貿易戦争 トランプ戦術は「短期的な政治ギャンブル」
ドナルド・トランプ米大統領が鉄鋼・アルミニウムの追加関税導入を表明して以来、貿易戦争への緊張感は日増しに高まっている。スイスのジュネーブ国際開発高等研究所で通商政策を専門とするセドリック・デュポン教授外部リンクは、長期的には米国にとって悪いニュースになると指摘する。
トランプ大統領は先月初めから、最大の輸入相手国であるカナダ、メキシコ、欧州連合(EU)からの鉄鋼の輸入に25%、アルミに10%の追加関税を課した。先月15日には中国からの輸入にも2千億ドル(約22兆円)相当の追加関税を課すと発表した(訳注:配信日時点で発動済み)。
トランプ氏は大統領選で中国やメキシコなどとの通商条約を大きく書き換えると宣言。各国との侮辱的な通商政策が米国の5660億ドル(2017年)にのぼる貿易黒字の原因だと非難した。
トランプ氏の行動はEUやカナダなど主要貿易相手国から大反発を食らった。両国は先月初め、ジュネーブにある世界貿易機関(WTO)外部リンクに米国を提訴。メキシコは豚肉からバーボンまで、農産物を対象とした報復関税を課すと決めた。
スイスインフォ: EUやカナダは連帯して米国を批判しています。トランプ大統領がそこまでして鉄鋼やアルミニウムに輸入関税を課す本当の狙いは何でしょうか?
セドリック・デュポン: それがトランプ流の駆け引きだからだ。基本的に、トランプ大統領は非常に実務主義。ビジネスにおいて、トランプ氏は友人を持つことを信条としていない。相手が同盟を組もうと関係ない。関心があるのは自国を守り、票を投じた有権者との約束を守ることだ。
そうした戦略は真新しくはない。米国ではジョージ・W・ブッシュ政権も似たようなアプローチをとった。だがトランプ氏ほど乱暴にこうした手法を取った政治家はいない。
トランプ大統領は短期的な政治ギャンブルに出ている。彼が2020年に再選されれば賭けに勝ったと言えるだろう。だが中長期的には米国やそれ以外の国々にとって悪いニュースとなる。
リスクは、もしトランプ大統領がこのまま突っ走れば、1人で全員を敵に回してしまいかねないことだ。まさに1930年代の米国がそうで、米国は完全な敗者だった。今、環境分野で起きていることが比較対象として分かりやすい。米国は片務的な義務を盛り込もうとしたものの、孤立し、すぐさま政治的リーダーとしての立場も失ってしまった。
スイスインフォ: 貿易戦争のエスカレートを懸念していますか?
デュポン: それは常にあるリスクだ。だが思うに、トランプ大統領はこういった類の揉め事に慣れていて、中国を除くあらゆる国よりも厚顔無恥だ。それが彼の行動様式だから。欧州各国がすぐに冷静さを失い、怒ってすぐに彼らの切り札を見せてしまうことを分かっている。
カナダのトルドー首相が米国からの輸入品に130億ドル相当の関税をかけると表明したのも、トランプ大統領にとっては驚きに値しなかっただろう。そして「こっちが力を見せればあっちも力を見せる。そうすれば何が起こるか分かる」と考えるだけだ。だがこうしたやり方は建設的といえるだろうか?
もう一つ、段々見えてきたのは、トランプ氏が決して背水の陣を敷かないことだ。
スイスインフォ: WTOはこうした国際紛争が長期化するのを防ぐことができるでしょうか?
デュポン: 米国はWTOの紛争解決に至るいくつものプロセスに置かれている。一般論として、こうしたプロセスは2年くらい続き、その間に物事は平常化する。だがWTOの助けなく、こうした紛争が平常化できるだろうか?それは答えの出ない問いだ。
EUは例え2年かかろうとも、多国間アプローチをとるべきだと考える。米国はEUから見ればチンピラやごろつきのようなものだ。それはトランプ大統領には効かないかもしれないが、米国内の他の経済主体にはインパクトを与えるかもしれない。WTOにおいてはいつも勝者である彼らがグローバルな通商ルールで負けるのは、米国の利益にならないからだ。
WTOはこの外交ゲームに一種の多国的な制御手段を提供する。それがWTOの最善の手法で、他に選択肢はない。
スイスインフォ: 昨年、スイスは米国にアルミや鉄鋼を約9千万フラン(約101億円)相当輸出しました。スイス政府は米国による関税措置が連鎖的に悪影響をもたらすのではないかと案じています。スイスはどのような余波に直面しているのでしょうか。
デュポン: スイスのように世界貿易に依存している国では、貿易戦争の影響は避けて通れない。もし通商上の緊張関係が悪循環に陥り、市場が神経質になって投資家が投資をしなくなれば、スイスのような国に影響をもたらすだろう。だがそれを数字的に見積もるのは難しい。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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