されている」(ランツ氏)
南同盟の提言書(未公開)によると、国際復興開発銀行(IBRD)が2008~17年の10年間にスイス企業・個人と結んだ契約は約6億5100万ドルにのぼる。IFCは19年、13億ドルをスイス企業と共同出資した。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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